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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
110/202

嫌だ嫌だ嫌だ


「月・黄金・神憑き」


 先ほどから感じていた、心臓を握りつぶすような恐ろしい感覚は、彼女の纏いによって発せられていたものだと気づいた。


「おおおお。いい時に降ろしてくれたねぇ」


 何か、呼び出してはいけない者を、巫女は呼んだのだと肌で感じる。その姿、形、毛先からつま先までの全てが変わらずに見えるが、その纏う気配は、完全に別の物だった。


「アラナギ、アラナミ。まだ雑魚が残っているのに此方こなたを呼んだのは、しっかりとした理由があってのことで?」


 不覚にも、その発せられる言葉を、私は貴きものに感じてしまう。見た目はただの十代少女に見えても、その神霊は偉大なる御霊そのもの。

 ――――そして、巫女に対して最敬礼をして見せる兄弟。


「我が君、申し訳ありませぬ。思ったほか時間をかけてしまいました」

「まあ構いませんわ、こうして此方が降ろされたことで、この事実が天都にも知られ、きっとお姉さまが此方に会いに…………」


 手を胸の前で組み、甘い青春に身を捩らせる少女のように、巫女は笑う。


「アアッ! 来た、来る! お姉さまがこちらにやって来ますわ!」

「…………大神の気配が」


 カナビコが感じたように、私もその気配を感じた。間違いない、私たちの太陽がここへ来る。


「ユキメ、今止血するね!」


 その晴れ晴れしくも堂々たる存在に、誰もが体を強張らせる中、私はその隙を見てユキメの腕を縛る。


「申し訳ありません。これではもう、あなたを抱くことが出来ません」

「何言ってるのよ。片腕があれば私は十分だよ」


 アマハル様が来てくれる。助かる。これで、みんな無事に帰れる…………。


「ああああ! お姉さまァァッ!」


 狂った様に巫女が叫ぶ。そして同時に感じるは、いつも私たちを照らしてくれる崇高な暖かみ。


「嫌な神霊を感じると思ったら、やっぱりお前か、吾月」


 西日に照らされ、後ろで束ねた黄金色の髪をなびかせる影。その声は豪勢たる神々しさを孕み、纏う袴からは圧倒的な無敵を感じる。


「おい、じじい。これはどういうことだ」

「お主も来おったか、オクダカ!」

 さらにアマハル様は、剣神オクダカをも天都から連れて来ていた。

「なんでアラナギがここにいる。しかも二柱も」

「分からぬ。双神と言っておったが、真かどうかも怪しいものだ」

「荒魂でもなさそうだしな」


 やはりオクダカも、兄弟の事を知っている風だ。やはりアラナギは元天津神。それが何故か敵の国つ神の味方をしているのだ。


「お姉さま、お姉さま、お姉さまッ! お会いしたかったですわ!」


 巫女が宙に浮かぶアマハル様に飛び掛かろうとするが、彼女はそれを、コバエでも叩くように回避する。


「答えろ吾月ごがつ。何しにこっちへ来た」

「お姉さまったら、昔と変わらず、恥ずかしがり屋さんですのね」

「――――答えろッ!」


 初めて見る怒りの表情。いつもおおらかでヘラヘラしている大神が、本気で怒っているように見えた。

 それにしても、アマハル様をお姉さまと言っているアイツは、一体何なんだ?


 嫌に微笑む巫女は、滞空するアマハル様に視線を合わせると、その口元を三日月のように曲げる。


「嫌ですわぁ。ただの戯れですよ。お姉さまが葦原を平定なさると聞いたので、その檄を飛ばしに参りましたの」

「その割には、随分と手荒な真似をしてくれたな」

「ええ、ええ、ええ! ですがそのおかげで、こうしてお姉さまとお会い出来ました」

「どうやら、もう一度殴らねば気がすまぬようだな」

「ひひひ、お手柔らかにどうぞ」


 天陽様に全く物怖じしない巫女。むしろ太々しいその態度は、大神を煽っているようにも見える。果たして本当に、私たちは助かったのだろうか?


