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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第四章 常しえに咲きし妖花
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〇話 二度目の禊

 お久しぶりです。今日からまた少しずつ投稿していきます!


 しかしながら、章が進むにつれプロットの作成が難しくなってきているので、しばらくは筆休めとして、オマケのような展開が続きます。

 

 ごめんちゃい

 山のように大きな鳥居をくぐり、その先の砂利の海を歩けば、遠くの方には幾つもの社が見える。それを入口から見やれば、まるで連なる山脈のようにも見えるのが、天の山腹の特色だ。


 飛儺火の国平定から数年後の冬。私は今、少し遅れて二回目の禊祓に来ていた。尋常であれば七十歳を迎えたらすぐにでも行かなければならなかったのだが、まあそれどころではなかったからな。


「はぁぁ。天界は春かあ、暖かいなあ」


 下界では例年に増して雪が酷く、恐らく私がこの世界に来て一番の寒さであることに誤りはない。そして、天界の領域に位置する天の山腹は、天界同様季節は春なのだが、しかし下界の寒さが影響しているのか、どこか肌寒さを覚える。


「ふふふ、そうですね。しかし、このごろの寒さは異常です…………」

「寒いの?」

「んー。少し冷えます」


 人一倍寒がりなユキメは、天の山腹に来ても羽織を羽織ったままだ。そして右手の袖は侘しそうに靡いている。しかしこれも名誉ある負傷ってやつだ。

 けれどそんな傷の一切も、今の私からしたら愛おしい。ますます彼女を感じたい。だから私はユキメにくっつく。


「ソ、ソウ様…………っ?」

「ふふ。どう、あったかい?」

「お、おお、お戯れがすぎますっ」


 そう言って彼女は、湯気が出そうなくらい顔を赤らめ、そのまま俯いてしまう。

 ああ、可愛いなあ、可愛いなあ。


「ソ、ソウ様は、お寒いのは得意なのですか?」

「ううん。暑い方がマシ」


 十数年前の吾月強襲で、彼女は右目と右腕を失った。しかし身を挺して子供を守ったことが天都で評価され、彼女にはたくさんの褒美が与えられた。もう侍女として労働しなくても十分な程。それでもユキメは私の傍に居てくれる。こうして二回目の禊祓も彼女と一緒に来られたのは嬉しくて仕方がない。


「やや、これはこれは、お待ちしておりましたぞ蒼陽様!」


 海のように広やかな敷地の、その真ん中あたりに設けられた石畳の参道を歩いていると、奥からなにやら沢山の人を引き連れた男がやって来た。


「いやはや、蒼陽姫も七十歳。しかしながら一向に禊祓に参られなかったので、このユイゴは心配しておりましたぞ」


 深々と私に頭を下げる男神。身長は私より小さく、しかし横幅の大きな中年くらいのおっさん。確かこの神様は、初めて私が禊祓に来た時に握手をしてきたおっさんだ。


「お久しぶりです」


 そんなユイゴの後ろには、たくさんの神々が同じように卑しい笑みを浮かべながら、手で胡麻を摺っていた。大方私の機嫌でも取りたいのだろう。しかし今日は一日ユキメと過ごすと決めているのだ。邪魔だてはさせん!


「盛大なお出迎え万謝いたしておりますが、しかしここまでで結構ですので」

「何をおっしゃいますかっ。今では先鉾の一柱して崇められておる、蒼陽姫の御手を煩わせる等、この統括神のユイゴが断じて許しはしませぬぞ」


 前にもこんなやり取りをしたよなぁ。

 このユイゴは、私が七十になった途端、我が家に何度も駕籠を送ってきた。その頃の私は、ユキメが死んだとばかり思っていたから、殺気を込めて、ああいや、イライラしながら送り返していたものだ。


「ユイゴよ、もう我らに構うでない。これは私からの命令ぞ」


 しかし今の私には力がある。天陽様の護衛として任命された、栄誉ある先鉾の一員としての権力がな。天陽様には悪いが、存分に使わせてもらう事にしよう。


「やややッ。これは誠にぶしつけなことをッ。何卒このユイゴめにお慈悲を!」


 そう言ってユイゴが頭を下げると、後ろの老神たちもかいがいしく頭を下げ始めた。まあそれもそうだろう。なぜなら、たった今エンジン全開の車のように、私は神霊を放出させたのだから。


「わかればよいぞー。くるしゅうない、くるしゅうない」


 なんだか不思議な感覚だ。ここに転生してからはどの神様も手が届かないような貴さを纏っていた。しかし今現在、私はその神々が最敬礼をして見せる程の神霊を持っているのだ。


 だが同時につまらなさも感じていた。成り行きとはいえ天陽様の神霊と同化し、今では祝詞も無しに神通力を使えるほどにまでなってしまっているのだから。ゲーム開始時点からレベル99の冒険者とでも言うべきか。


