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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
26/202

神都 西ノ宮

龍文書―26


【ウナギ】:皆大好き魚類。その希少さゆえに、値段設定は高め。



「その黒髪に雪のような肌。もしや貴女方は、龍人族なのですか?」


 ユキメに背負われ下山していると、一人の少女が物珍しそうに私たちをじろじろ見る。しかしあまり気分は良くない。


「そうだけど」


 ユキメの代わりに私が答える。あまり人様の顔を眺めるものではないと、ガツンと言ってやろう。

 ――――しかし、私たちが龍人族であると知った彼女たちは、頭の耳を嬉しそうに動かしながら明るい表情を浮かべる。


「龍人族やって!」

「私初めて見た!」

「やっぱり綺麗やわあ」


 等と、小鬼に捕まっていた事も忘れてしまったのではないかと思うほど、彼女たちは有名人を目の当たりにしたJKのようにはしゃぐ。


「どうして天界から降りて来られたのですか?」


 ショートヘアの彼女が問う。


「いや、私の武鞭ぶべんのために……」

「――天つ神は、やっとで中つ国を平定なさろうと腰をあげたのですね?」


 ロングヘアの彼女が問う。


「ごめんなさい、それは知らないです」

「――龍人族の角は、どんな病気も治ると言われているそうですが、それは誠ですか?」


 ミディアムロングの彼女が問う。


「それは都市伝説だよ」

「……て、天界はどのような場所なのですか?」


 ――――ええい、質問が多い! これでは休むどころか余計に疲れてしまう。

 そんな私の心情を察したのか、彼女の質問にはユキメが答えはじめる。


「中つ国と比べれば狭いですし、娯楽も何もありませんよ」


 ユキメの答えを聞くと、彼女らはさらに盛り上がる。「私の言った通り」とか、「そうやったんや」など、どうやら天界の噂は色々流れている様だ。


「ねえユキメ、白兎族って何者なの?」


 彼女らが盛り上がっている間に、私はずっと気になっていたことをユキメにこっそりと問う。だからユキメもひっそりと私に教えてくれる。


「白兎族も、我らと同じ神使にございます」

「そうなんだ。じゃああれが十二いるうちの一つって訳か」

「ええ。恐らくこれからも接する機会は多いかと」

「ふーん」


 だからウヅキは私の祝詞に驚いていたのか。それならこれから出会う神使たちも、きっとビックリするに違いない。ふふふ。

 そう考えると、私の心も再び激しく燃え滾った。


 ――――そうして丘を下り、大きな川を越え、ようやく山の麓にまで降りてくると、木々の隙間から青い光が差し込み私たちを出迎えた。


「着きましたよ。あれが私たちの村です!」


 目に飛び込んで来たのは、どこまでも続く紺碧の海と、その沿岸に佇む町や村の固まりだった。というよりも、最早一つの大きな街と言った方が正しいだろう。


「うそ、広…………」


 山の裾からは壮大で美しい街並みを一望でき、海から運ばれた潮風がよく届く。風光明媚なその景色からは、龍人の里が如何に小さいかが伺える。


「白兎族って、こんなに栄えてるんだね」

「いえいえ、あの町は神都“西ノ宮にしのみや”です。いろんな種族が集まっているんですよ」

 

 西ノ宮? なら白兎族の村は何処だ?


「ちなみに、私たちの村はあそこです!」


 少女が指さす先には、小さな木造の小屋がぽつぽつと、西ノ宮を囲うように集まっており、錆びた煙突からは白い煙が昇っている。


 そんな西ノ宮とは比べ物にならない有様を見て、私は何とも言えない気持ちに襲われた。


「あ、ああ」

「ソウ様、顔に出ていますよ」

 ――――これはこれでリアクションがし辛い。

「それでは案内しますね」


 ウキウキでガイドをする彼女には申し訳ないが、私の気分は今一つ乗らなかった。どうせなら西ノ宮を案内してしいものだ。


 そんな考えに更けていると、一つの小さな鳥居を見つける。手入れはされているようだが、潮風に当たりすぎたのか、木製の鳥居はひどくヒビ割れている


「ねえウヅキ、あの鳥居は何?」


 私が鳥居に指をさしてウヅキに聞くと、彼は嫌な顔せず答えてくれる。しかし、その表情は何処か切なげだ。


「あの鳥居は、天つ神をまつる神社に続いているんだ」


 神社に? しかしあの鳥居の大きさからすると、そこまで大きな神社ではないように見える。というか、天つ神って地上からも信仰あるんだな。


「ふうん。どんな神様なの?」

「ごめん、それは僕も知らないんだ」


 どこか陰のある表情で答えるウヅキ。しかし、人には人の秘め事がある。そこを詮索するのは野暮というものだろう。なので私もそこで聞くことを止めた。


 ふと鳥居の脇に設置された小さな石柱が目に入る。これもかなり寂びれており、表面に掘られた文字が既に読めないくらい劣化が激しい。


「んん、月? ユキメには読める?」

「ふむ。朧、でしょうか。…………残念ながら、私にもさっぱりです」


 辛うじて読めたのは、月の部分だけ。“つきへん"なのか“にくづき”なのかは分らないが、信仰の少ない神という事は瞭然だ。


「それよりもさ、僕の村を案内したら、今度は西ノ宮を案内してあげるよ!」

「え、マジで!」


 よし、それでこそファンタジー。最初の町を目の前にして生殺しはあり得ない。俄然やる気が出てくるというものだ。ビバ異世界!


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