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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
21/202

初陣2

龍文書―20


【天龍体】:完全に龍の姿へ還った者は、もはや神でもなければ龍でもなくなる。自我を取り戻すことはほぼ不可能。

 しまったな。先生と呼ぶのは今後から禁止にしよう。全く物事がはかどらない。


「…………そ、しれでは! それでは、部位変化とは何ぞやという事ですが」


 やっとで話が進んだ。普段は冷静沈着で、全てを完璧にこなす才色兼備のくせに、変なところに地雷があるから扱いづらい。


「部位変化とは、龍の姿を取り戻すことです」

「龍の姿を、取り戻す?」


 先ほどよりは落ち着いたが、ユキメの頬はまだ薄い紅色に染まっている。


「はい。私たち龍人は、普段は神様の姿をしていることはご存じですよね」

 周知の事実だ。

「でも龍人は神の血より、龍の血の方が濃いんだよね?」

「流石、良いところに気付かれます」


 大きな岩の上に座っていても、目線はユキメと変わらない。いつもは下から見上げているが、こうして正面から見るのも良い物だ。


「龍人は完全に龍の姿を取り戻すと、友や恋人。果ては両親にも危害を加えてしまうほど、己を失ってしまうのです」


 家の文献に書かれていた“龍の姿になりし者、もはや神にあらず龍にもあらず”というのはこの事を言っていたのか。さしずめ狼人間やサイヤ人って言ったところか。


「ですから、それを恐れた神々が、産まれてくる龍人には神の姿を与えようと取り決めたのです」

「ふーん。何か必殺技みたいでカッコいいのを想像してたけど、存外ヤバそうな代物だね」


 少し気が抜けた。部位変化なんて言うからどんなものかと想像していたが、使いすぎれば暴発する、まさに諸刃の剣だ


「しかし、しっかりと用法を守れば、龍人は神にも負けぬ力を得ますよ」

「流石に神様には勝てないでしょ」


 私の言葉に、ユキメはまるで敵などいないかのような笑みを浮かべる。


「見ててください」


 彼女が静かに目をつむると、それに反応するかのように木々が騒めきだし、小さな鳥たちが一斉に空へ飛び立つ。


龍頭りゅうとう


 彼女の頭から真っ白な角が天を仰ぐように伸び始める。

 さらに彼女の耳が、まるでエルフの耳のように長く尖る。いつもの耳飾りが別物に見えてしまうほどの変化っぷり。


「どうですか?」


 そう言うユキメの目には、赤い紋様が妖しく浮いている。まるで別人のようだが、その優しい声音は間違いなく彼女の物だ。


「ユキメだよね?」

「もちろんです。ちなみに私たちは、龍の姿に戻る事を“還りかえり"と呼んでいます」


 さっき自分を失うなどと聞いたからだ。私は今、目の前の彼女に恐怖心を抱いている。

 ――――糸のように細く、そして赤く輝く瞳孔。松のように生える立派な角は、普段の彼女を忘れさせてしまう程いかめしい。


「まだまだこれからですよ。よく見ておいてくださいまし」

 

 彼女はそう言って笑うが、その見慣れた口からは牙が覗いている。私の知っているユキメが、ユキメではなくなってしまう様だ。


龍脚りゅうきゃく


 ――――再び彼女の身体が変化を始める。

 すらりとまっすぐ伸びている足が歪み、さらに三十センチほど身長が高くなる。仕舞には袴の裾から、まさに龍の如く鋭利な大爪が姿を現した。


「少し醜いので足は見せたくありませんが、龍の鱗は、如何なる刃も砕く程たくましいんですよ」


 目元に浮かぶ赤い紋様が、先ほどよりも広がっている。恐らくこの紋様は、龍の姿を取り戻す程に赤く、そして妖しく浮かぶのだろう。


 ――――龍人本来の姿と言われるその様は、あまりにも神々しく、そしてあまりにも厳めしい。しかしユキメの声だけが唯一、彼女が正気だと言ってる。


「エモいね。その姿」

「えも?」

「ああいや、すごく躍動的だなって」


 ユキメはいつものように笑って見せる。やはり彼女はどんな姿になろうと、太陽のような不変の美しさを持っている。


「他にも“尻尾"や“腕”も龍に戻せますが、同時に変化するのは二か所までに留めておいた方がいいです」

「それ以上は危険ってこと?」

「そうです。天龍体になってもなお、正気を保った龍人の伝説もありますが、実在したという話はありません」

「注意しろって事ね。りょ」


 ――――さて、それじゃあ、一丁やってやりますか。


 そう意気込んで岩から飛び降りた時、ユキメの大きさに改めて驚く。一七〇近い身長が、二〇〇以上に伸びているのだ。驚くのも無理はない。


「私としても、さっそく部位変化を教えたいのですが、もどかしい事に、ソウ様にはまだ龍玉がありません」


 ユキメは腰を落とし、更には膝をついてようやく目線を私に合わせる。それでもまだ私が見上げなければならない程の高さだが。

 …………ん? 待てよ、龍玉がないと変化できないのか?


「今の私には出来ないってこと?」

「残念ながら」


 生殺し! ここまで見せられてお預けって、そりゃあんまりだ……。


「えええ。何かショック」

「ですがこれで“還り”がどの様なものか、おおよそ把握できたと思います。還りを見せるのと見せないのでは、今後の成長が大きく変わるんですよ」


 要は、普段からイメージトレーニングしろって事か。龍玉が貰えるまであと三十年。ほど遠いなあ。


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