「じじい。俺の腹はまだ癒えてない。電光石火は、一回しか使えねえぞ」

「…………そうか。やはりまだ、厳しいか」


 ――――オクダカとカナビコの弱弱しい声。ふと見ると、オクダカは痛々しく腹を抑えており、さらにその顔には、血の気が無いようにも伺える。


「ひふみ。吾月がおる以上、余は主らを守れきれぬかもしれん」


 その言葉は、一番聞きたくない言葉だった。一度訪れた絶望が、眩い光によって消え去ったと思ったら、それは再び顔を覗かせた。まるで月が、雲からその姿を現すように。


「イッヒヒヒヒヒ! 流石お姉さま! 自分のことは、自分が一番知っていますものねぇ!」


 向かうところ敵なし。まさにその言葉通りに笑う吾月。しかしなぜ、彼女がそこまで揺るがない自信を持っているのか、私はまったく理解が出来ずにいる。


「アマハル様、どういうことですか?」

「ひふみ。酷な事を言う様じゃが、友かユキメ、どちらかを選べ」

 ――――何を、言ってるの?

「なに寝ぼけたこと言ってるんですか? 先鉾と一緒にサクッと片付けてくださいよ」

「すまぬ。今日じゃなければ、こんな事にはならなかったのだが」

「いひひひひひひひひ! あああッ、痺れますわ! お姉さまのそのお顔。その惨憺たる表情!」


 アマハル様は眉根をひそめ、まるで打つ手なしと言った様子で汗を流す。――――そして私が、彼女のその表情に例えようもない恐怖心を抱いていると、突如世界に闇が訪れる。


「…………そんな、まさかそんなことって」

 私は、その光景を見て、全てを悟った。

「カナビコ! オクダカ! 子供らを早く運べ!」

「…………御意ッ」


 ほんのつい先ほどまで、さんさんと世界を照らしていた太陽が、その端から齧られるように欠けてゆく。


「…………皆既日食」

 こいつら、この日を狙って?


「ひひひ。さあ、お姉さま、ほんの束の間ですが、ここから先は此方の世界。ようこそ、夜の国へ」


 私たちの太陽は、その漆黒たる月によって食われ、まるで全てを飲み込む特異点のように、その姿を深淵の星へと変えていった。


「選べひふみ! 二人は守れぬぞ!」


 カナビコが私を抱きかかえる。そうしてオクダカはウヅキを抱え、恐らく最後の電光石火を使う。残るはユハンとユキメだけ。


「アラナギ、アラナミ、誰一人逃がしてはいけませんわよ」

「――――時間が無い、ひふみ早くッ!」


 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。


 ユハンを置いていくべきか? 彼女とはまだ出会って数日。ユハンが死んでも……………………。ユハンが、死んでも?


「――――ぉえッ!」


 口から噴き出る吐しゃ物。常世の国で食べた昼が出てきた。――――だって、ユハンはまだ死ねないでしょ。死んじゃだめだよ。


 じゃあユキメが死ぬべきなの? 

 いや、彼女ならきっと、アマハル様と一緒に生き残ってくれる筈。だってユキメは強いし、さっきだって兄弟を追い詰めてたし…………。

 そうだよ。きっとアマハル様も守ってくれるよね?


「ソウ様…………。私なら、心配に及びません」


 腕も無く、尾も切られ、角は砕かれ、彼女はとても、もう戦える状態ではない。しかしそれでも彼女は、私に微笑んで見せた。いつも私に見せるあの笑顔。誰でも骨抜きにしてしまう、妖艶な笑み。優しくて、心強くて、いつも私を支えてくれたあの笑顔。


「アラナミ、そこの縁切りの神使を殺してください!」

「あいよ」


 アラナミの凶刃がユハンに迫る。アマハル様は吾月に睨まれ動けずにいる。ユハン、ユハンは、死にたくないよね?