「ソウ様。お時間も迫っておりますし、そろそろ参りましょう」

「そうだね」


 そんなユキメの言葉に促されるまま、私は頭を下げ続ける神々を横目に歩き出す。

 初めて来たときは私が参道の外へと出ていたのに、今では道のど真ん中を歩いている。いや、決して肩で風を切っているわけではない。勝手に他の神々が道を譲ってくれるのだ。


「蒼陽姫。此度の麗しきご拝顔かたじけのうし」

「あはは…………。ども」


 道すがら出会う女神も頭を下げる。


「蒼陽姫ッ、飛儺火平定の件聞き及びました。誠大儀でございました!」

「有難うございます」


 歩けど歩けど天津神に声をかけられる。そのたびに私は言葉を返し、ユキメと共に頭を下げている。

 あーあー、早く官学へ戻って、友達とキャンパスライフを楽しみたいものだ。


 ――――そうして神々の怒涛の挨拶ラッシュもくぐり抜け、ようやくひと段落といった所で、私たちは拝殿の入り口にまで辿り着いてしまった。

 そしてその奥から現れた一柱の神。


「よくぞ参られた蒼陽姫」


 初めての禊祓で私の胸倉を掴み上げた男神だ。目元は糸のように細く、その細身の身長は2メートル程。ぱっと見はイケメンなのに、性格に難のある神様だ。まだクビになってなかったのか。


「お久しぶりです」


 まあ私も天津神。積もる思いもあるところだが、ここは平静に対応しよう。


「まさかお主が、龍神へと神格化されるとは思わなんだ」


 声色から嫌味を覚えることはないが、しかしその言葉にはどこか刺々しさが残る。…………と思った束の間。


「このトウゴ、誠うれしゅうございますっ。私が本殿まで案内した龍人の子が、ここまでご立派になられたのですから!」

「え、ええ?」


 キャラ崩壊とはまさにこのことだろう。あれだけクールぶっていたトウゴが、今では尾を振る犬のように笑顔を向けているのだから。


「四十年前とは比べ物にならない程の麗しさっ、そして抑えても抑えても溢れ出てくる神々しい御神霊ッ。そしてそんな貴女様をこうして再びお迎えできたことは、このトウゴにとっても至福な事にございますぞ!」

「そ、それはどうも…………」


 まいった。まさか一番厄介な奴がここにいたとは。

 そしてそれからもトウゴの激励の言葉は続きに続いた。あのユキメが人前であくびをしてしまうほどに。私ですら滅多に見れない激レアシーンだって言うのに全く。


「――――ささ、まだまだ話したいことも残ってはおりますが、あまり大神をお待たせすることも出来ません故、早速参りましょうぞ!」


 時間にしておよそ三〇分程。「誰のせいだよ」と言ってやりたいところだが、いくら心が強くなったと言えど、性格までは変わらない。


 そして促されるままに拝殿へと入った私は、トウゴの言葉に違和感を覚えた。


「あれ、今回の禊祓も大神がやるの?」

「ええ。聞いておりませんか?」

「うん」


 桜舞い散る美しい中庭にうっとりしながらも、私は初めて知らされた事実に“またか”という感情を抱いてしまった。やっぱり天陽様は適当だ。締まるときは締まるくせに。


「ですがソウ様。いまやソウ様の禊祓を執り行うことが出来るのは、大御神くらいのものですよ」


 ふとユキメの言葉に気付かされる。私はもう龍人ではないということを。そして、今や天陽様に程近い神霊を持つ私は、カーストで言えば結構上位の方に入るのだ。故にこうなることも当然なのかもしれない。


「そっか。確かにそうだよね」

「ええ。ユキメも肩身が広ろうございます」


 まるで一輪の薔薇のような笑顔を私に見せるユキメ。


 ――ああん、もう可愛すぎますぅっ、今すぐ彼女を抱きたい!


 ……私のユキメへの想いは、飛儺の一件からさらにヒートアップしていた。それはもう留まるところを知らない程に。出来る事なら彼女と結婚したい。


「じゃ、じゃあさ、また今夜も来てよ」

「えっ、よ、よろしいのですか?」


 ユキメは今も官学で教師を務めている。しかし仕事が終われば天千陽へと帰ってしまうのだ。私はそれがどうしようもなく切ない。だからたまーにではあるが、こっそり寮に寝泊りさせることがある。しかし未だに、私は気軽にキスも出来ない。ほんとはもっとしたいのに…………。


「さあ、ここから先は蒼陽姫のみ。最後の禊祓ではございますが、気は抜かぬように」

「はい」


 ほんのりと赤くなった彼女の顔にヨダレを垂らしていると、トウゴはせせこましい渡り廊下の手前で立ち止まってそう言った。あの時とは比べ物にならない笑顔で。ちょっと気色悪いぞ…………。


「では行ってらっしゃいませ」

「うんっ。行ってくるね」


 ユキメは相も変わらず動作が洗練されている。そろそろラフなユキメも見て見たい。私が見ていない所では、一体どんな生活を送っているのだろう。


 そうして狭い渡り廊下を歩き、あの頃と何も変わっていない大扉が開ききるのを待つ。初めての禊祓の際、私はどんな気持ちだったのかすら失念してしまった。現世に生まれてから一七年。この世界に産まれて七十余年。心はまだまだJkだが、人間だった頃の記憶はもうほとんど薄れている。



 え。書いてるから筆休めじゃないって?


 まあまあまあまあまあまあまあまあまあまあ

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