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龍人の子、陽の元に堕つ  作者: 麗氷柱
第二章 不死の呪いと死なずの少女
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楽しい旅行は最後の旅路

 ――――そうして私は、天都で得た出来立てホットで激アツな情報を引っさげ、榮鳳官学に舞い戻ってきた。

 そして、月上院の談話スペースで、ヒスイ、ユハン、カナビコ、ウヅキ、タライの全員を集め、ドヤ顔で言い放つ。


「常世の国だ!」と。


 案の定、もれなく全員が私に奇怪な目を向ける。もちろん私も、この名前をアマハル様から聞いた時、皆と同じリアクションを返した。


「確かに、我が君がそうおっしゃったのか?」


 皆と一緒にリアクションをして欲しかったので、私はあえてこの瞬間まで彼には黙っていた。――もちろん大成功。


「そんな国は聞いたことないけど…………。大御神様が言うのであれば、信じるしかないけど」

「はぇぇ。なんか怖くなってきたよ」


 とヒスイとユハンも怖気づく。


「常世の国。ボクも聞いたことないな」

「常世の国ぃ。にわかには信じられないなぁ」


 ウヅキも素直に顔を青ざめさせる。そしてタライは、やはり鼻たれ坊主だ。


「蒼陽姫、我が君は他にも、何か言っておられましたか?」

「んっとね。確かその国は、海の向こう側にある異世界で、不死やら若返りやらの噂が絶えないんだって」


 そう。この私、この異世界に転生しても尚、別の異世界へ行こうとしてる。一周回って現世に帰れそうだ。


「それで、その国がチヨヒメと何の関係があるっていうの?」

 ――――鋭い突っ込み。流石は優等生ヒスイ。

「チヨヒメが言うには、お父さんが捕った人魚の肉を食べて呪われたって言うけど、アマハル様が言うには、チヨヒメは常世の国の住人なんじゃないかって」

「んー。でもでもぉ、じゃあどうしてチヨヒメは中つ国にいるのぉ?」


 わざとらしいと感じない演技力。二面性の鬼であるタライが鼻をすする。


「それは…………。分かんないけど、でもまあホラ、辻褄は合うでしょ? あれ、合わない?」

「うぅむ。とてもじゃないが、信じ難いのう」


 カナビコまでも唸る。


「もしそうだとしたら、チヨヒメのご両親も不死のハズ。でも、彼女のご両親はもう亡くなられてるんでしょ?」

「いいとこ突くねえヒスイは。でも残念ながら、今はそれも分かりません」


 ――――そして皆がため息を吐く。それもそうだ。今話した事は全て不確定事実。全部“かもしれない”の段階。現に私も今、深いため息を吐いた。


「はえぇ。それじゃあ、もう行ってみるしかなさそうだね」

「そうだね。存在の有無は別として、それが一番いい案だと僕も思うよ」

「俺も! ――――じゃなくて、ボクもユハンと同じ意見だなぁ」


 一瞬キャラ崩壊しかけたタライは放っておいても、確かにそれが、謎を解く最後の手段だと言うのは、私も承知の上だった。――――だからそれも、アマハル様にお願い済みだ。


「それなら行きますか。常世の国へ」

「しかし子供だけでは危険ですぞ」

「――カナビコ先生の言う通りだわ。それに、官学はどうするのよ」

「ああ、まあ確かにそうだけど、一日くらい大丈夫っしょ」


 行きたい組のユハン、ウヅキ、タライ。そして危ないわよ組のヒスイ、カナビコで意見が分れる。しかし強制ではない。


「蒼陽姫。お言葉じゃが、この件はワシらに一任してもらえぬか?」

「オッケー。ヒスイとカナビコは欠席ね」

「――――蒼陽姫!」


 カナビコの声が談話室の中で反響する。その鋭い声に他の生徒も反応するが、それに構わず翁は続ける。


「なりませぬぞ。子供だけでそのような訳も分からぬ国へ行くのは!」

「そう言うと思ったよ。でもね、これは私の()()でもあるんだ」

「仕事ですと?」

「そう。天陽大神直々の神勅だよ。いい機会だから、信仰集めて来いってさ。もちろん、カナビコと一緒にね」

 