「……………………いやだ、ユキメ」

「ではユキメ殿を、お運びいたす」


 その言葉を聞いた時、私は心の底から安堵した。これでユキメと一緒に居られる。これからも一緒に、いつもの日常を歩めるのだと。そう思った。

 でも同時に、脳裏にはユハンとヒスイが浮かび上がる。彼女らと過ごしたのはほんの少しだけど、この六十年間に匹敵するほどの衝撃を私にくれた。でも明日から、ユハンの姿はない。ヒスイはきっと悲しむ。タライも、ウヅキも、チヨも。


 ――――私にどちらを選ぶかなんて出来ない。ただ私は、気付けば流れる涙のままに、その名前を口にした。


「ユハンを」

「今何と!?」

「…………ユハンを運んで」


 その瞬間、ユハンの身体は光に包まれ、アラナミの刃が一歩届かぬところで、その姿をこの場から消した。――だが代わりに、アラナギの太刀がユキメの片目を突き貫く。その刃は、最後まで貫くことなく、半ば途中で折れたが、きっと天陽様が守ってくれたのだろう。でも、明らかに、それが最後の手助けに見えた。


「…………ユキメ。ゆきめ」


 アマハル様は吾月を相手にし、さらに手下と思しきもう一柱も相手にしていた。存分な力も発揮できず、更に二柱を相手にするなど、天陽様にとっては最悪な形なのだ。


 でも最後の最後まで、ユキメを守ってくれたのは嬉しかった。流石は私の神様だ。


「嫌だよユキメ、立ってよ。立って今すぐ逃げて」


 そうして私の身体は、カナビコの神通力で足元から風に変わってゆく。それは凄まじい速度だが、この人生で一番長い時間に感じた。


「ユキメッ! お願いだからッ!」

「ソウ。…………さよな」


 ――――最期、ユキメが私に言った言葉を、私は確かにこの耳に聞き入れた。片目を突かれ、その目から血とも涙とも捉えられる雫を流し、アラナギの白刃が喉元に迫る中、彼女は最期、そう言って微笑んだ。

 

 私の身体が完全に風となり、ユキメの言葉を、最後まで聞くことは出来なかった。


「ッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ! いやだぁ! ユキメッ、嫌だ嫌だッ! 嫌だよッ! いやぁッ! ユキメ! ユキメッ!」


