神都 西ノ宮
龍文書―26
【ウナギ】:皆大好き魚類。その希少さゆえに、値段設定は高め。
「その黒髪に雪のような肌。もしや貴女方は、龍人族なのですか?」
ユキメに背負われ下山していると、一人の少女が物珍しそうに私たちをじろじろ見る。しかしあまり気分は良くない。
「そうだけど」
ユキメの代わりに私が答える。あまり人様の顔を眺めるものではないと、ガツンと言ってやろう。
――――しかし、私たちが龍人族であると知った彼女たちは、頭の耳を嬉しそうに動かしながら明るい表情を浮かべる。
「龍人族やって!」
「私初めて見た!」
「やっぱり綺麗やわあ」
等と、小鬼に捕まっていた事も忘れてしまったのではないかと思うほど、彼女たちは有名人を目の当たりにしたJKのようにはしゃぐ。
「どうして天界から降りて来られたのですか?」
ショートヘアの彼女が問う。
「いや、私の武鞭のために……」
「――天つ神は、やっとで中つ国を平定なさろうと腰をあげたのですね?」
ロングヘアの彼女が問う。
「ごめんなさい、それは知らないです」
「――龍人族の角は、どんな病気も治ると言われているそうですが、それは誠ですか?」
ミディアムロングの彼女が問う。
「それは都市伝説だよ」
「……て、天界はどのような場所なのですか?」
――――ええい、質問が多い! これでは休むどころか余計に疲れてしまう。
そんな私の心情を察したのか、彼女の質問にはユキメが答えはじめる。
「中つ国と比べれば狭いですし、娯楽も何もありませんよ」
ユキメの答えを聞くと、彼女らはさらに盛り上がる。「私の言った通り」とか、「そうやったんや」など、どうやら天界の噂は色々流れている様だ。
「ねえユキメ、白兎族って何者なの?」
彼女らが盛り上がっている間に、私はずっと気になっていたことをユキメにこっそりと問う。だからユキメもひっそりと私に教えてくれる。
「白兎族も、我らと同じ神使にございます」
「そうなんだ。じゃああれが十二いるうちの一つって訳か」
「ええ。恐らくこれからも接する機会は多いかと」
「ふーん」
だからウヅキは私の祝詞に驚いていたのか。それならこれから出会う神使たちも、きっとビックリするに違いない。ふふふ。
そう考えると、私の心も再び激しく燃え滾った。
――――そうして丘を下り、大きな川を越え、ようやく山の麓にまで降りてくると、木々の隙間から青い光が差し込み私たちを出迎えた。
「着きましたよ。あれが私たちの村です!」
目に飛び込んで来たのは、どこまでも続く紺碧の海と、その沿岸に佇む町や村の固まりだった。というよりも、最早一つの大きな街と言った方が正しいだろう。
「うそ、広…………」
山の裾からは壮大で美しい街並みを一望でき、海から運ばれた潮風がよく届く。風光明媚なその景色からは、龍人の里が如何に小さいかが伺える。
「白兎族って、こんなに栄えてるんだね」
「いえいえ、あの町は神都“西ノ宮”です。いろんな種族が集まっているんですよ」
西ノ宮? なら白兎族の村は何処だ?
「ちなみに、私たちの村はあそこです!」
少女が指さす先には、小さな木造の小屋がぽつぽつと、西ノ宮を囲うように集まっており、錆びた煙突からは白い煙が昇っている。
そんな西ノ宮とは比べ物にならない有様を見て、私は何とも言えない気持ちに襲われた。
「あ、ああ」
「ソウ様、顔に出ていますよ」
――――これはこれでリアクションがし辛い。
「それでは案内しますね」
ウキウキでガイドをする彼女には申し訳ないが、私の気分は今一つ乗らなかった。どうせなら西ノ宮を案内してしいものだ。
そんな考えに更けていると、一つの小さな鳥居を見つける。手入れはされているようだが、潮風に当たりすぎたのか、木製の鳥居はひどくヒビ割れている
「ねえウヅキ、あの鳥居は何?」
私が鳥居に指をさしてウヅキに聞くと、彼は嫌な顔せず答えてくれる。しかし、その表情は何処か切なげだ。
「あの鳥居は、天つ神を奉る神社に続いているんだ」
神社に? しかしあの鳥居の大きさからすると、そこまで大きな神社ではないように見える。というか、天つ神って地上からも信仰あるんだな。
「ふうん。どんな神様なの?」
「ごめん、それは僕も知らないんだ」
どこか陰のある表情で答えるウヅキ。しかし、人には人の秘め事がある。そこを詮索するのは野暮というものだろう。なので私もそこで聞くことを止めた。
ふと鳥居の脇に設置された小さな石柱が目に入る。これもかなり寂びれており、表面に掘られた文字が既に読めないくらい劣化が激しい。
「んん、月? ユキメには読める?」
「ふむ。朧、でしょうか。…………残念ながら、私にもさっぱりです」
辛うじて読めたのは、月の部分だけ。“つきへん"なのか“にくづき”なのかは分らないが、信仰の少ない神という事は瞭然だ。
「それよりもさ、僕の村を案内したら、今度は西ノ宮を案内してあげるよ!」
「え、マジで!」
よし、それでこそファンタジー。最初の町を目の前にして生殺しはあり得ない。俄然やる気が出てくるというものだ。ビバ異世界!




