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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第三章 国滅ぼし
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得体の知れぬ神霊

 ――――天界の世、天都。飛儺の国陥落の一報を真っ先に受けたのは、他の誰でもない天陽大神だった。

 援軍を送る事も無く、期待以上の成果を生んだ二柱に喜んでいた彼女だったが、しかし同時に、遠征から帰って来た蒼陽の顔と、その細かい報告をシンから受け、彼女は深い悩みを抱いていた。


「報告。飛儺を落としたことにより、尾牧をはじめとた飛儺火の国々は天都に平伏。さらに万を超える龍狩りの部隊も、飛儺火を脱し現在北上しているとのことです」

「分かった。ご苦労だった」

「は」


 東の大国飛儺火の、その中枢である飛儺を落としたことで、現在の天都は大いに忙しかった。

 天陽はこれからの飛儺火をどう統治するかを考え、その間にも絶えずやってくる神々の報告によって、情報は常に更新されていく。


「我が君、報告いたします!」

「うむ」


 先ほどと同様、若い男神が襖を開ける事無く、その奥に鎮座する天陽に情報を持ってくる。


「飛儺火陥落により、その属国が次々と天都の統治下に入ると文を送ってきております」

「全てに返事を書き、使者と共に送らせろ」

「は!」


 こうなれば天陽は休むことを知らない。方々へ送るための文を作成するべく、幾枚もの和紙や筆を動かし、更には飛儺火をどの神に統治させるかなど、その思考は散々。だが常にあるのは蒼陽への気がかり。


「ところで、蒼陽はまだか?」

「は、現在こちらに向かっておるとのことです」

「分かった。着いたらすぐに知らせてくれ」

「御意」


 彼女は書斎で一人仕事をこなしているが、その部屋の外では大神をサポートするための従者が常に待機していた。


「大神。シンです」

「入れ」


 飛儺の平定から半年の今日。怪我の回復も終えたシンは、天陽からの呼び出しに応えるべく社へと参上していた。


「シン、今一度聞きたいのだが、蒼陽は確かに別の神霊を宿しておったのか?」


 飛儺火の地図を眺めながら、天陽はシンに問う。


「はい。して皇神は、蒼陽姫が他の神と契約することを赦していたので?」

「いや、蒼陽が契約しているのは余だけだ」

「ではあの神霊は…………」

「うむ。先の戦闘で覚醒したのか、蒼陽は真に神へと昇華したのやもしれぬ」

「しかし、いち龍人が放つに神霊にしては、あれはあまりにも貴いもの。一体、姫は何者なので?」


 口を紡ぐ天陽。この時のシンには、彼女が何かを知っている風に見えたが、同時に何も分からないと言った様子も感じられた。その曖昧さが、余計彼女の不安を煽った。まるで目隠しをした〇×クイズのような。


「今の段階ではまだ何も分からぬ」

「後に分かるという事でございますか?」

「恐らくはだが。して他にも、その神霊からなにか感じたものはあったか?」


 その問いに答えるべく、シンはあごに手を添えて考える。あの時、飛儺の村で感じ取った神霊について。


「あれは、何と申すべきか」

「よい。有りのままを申せ」

「は。私が感じた時は、どことなく大神に似ているようにも感じました。定かではありませぬが、大神の神使ゆえの事だと思いまする」

「ふむ。余の神霊にか…………」


 そう言って彼女はようやくその口元を綻ばせて見せる。そして物柔らかな口調に変えると、こう言葉を続ける。


「それより、蒼陽とは上手くやれたか?」

「えっ、…………それは」


 確かに最初よりかは距離も大分縮まったが、しかし蒼陽の人ならざる風貌を目の当たりにした彼女は、最早そう言った感情を持つことさえできずにいた。


「あ奴はお主とはまた違った性格じゃからの。余も心配はしておったが」

「はい。ただやはり、今回の一件は彼女にやらせるべきではなかったと、私は思っております」

「お主にそう思わせる程、蒼陽は変わってしまったのか?」

「ええ。いくら大神の神使とは言え、纏いも無しに誰かを殺めるなど、まだ早すぎたのではないでしょうか?」


 一切の感情を表に出さず、次々と龍狩りを殺していった蒼陽の顔を思い出すと、自然とシンは視線を落としてしまう。


「じゃが、蒼陽は普通の子供とはまた違う。姿は子供でも、その御霊は我らにも引けを取らぬ」

「では今回の事は正しかったと。そう受け止めておられるのでしょうか?」

「神とは元来、人々に救いを与えると同時に、また多くの命を摘み取る存在。それが災害であれ、戦であれ、いずれは通らねばならぬ道だ」

「姫の御霊は、龍人から神に変わりはじめているということですか」

「そうじゃ。その一線を越えた証が、今回シンが感じた神霊はないかと思うておる」

「という事はつまり…………」


 ――――と、シンがここまで言いかけると、襖の奥から再び声が入り込む。


「大神、蒼陽様がお着きになられました」

「相分かった。しばらくは誰も通さぬようにしてくれるか?」

「畏まりました」


 蒼陽が天都に呼ばれていたことを知らなかったシンは少し動揺する。彼女は飛儺から帰還してからというものの、一度として蒼陽に会っていなかったからだ。


「蒼陽姫がこちらに?」

「そうじゃ。シンも会っていくか?」

「ああ、いえ。私はここで失礼させてもらいます」

「そうか。呼び出しておいてすまなかったな。今日はゆっくり養生してくれ」

「ありがたきお言葉。痛み入ります」


 そうしてシンが退場し、その数十分後に蒼陽が天陽の部屋に訪れる。

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