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3問目:特別 / 当たり前 《中編》

 その日の放課後、僕はゲームの説明をするため宮原くんと駅前のファーストフード店に訪れていた。

 実際のチェス盤を用いての対局が彼の希望ではあったものの、一人でいる時でも練習をしたいというのであればゲームをプレイするのも一つの手段だと説明し、結果として今に至るというわけだ。

 なお僕も宮原くんもチェス盤は持っていないため、後日彼が用意すると話を聞いている。


「でだ、早速だがどうやってゲームを用意するんだ?」

「えっと、まずはゲームをインストールしてもらって、それから設定を確認していくんだけど」

「……なぁ、インストールってなんだ?」


 なるほど、そういうところからか。これは思ったよりも長期戦になりそうな予感がする。

 となれば、まずは飲み物調達から始めるとしよう。

 

「説明するけど、とりあえず飲み物でも買ってくるよ。宮原くんは何を飲む?」

「あぁ、俺が買ってくるから座ってろよ。水戸は何飲むんだ?」

「え、いいよ。というか僕どんな飲み物が売ってるか知らなくってさ」

「マジか。ってか俺もなんだけどよ」

「え、そうなの? ここ宮原くんが勧めてきたのに?」

「名前だけは知ってたんだよ。――じゃあ二人で買いに行こうぜ。荷物置いときゃ大丈夫だろ」


 なんか変なところで親近感が。

 ともあれ、そんな感じで僕と宮原くんのゲーム説明会が始まる。


「なぁ水戸。文字どうやって打つんだ?」

「……え? どういう意味?」

「なんかアルファベットが出てきてよ。ひらがなに戻してぇんだがやり方が分からねぇ」

「ちょっと見せて。あぁ、ここの左下を押してみて」

「……おぉ、なるほどな。ここで切り替えるのか」


「あれ、どうしたの?」

「ん? あぁ、なんかパスワードを要求されてるんだが――覚えてねぇっていうか」

「マジで?」

「おう」

「なんでそんな自信満々に……」

「とりあえず手帳に書いてねぇか見てみるわ」

「え、手帳とか使ってるの?」


「なぁ、いまから俺たちがやろうとしてるのってこのゲームだよな」

「そうだね」

「……ここでな、『チェス』って検索すると他にもいくつかゲームが出てくるんだけどよ」

「うん」

「俺、こっちの普通っぽいのがいいんだが――そのよく分かんねぇキャラのゲームじゃなきゃ駄目なのか?」

「駄目だね」

「マジか」


 かれこれニ十分弱、ようやくゲームの用意が出来た僕たちは早速ログインを始めることにする。

 ――しかし懐かしいな。半年ぶりくらいかな。あぁこんな感じのオープニングが流れてたんだよね。

 アニメと同じ人気歌手グループが担当してるって一時期話題になって――。


「って宮原くん! 音! 音が流れてるー!」

「お、おう。なんか急に音楽が流れ始めてよ。これどうすりゃいいんだ?」


 突如店内に流れるゲーム音にあちらこちらからと視線が突き刺さる。

 しかもそれがアニソンときたものだからなおのこと居心地が悪い。

 それにほら、店員さんが注意しようとこちらに歩いてくる。

 すみません、すぐになんとかしますんで!


「と、とりあえずマナーモード――いや、音を下げようか。スマホの横にボタンがあるでしょ?」

「こ、これか? ……お、これで音が変えられるのか」


 逆に音量を上げる、なんてべたな失敗はせずどうにか音量調整に成功する。

 ひとまずの事態収束に安堵しほっと胸をなでおろすが、その一方で宮原くんといえば、何故か眉をひそめながら画面を眺めていた。

 

「……これ、音聞こえなくねぇか?」


 なんという鋼メンタル!

 というより、もしかしたら音を聞かずにゲームをするという考え自体がないのかもしれない。

 僕みたいなゲーマーと一般人である宮原くんとの常識(・・)の違いに注意しなければと、認識を改めつつようやく本題であるゲーム操作へと辿り着くのであった。





 さて、まずはやはり最初のチュートリアルガチャが気になるところではある。

 物語を少し進めてから回せる十回連続ガチャ。どんなゲームでも重要であると言われている初回ガチャだが、このゲームでも例にもれず重視する声がよく挙げられている。

 キャラクターによって異なる美麗な演出が人気だと言われているが、なんといってもキャラの強さ、スキルによって戦局が大きく左右される。

 特に最高レアを引き当てなければストーリーを進めるうえで苦戦するレベルで重要度が高い。

 ゲーム初心者である宮原くんにリセマラなる引き直しの作業などさせたくはないため、ぜひとも一発で勝負を決めて欲しいところではあるのだが、さてどうなるだろうか。

 などと気にはしていたものの――うん? え、うそ!


「お、おぉ! いい! いいよ! 宮原くんっ! 少し前に僕がプレイしてた頃の人権キャラクターを二枚も引けるなんて! これなら凸も出来るし能力も開放出来るよ!」


 予期せぬ成果に思わず声を上げてしまう。

 いやそれも仕方ないと言えるほどに豪運とも呼べる引き具合で――というか、すごくね?


