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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第一章 八柱の姫君
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禊祓3

龍文書―12


【国つ神】:下界、中つ国で暮らす神々の総称。天都のように統治する神がいないため、種々雑多な思想を持つ。

「ああ、ソウ様! よくぞ無事に戻られました!」


 ユキメと別れた廊下。太陽の神、天陽大神と契りを交わした私は、びしょ濡れの袴を引きずってそこに戻って来た。


「少々お時間が掛かったようですが、大事ありませんか?」


 腰を落とし、目に涙を浮かべながら私を見上げるユキメ。彼女は私の身体を事細かく確認し、契りの際に傷つけた指を発見する。


「血が。いま手当いたします!」


 袴の袖を爪で切り取り、それを私の指に優しく巻き付ける。だが、あの滝行の後にこのテンションは少し疲れる。


「大丈夫だよユキメ。これくらいの傷」

「なりませぬ! この貴いお体に不純物を入れてしまうのは言語道断」


 可愛い。あれだけクールで凛としているユキメが今、私のためにここまで取り乱している。しかしこの世界に来てからどうにも美女ばかりに囲まれる。趣味が変わりそうだ。


「ありがとうユキメ」


 黒みつのように艶やかなその髪に、私はそっと手を置いた。すると傷の手当てに集中していたユキメが、はっとした表情で私を見上げる。


「あ、ああ。身に余る幸福ッ!」


 彼女はそのまま床に手を着き、その頭も同様に床に打ち付けた。ヨウ家ラヴなのは嬉しいが、他人の目があることも知って欲しい。


「して、ソウ様の清く貴い血を口にしたのは、どの神にございますか?」


 ユキメの言葉を聞き、これまで無関心だった糸目の男も、変わらず無関心を装いながら、待ちわびていたかのように薄く目を開く。


「名前が難しい神様だったよ。太陽の神様って言ってたっけ?」

 

 天陽大神だ。しかし私は子供らしさを出すために、あえて言葉を濁した。

 ――――ふふふ。一体どんな顔で驚くんだろうな。さあ見せてくれその痴態を。


「太陽神だとッ!」


 薄く開きかかっていた糸目が、今では誰よりも大きく見開いている。

 そうだろ、そうだろ。お前のボスと私は契約したのよ。


「大御神がなに故このような小娘と!」


 分かる。その気持ちはよく分かる。自分が尊敬して止まない神様が、私みたいなぽっと出と血を交わしたんだ。妻を寝取られた様な気持ちはよく分かる。

 ――――でもだからといって、私の襟元を掴むのはやめてほしい。苦しいから。


「手を離せ」


 私を掴む男神に、声を強張らせたユキメが立ちはだかる。それなのに私は、ユキメが怖くてその顔を見られない。

 神が配分を間違えて作った様な顔が、今どのように歪んでいるのか。気にもならないし、気にしたくもない。


「ユキメ、大丈夫ッ、退がって!」

 私の必死の声掛けも届かず、振り絞った言葉は虚しく空に散る。

「……う、うぬは、自分が何をしているのか、分かっておるのか?」


 そう言う男の額には汗が伝う。目線はバラバラで、一か所に留まらず泳いでいるが、それは決してユキメの顔には向かなかった。

 

 ――――しかしこれは不味い。いくら位が低いとは言えど、相手は天つ神あまつかみだ。ユキメを止めないと彼女自身に処罰が下される。


「台下こそ、大御神の神使に無礼を働いておるのが分からぬのか?」


 ユキメの言葉を聞くと、男神は面白くなさそうに舌打ちをし、そのまま私を掴む手を離した。

 

 ……でもちょっと待てよ。糸目の男神はユキメの言葉に何も言い返さなかった。もしかして今のあたしって、神様レベルに偉い感じ?


「…………失礼を致した」


 めっちゃ悔しそうだなあ。そんなに偉いのかあの神様は。ゲームで例えるなら、ガチャで激レア引いた感じか?


「お聞き入れ感謝申す。……さあ、参りましょうソウ様」


ユキメは男神に最敬礼をすると、今度は私の手を引いて歩き出す。いつも通りの美しい顔で微笑みながら。


 そうして拝殿を出ると、石柱の上から私を見下ろしていた狛犬が、今では手のひらを返したかのように地べたで首を垂れている。怖かったはずの顔も、今ではまるで子犬の様だ。


「ねえユキメ。天陽大神はそんなに偉い神様なの?」

 行きとは違い、どこか満足そうな表情で歩くユキメに私は問う。

「ええ! それはもう貴い神にございます。この世で、大御神より位の高い神は存在しません……」


 嬉しそうに話すユキメを見て、私の気分も少し和らいだ。ずっと不安だったけど、彼女を失望させずに済んでよかった。


「そしてその品位の高さ故、大御神と契りを交わせた神使は、この世に一人としていませんでした。流石はヨウ家の御子であります!」


 この世界であたし一人!? 待て待て待て。という事はつまり、私は現時点で最強の龍人になったって事なのか? 


 それはそれで…………。


「――――激アツすぎるぅ」


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