 風から戻ると、私は官学の大手門にいた。

 そこでは私が叫んでいる。

 ヒスイ、ユハン、ウヅキ、カナビコ、オクダカ。しかしそこにユキメの姿はない。天陽様はきっとまだ戦っている。


「じじい、俺はもう動けそうにねぇ…………」


 オクダカの身体は、残った電気を纏いながらその血を噴出させている。よく見ると、お腹からも血がにじんでいる。


「ワシは戻る。お主は休んでおれ」


 そう言ってカナビコは再び風になって消えた。彼が行ってくれたのなら、私も安心だが、ユキメは、ユキメはもう。


 もう? まだ死んでなんかいない! きっとまだ生きてる! 生きて、私の元に帰って来てくれる。だって、ずっと傍に居るって…………。


「――――龍昇ッ!」

「おい! …………戻れッ!」


 私が龍昇を使って足を浮かせると、オクダカがそれを止めた。そのせいなのかは分からないが、彼は空中で私を止めたあと、力尽き、そのまま地面に伏せる。


「おひい、いや、蒼陽姫、お前が行っても、もう終わってる頃だ」

「……………………いやだッ」

「太陽が戻ったんだッ! 吾月も、双神ももういねえ、気配が消えたから分かる!」


 私の脚を掴んだまま、オクダカは顔を上げる。


「いやだッ! ユキメが死んじゃう! 私もいきたいの!」

「駄目だッ! お前が選んだんだろッ」


 私が選んだ。そうだ。私がユキメの死を選んだ。彼女の最期の笑みは、いつもの、私を褒めるような笑みだった。

 私が何かするたび、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

 一緒に団子を食べた時も、初めて天の山腹に行った時も、禊祓から帰って来た後も、小鬼を倒した時も、それからもずっと、私の傍で、彼女は笑顔でいてくれた。


「嫌だよ、ユキメ。あたし、まだ一緒にいたいよ。だってまだ、貴女に。…………いやだ、オクダカお願い、私もいかせて」

「無駄だ。もうすぐ、じじいと大神も戻ってくる」


 その言葉通り、それから数分して、私の視界に光が注ぎ込まれる。初めて禊に出向いた際に見たあの光。でも少し、弱っている。


「皇神!」


 現れたのは、口から血を滴らせたアマハル様と、全身に切り傷を負ったカナビコ。その二柱だけ。


「――――ユキメは! ユキメは何処に!?」

「……すまぬひふみ。ユキメは、遺体の損傷が激しく、とても見せられるものではない」


 呆然と立ち尽くし、その視線を空へ放ったカナビコを他所に、アマハル様は脇腹を抑えながらそう言った。彼女のその弱り切った姿は、その戦いがどれだけ苦しい物だったかを語っている。


「…………そんな、そんなぁ。嫌だぁ、いやだよ」

「ひふみ。残念じゃが彼女は、もうおらぬ」

「あああ……。そんなの嫌だ。嫌だよ。…………あいつら、殺してやる。絶対ッ」


 片膝を着き、項垂れる私の背に、天陽様は優しく手を置いてくれた。


「あ、あああ! なんと言う事!」


 ――――その声と同時に現れたのは、ズイエン学長とシロギ副学長。


「大御神様、お怪我の具合は…………ッ」

「今は余より、他の者の治療を頼む」

「は、はい!」


 あのズイエン学長が取り乱している。


「蒼陽姫…………。」


 カナビコが私の傍で腰を下ろす。

 もう私は、何もしゃべりたくない。もう何もする気が起きない。もう生きる気力も無い。死なせてほしい。ユキメがいないんじゃ、私はもう息も出来ない。


「――――お主はこれから」

「カナビコ、今は蒼陽を休ませてやれ」

「……………………は」



 ―――それからのことは、よく覚えていない。

 ただひたすら泣いたことだけは覚えている。

 けれど、どれだけ泣いたのかは覚えていない。最期、ユキメが何を言ったのかは覚えているが、そのあと私は何て返したのか分からない。でも彼女の笑顔は覚えている。いつも見せる泣き顔も覚えている。食べ物を頬張っている顔や、いつも下から見上げていた顔や、彼女に唇を重ねた時の顔も。


「いやだよユキメ! 俺はまだ、お礼も言えてないんだぞ! ユキメ。帰って来てくれよ、ユキメッ!」


 お葬式の時、兄のフウが一番泣いていた。空っぽの棺桶だけど、彼はその棺桶に突っ伏したまま、何時間も泣いた。


 ――ユキメの遺体は、とても見せられるものではないと言って、アマハル様が天都で供養してくれた。いつもと違う神妙な顔つきで、彼女は私に遺灰を渡してくれた。

 だがその時の天陽様も傷だらけだった。きっと最後まで、ユキメを守って戦ってくれてたのだろう。


 ユキメの遺灰は、天千陽の奥。龍の胸椎の、さらに奥に位置する霊園。彼女の両親が眠るお墓の中に入れてあげた。


「…………ねえ、ユキメ。最近また寒くなって来たよ」


 私は毎日のように御墓へ行った。官学を休んでいる間は一日中。そして復帰してからも毎日のようにお参りに行った。


「……そう言えばね、ユキメが好きだった団子屋さん、無くなっちゃうんだって。ヒドイ話だよね」


 毎日、毎日。来る日も、来る日も。雨の日も、風の日も当然のように行き、私はそこでずっと話していた。


「…………ユキメ、本当はあのとき渡そうと思ってたんだけど、渡しそびれたから、今渡すね」


 彼女の御墓に、私はあのとき呉服店で買った髪飾りを置く。ほんとはサプライズのつもりで隠していたのに、こんな形になってしまった。――本当に私は駄目だ。


「あーあー。もう一年生も終わっちゃうよ。憧れの共学だったのに、結局何もしないまま終わっちゃった。ほんと最悪」


 返事が来ることなんてない。けれど、私はついつい期待して話してしまう。神様がいる世界なんだから、きっと幽霊もいるはずだと思って。


 でもそう思うだけ虚しかった。お墓に行っても、家に帰っても、学校へ行っても、ユキメはそこにいない。どこにもいないのだ。私はもう、独りぼっちだ。


 会いたいよユキメ。会いたいよ。どうすればいいの? 私はこれから、貴女なしでどうやって過ごしていけばいいの? ねえ、教えてよ。なんで、なんで。あの時、ずっと傍に居てくれるって言ったのにさ。