「お、おぅ! そうか。良かったな」

「そんな他人事みたい! いやでも本当にすごいな。ほら、このキャラなんて――」


 アニメでは駒の名称、ポーンやナイト、ルークといった役職を登場キャラクターたちと絡めることでを個性をよく引き立たせており、またそれらの特徴をうまい具合にゲームに再現したともっぱら評判のゲームである。

 それ故にリリース当初はキャラの使える使えないの論争が絶え間なく繰り広げられていたものだが、今となっては場面ごと活躍の場が与えられる機会が増えたため運営に文句で凸するプレイヤーは減ったとのことだそうだ。

 ただ、それでも強さランキングというか環境というものは存在する。

 つい先ほど調べていた感じだと僕の知らないキャラクターが人権になっていたようだが、なんと宮原くんはその希少キャラをものにしたのだ。

 ビギナーズラックというのも馬鹿には出来ないと噂には聞いていたがまさかこれほどとは。


「な、なぁ、すげぇのはよく分かったからよ。とりあえずチェスのやり方を教えてくれ」

「あ、うん。なんかつい熱くなっちゃった。えっと……あぁ、これストーリーを進めなきゃ駄目なのか」


 画面を覗き込み確認するに、目的である『対局』の項目がロックされている。

 対人要素だけに最初からプレイすることは出来ないらしい。


「そっか。ごめん、少しストーリーを進めないといけないみたいだね。多分三十分かからないとは思うけど」

「別に構わねぇよ。――ここのストーリーってのを進めりゃいいんだろ?」

「うん、まぁそうなんだけどね」


 そうか、てことは本当にゲームをプレイしなきゃいけないのか。

 たらりと冷や汗が流れるのを自覚しつつ、宮原くんに一言伝えておかなくてはと口を開く。


「あのね。先に言っておくとこのゲームは普通のチェスも出来るんだよ。それを忘れないでストーリーを進めて欲しいんだけど」

「ん? 普通ってなんだよ」

「まぁやってもらえれば分かるって」


 口ごもる僕の様子が気にかかったのか眉を顰める宮原くんだったが、とりあえずと画面を操作しゲームをプレイし始める。

 興味もないだろうに首をひねるながらも話をしっかりと読みながら解説キャラの説明を確認し、そして気が付いてしまう。


「……なぁ、この能力ってのはなんなんだ。なんか駒が変な動きをしてるんだが」

「あー、どんな感じ?」

「ポーン? だよな。多分。なんかそのキャラクターがよ。剣みたいなの振りかざして目の前のマスに穴をあけてんだよ」

「それで?」

「しばらく通行禁止らしい」

「ははっ」


 予想していた通りの反応に乾いた笑いを浮かべる僕に対し、宮原くんは口元に手を当てながら呆れた表情を浮かべる。

 一応言い訳をさせてもらえば、実際このゲームには能力禁止、つまりは一般的なチェスのルールを用いて対局することの出来る設定もある。

 さすがの僕も能力なんてのがある特別ルールで宮原くんに遊んでもらおうなんて思ってはいない。

 そこそこ難しいと評されているゲームレベルを体感してもらうというのが目的だったのだが、どうやら少し考えが甘かったらしい。


「と、とりあえずもう少し進めれば普通のチェスも出来るからさ。ね? もうちょっとの辛抱」

「……これで何も出来なかった日にゃ覚えとけよ」


 良かった。ひとまず処刑は免れたらしい。

 とりあえず延命の余地をくれた宮原くんに飲み物を奢ることにしようと席を立ちあがりカウンターへと向かう。

 ちなみに余談ではあるが、僕らが座っている席はカウンターからよく見える位置にある。


「お客様、出来ればもう少し声を抑えて頂けると……」

「あ、はい。どうもすみません」


 注文を受けてくれた店員さんが苦笑いを浮かべていたのでひとまずの謝罪を口にしておく。

 あまり迷惑をかけるのも悪いしもう少ししたら店を離れることにしよう。

 そのまま二人分の飲み物とポテトを注文し席に戻る。

 ちらりと宮原くんのスマホを覗き込んだ感じ、引き続きチュートリアルを進めているようだ。


「どう、いい感じ?」

「不本意だがなんとなくルールは理解した。てかこのなんとかってキャラがつえぇ」


 変なところで真面目だよね。

 なんとなく宮原くんの外見を観察してみれば、やはりどこをどう見ても不良学生にしか見えない。

 ド派手な金髪に喧嘩が強そうなしっかりとした身体つき。

 それでも話をしてみれば意外と付き合いが良くて、多分性格が悪いということもない。

 聞こえてきていた悪い噂など、きっと出鱈目なのだろうと今日一日一緒にいてよく分かる。


「ねぇ、あとで対局してみようよ」

「あ? 別にいいけど普通のルールな。こんな分けわからねぇ能力とかで戦えって言われても理解が追い付かねぇよ」

 

 意外と人生捨てたものではないのかもしれない。

 高校生活一年目、友人を作ろうと心に決めた瞬間が訪れた。

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