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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
22/202

初陣3

龍文書―21


【妖怪】:山や海などの自然や、思念や災いなどから生まれるもの。一種の神。

「しからば、ここまでで何か質問はおありですか?」


 懇切丁寧な説明のおかげもあり、疑問は殆どなかった。そして彼女は何かを待っているようにその身をうずうずさせているが、私はもう先生とは呼ばない。


「――――ありません!」

「そ、そうですか」


 あからさまに落ち込む龍。同時に部位変化も解くが、元の姿でしゅんとされると、どうしようもない罪悪感に駆られる。


「……では、次は実戦に参りましょう」


 沈んだ気分のまま次へ移ろうとするが、本当に大丈夫なのだろうか? きっと私のお兄ちゃんも、こんな気持ちだったのだろうな。

 ――――待て、いま実戦と言ったか?


「実戦!?」

「はい。まだ不安な気持ちもあると思いますが、ソウ様は十分に龍血を使えているので、私から見ても問題ないですよ」


 肩を落としながらぶつぶつ呟くように言葉を並べるユキメだが、しかし私の心は滾っていた。


 来た来た来た! さっきのクマ戦では不意を突かれたから何もできなかったけど、真正面からの戦いなら、どんな相手でもボコボコにしてやる。


「もちろん! 私にかかれば天下龍だってイチコロよ!」

「その意気でございますソウ様!」


 やっとこさ戦が出来る! ここまでずっとムービーシーンみたいなものだったからな。私の龍眼が疼いて仕方ないぜ!


「で? 私は何と戦えばいいの?」

「それはですね…………」


 ――――場所は変わり、川辺から少し翔んだ山の中腹。そこで私とユキメはある妖怪を見つけ、その後を静かに追っていた。


「あれは小鬼です」


 斜面が緩やかな山の中。夏の暑さが届かない美しい木々の下。聞くだけで涼しくなるようなセミの鳴き声や、鳥のさえずりがこだまする美しい場所。


「キモ、何あれ」


 風光明媚な自然の中で、まるで風景と同化するような土色の肌をした化け物。その妖怪は、生きたままのウサギを掴みながら、なにやら楽し気に山中を歩いていた。


「小鬼は山中に巣を作り、山から降りては家畜や村々を襲う厄介な妖怪です」

「めちゃくちゃ弱そうだけど」


 人間換算で、だいたい五歳児の私より少し小さい。あれに負ける奴なんているのか?


「一匹なら問題ありませんが、奴らの恐ろしい所は、その数と繁殖力です」

「まるでゴキブリだな」


 中世ヨーロッパ異世界で言うところのゴブリン的なポジションか? まあ、最初の魔物なんてそんな所だろうな。


「よし、アイツを倒してこればいいってことね」

「ですが小鬼は、“一匹見たら百匹いると思え”という話があります。注意してください」

「お任せ」


 そう言って私が木の影から出ると、小鬼はすぐさまその気配に気づいた。流石は山の中で暮らしているだけはある。


「悪いな。私の経験値になってもらうぞ」

「何⨧"ᤊ前!」


 神語しんごを解さないのか、小鬼は訳も分からない言葉を私に浴びせかける。だが、それが逆に不気味さを増している。

 しかしそんな小鬼もお構いなしに、私は指を切って血を流した。そして…………。


血一矢ちかずのや!」


 最初に覚えた龍血。木を貫通させるほどの威力はないが、こいつには十分なダメージになるだろ。

 ――――そしてその威力も速度も十分の血矢は、甲高い風切り音を奏でながら小鬼の頭を打ち抜いた。


「よし!」


 まさに一撃必殺。小鬼はそのまま地面に伏し、捕まっていたウサギが山の奥へと消えて行った。


「見事です。ですが注意してくださいませ。奴の仲間が襲って来るやもしれませぬ」


 その言葉に再び神経をとがらせる。しかし聞こえてくるのは、鳥の羽ばたきや木々の騒めきだけで、その他の音は何も聞こえない。


「もういないんじゃない?」


 ――――その瞬間、ユキメが私を抱きかかえる。

 おいおい、嬉しさのあまり声も出ないのか?


「ご注意を」

「え?」


 ユキメの手には小さなボロボロの矢。どこからか放たれたその矢を、彼女が掴んで止めたのだ。

 そして気づけば、私たちは小鬼の群れに囲まれていた。奴らは自らの体色を活かし、森の中に潜伏していたのだ。……迂闊だった。


「数が多いですね。一旦退きましょう」


 退くだって? せっかく経験値の群れが向こうから出向いてくれたのだ、これを逃す手はない。

 私はユキメの腕を振りほどき、再び血の矢を作り出す。


「忘れたかユキメ。私は天才だぞ」


 くう。決まったあ。……でも待てよ、これってもしやフラグなのでは?


 

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