「ユキメ。お願いだから…………もう一度だけ」


 あと一度だけでもいいから、私に笑って欲しい。手を繋いで、ご飯を食べて、一緒に歩いて。また一緒に笑いたいよ。


「ユキメっ。ユキメッ!」


 ――――どれだけ泣いても、どれだけ笑っても、何を食べても、貴女がいないと思うと、私はとても退屈で仕方がない。

 本当は私も、直ぐにユキメの後を追うつもりでいた。けれど、両親や友達の姿がそれを引き留める。

 それにまだ、ユキメの仇も取れていない。もし仮に死ぬとしても、アイツらを殺さない限り、私は死ねない。


 もう何日も、そのダサい想いをぶら下げてここに来ている。


「ユキメ、今日も来たよ…………」


 気づけばもう、あれから十年。私は本当に、今日まで息をしていたのだろうか。ムカつくほど変わらない日常に、私は死んでいた。


「口に合うか分かんないけど、新しいお店の団子持ってきたよ」


 そう言って、私が団子を置こうと墓前を見ると、そこには見覚えのないお供え物があった。

 いつもは団子や榊、金木犀の枝といったものばかりなのに、今日は一本の真っ赤な菊が備えてある。


「…………誰だろ」


 それは他の花のように立てられているのではなく、まるで拾ってくださいと言わんばかりに、寂しそうに横たわっている。


「蒼陽姫」


 ――――声。

 振り返るとそこには、カナビコが花束を持って立っていた。見た目は厳つい老人の癖に、無駄に花が似合うから驚きだ。


「なに」

「わしも、墓前に参ろうと思っての」


 腰を庇いながらゆっくりとかがむ翁。そうして彼は、花を一本一本、丁寧に手向けて行く。どれも上等そうで美しい。


「いつまで、ここでこうしておるつもりじゃ」


 ユキメの墓前に手を合わせ、カナビコは少し頭を下げるとそう呟いた。私はただ放っておいて欲しいのに…………。

 

 そうして彼の問いに答えず、ただ沈黙を貫いていると、カナビコはゆっくりと膝に手をついて立ち上がる。


飛儺ひだの更に北。その砦のような山々に囲まれた盆地に、奴らの村がありまする」


 意味は理解できた。

 私は今日までの十年間を、ただひたすらそれに費やしていたのだ。あの日、あの時、楽しそうにユキメをいたぶったアイツらに復讐するために。私は、ただただ遮二無二にアイツらを探していた。


「分かった」

「しかし、危険ですぞ」

「うるさい」


 見ててねユキメ。

 私があの二柱を殺すところを。足元からじっくりと燻るように苦しませるところを。もう殺してくださいと懇願されるまで、私が奴らの足元から切り刻むところを。アイツらがユキメに許しを請うまで、私は殺すから、しっかり見ていてね。


 ――――多分、しばらくは貴女のお墓に来れないだろうけど、それでも、ずっと私の傍で見守ってください。あの日、私に約束した時のように。

 手を繋いで、見上げれば微笑み返してくれた毎日のように。

 いつも通り、私の斜め上の方から、ずっと。








ここまでのご愛読ありがとうございました


 二章は思ったほか長くなってしまいましたが、それでも最後まで読んでくださった方々には、深くお礼申し上げます。


 三章はまた時間ができ次第、ゆっくり執筆していこうと思います。


 その時まで、この物語を少しでも記憶して頂ければ幸いでございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 2章お疲れ様です。一気に重くなりましたねー。個人的にもユキメとソウの絡みは好きだったので今はなんとも言えませんが、3章ではソウがまた笑えるように願ってます。
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