 これは本当の話だ。アマハル様はこの一件を、私の最初の仕事という名目で任せてくれた。

 そして彼女の名前を出した途端、案の定カナビコは黙り込み、お得意の髭弄りを始めた。そして翁はフッと笑う。


「オクダカの言う通り、本当に大神に似てきたようじゃのお」


 おそらく、良い所と悪い所の両方。いや、彼の呆れたような、そしてどこか嬉しそうな表情を見るに、悪い方が大部分を占めていそうだ。


「相分かった。じゃがしかし、少しでも危険だと思ったら即退却。それを条件に致す」

「了解!」

 ――――ふふ。チョロいなあ。

「でもソウ。学校はどうするのよ?」

「それも心配に及ばず。この勅書があれば、ズイエン学長は黙るってさ」


 今回の一件が詳細に書かれ、最後にアマハル様直筆の署名が入った勅書を、どやっと全員の前に突き出す。

 だが一つ問題なのは、今回の遠征に連れて行けるのは、四人までという絶対条件がある。恐らく、危険度が不明な未曾有の国で、いざというときカナビコが守れる限界の人数なのだろう。


「…………ただ、連れていける人数が四人までなんだよね」


 しんとした空気が流れる。


「それに、常世の国がどんな所かも分からない。危険なのか、友好的なのかすら全く」

「ソウはどう考えてるの?」


 ヒスイがじっと私の目を見据える。そうして束の間の沈黙が生まれた時、私は自分の思いを話す。


「今回は、私とカナビコ。そしてユキメ先生の三柱で行こうと思う」

「蒼陽姫…………」


 友達を危険にさらすわけにはいかない。

 カナビコもよくぞ言ったと言わんばかりに頷いている。きっとこれが正しい選択なのだ。


「――――駄目に決まってるわ」

「そうだよ!」


 ヒスイとウヅキが真っ先に口を開く。この二人を落とすのは骨が折れそうだ。


「でもね、本当にどんな国なのか分からないんだよ?」

「だとしても、アナタだけに危険な思いはさせたくない」

「そうだよ。わえも、もう見てるだけは嫌だ」


 ここに来て友情が邪魔してくるのか…………。私ももちろん、もうこの二人を無関係だとは思いたくない。しかし今回は勝手が全く違う。


「蒼陽姫」


 ここでカナビコが沈黙を破る。


「その四人というのは、恐らく大神がワシの力量を鑑みての数字でしょう。ですが、大神は少し慎重になりすぎる所があります」

「というと…………」

「全て、ワシに任せてくだされと言う事です」


 たった今、ジェンガのように崩れそうだった私達の関係を、カナビコが外側から包み込んでくれた。


「…………ありがとう、ごめん」


 頭が上がらない。カナビコには本当に世話になっている。例えアマハル様の命令でも、この官学に来てくれたのは本当に心強い。


「それじゃぁ、そうと決まれば日にちを決めないとねぇ」


 タライは鼻をすすりながらそう言うが、あいにく私に、彼を連れて行く気はない。反りが合わないという事もあるが、彼にはウヅキを止めるという役割がある。


「ごめん、今回タライとウヅキは連れて行けそうにないや」

「え!?」

「はぁ!? なんでッ。…………いや、なぁんでぇ」

「無理があるぞ」


 ――――ここで私はタライを引っ張って、皆の目から離れた談話室の端の方へ連れて行く。


「おい何だよ急に!」

「タライ、お前がウヅキを巻き込んだんだから、責任もってウヅキを引き留めて」

「はあ? 巻き込んだのはお前だろうが。大体俺は…………」

「――――返事は?」

「え?」タライの目が泳ぐ。そして間髪入れず私は「返事」とだけ言う。


 龍に睨まれた蛇。私の精一杯の強面に、彼は額に汗を流した。そうしてタライと一緒に皆の所へ戻ると、彼は早速ウヅキに言う。


「な、なあウヅキ。今回は女子だけの楽しい旅行みてーだからさ。今回俺たちは我慢しようぜ?」


 引きつった笑みを浮かべて、ウヅキの肩に手を置いたタライは、窮屈そうな喉から苦し紛れの言葉を吐く。


「え、でも」

「でもじゃない。今回俺たちは休みだ!」


 カナビコがいると言うのに、演技を忘れているタライ。

 先ほどのは少し恫喝じみていたが、意外と私もイケるようで安心した。


「ウヅキ、アナタが怪我したら、ユウヅキが悲しむでしょ? それに明日の皆既日食を、ユウヅキと見たいって言ってたじゃない」


 さらにトドメ。ここで妹の名前を出せば、彼も素直に諦めるはずだ。


「…………分かった。でもそれは、ソウ様も同じだからね」


 意外とすんなりと諦めてくれて少し驚いたが、私は胸をなで下ろした。やはり彼は妹想い。カナビコが大神に弱いのと同じだ。


「分かってるよ。ありがとう」

 落ち込むウヅキを見て少し複雑な気持ちだが、私はそう言って微笑んだ。


 ――――そうして私たちは遠征チームを組み終え、各自明日に備えて部屋に戻る事となった。

 ちなみに有難いことに、ズイエン学長には、カナビコの方から話を通してくれるらしい

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