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8問目:特別 / 当たり前 Ⅱ ④





☆☆☆☆☆☆☆☆





 あれから比呂先輩たちの協力の元、僕はなんとか服装を整えるに至った。

 最初はスマホで見た通りのいい値段がする服を買うことになるのかと思ったけれど、比呂先輩曰くもっと安く手軽にオシャレは出来るとのことで、なんと古着屋でのコーディネートをおススメされたのだ。

 正直なところ「他人の古着を買う」という行為に抵抗感があった僕だが、素直にアドバイスを聞き入れつついざ古着屋へと足を運んでみれば、その認識を改めることとなる。

 僕みたいなファッション初心者だけかもしれないけど、パっと見だけではそれが古着かどうかなど見分けがつかないし、それほど不衛生感(・・・・)を感じることもない。

 あとは何よりも値段が安い。ここが僕としてはかなりでかい。

 今回の一件でよく分かったことだが、特にアルバイトもしていない僕からすれば服を一着整えようとするだけでこと金銭面から見て結構なイベントであるようだった。

 他にもどんなコーディネートにしようか考えながら店に入り、服の色合いと値段を見比べながら悩み、購入する。ただそれだけの行動で僕は約一時間以上もの時間を要したことも記憶に真新しく刻まれている。

 

「じゃ、行こっか水戸っち」

「はいはい。今日はよろしく優木さん」


 それでも、少しは自信を持ってあの優木さんの隣に立つことが出来ている。


「今日は頼むよー! 男子からの意見、期待してるからねっ!」

「……一体僕に何を期待してるのさ」


 これはきっと、僕からすれば大きな進歩に他ならないのである。





☆☆☆☆☆☆☆☆





「それで、今日はどこに行くのか決めてるの?」

「んーとね、いくつか調べたお店があるんだけど」


 優木さんが待ち合わせに指定したのは、学校から少し離れた場所に位置する商業施設の近くにある噴水広場。

 この辺りの地域では一番大きなショッピングモールとして知られており、言ってしまえば僕のようなザ・インドア住民ですら時折足を運ぶことがある人気スポットのため、見渡す限り広場には待ち合わせの場所として利用しているのであろう人がちらほらと見える。

 

「ねぇ、水戸っちはどこか行きたいところとかある?」

「文化祭で着るための制服でしょ。とりあえず優木さんのリストアップした場所を回ってみればいいんじゃないかな」


 「制服」と聞かれればオタク趣味の僕としては思うところがあるものの、それを優木さんに語るような野暮な真似などはしない。

 あくまで今日は「一般的な」考え方のもとで買い物に来ているわけなので、基本的には優木さん頼みで事を運ぶつもりでいる。……情けないと言われようが一番無難な対応を僕は選ぶのだ。


「分かった。じゃあまずはこの店からねっ! それで次はここ、そのまた次はここでー」

「ちょ、ちょっと待って。早い、早いからゆっくりと教えて欲しいんだけど」

「えー、そうかな? それじゃあもう一度言うねっ! まずここでしょ、次にここでー」


 何も面白いことなんか話せない僕に対し、しかしニコニコと笑いながらスマホ片手に今日のプランを話し続ける優木さん。

 どうにも今一つ話のテンポがかみ合わないけれど、彼女の無邪気さというか、空気の読めなさ(・・・・・・・)には本当によく救われる。

 気が楽というか、自分で言うのもあれだけど宮原くんと柊さんの次に打ち解けられそうな気がするのは優木さんだったりするわけで。


「あ、水戸っちお昼は一緒に食べるでしょ? 何か食べれないものとかある?」

「特には苦手なものとかないんだけど、優木さんはどう?」

「あたし? そうだなー。水戸っちがなんでもいいなら今の気分はパスタかなー」

「分かった。それじゃあそっちは僕が調べておくよ。さすがに任せっぱなしってわけにはいかないもんね」

「お、いいねぇ! 頼むぜ水戸っち!」


 クラスカースト最上位に位置する優木さんと友達になりたいなどとおこがましいことを言うつもりはないけれど、少しでも彼女を楽しませることが出来たらと、僕は心からそう思ったんだ。





☆☆☆☆☆☆☆☆





「うーん、やっぱりものによっては手が出せないくらい高いよねー」


 いくつか足を運んだ中で一番お眼鏡にかなったのはコスプレ衣装店――ではなく、パーティグッズを取り扱っている専門店だった。

 選び見ているものがウエイトレス制服にメイド服、はてはドレス?(なんだあれ……)みたいに、おそらくは普段優木さんが手に取らないような衣装ばかりなのだが、偏見の目を持たずに真剣な眼差しで物色している彼女の姿は何というか様になっているというか――。


「そういえば予算ってどれくらいで考えてるの? そういう話って出てなかったと思うけど」

「んー? そこら辺はほら、一度見てから話のネタに出来るかなーって」


 文化祭の予算ってそういえばどうなっていたんだっけ?

 黒崎先輩からはまだ話は出ていなかった気がするけど。


「一応ね、先輩から話は聞いてるの。予算申請書みたいなのがあってそこに衣装代とかを請求するんだってさ」

「へぇ、そうなんだ。さすが優木さんだ」

「まぁねー。ただ結構判断基準が厳しいみたいで、要するに利益が取れるかどうかで申請出来るか出来ないかが決まるみたいなの。だからコスプレ喫茶でどんな商品をいくらで売るーみたいなことも含めて決めていかなきゃいけないわけなの」

「……そうなんだ」


 こういうところも本当にすごいと思う。

 行動力が高いというか、コミュ力の高さが形を成しているというか。

 

「多分来週あたりに話題になる内容なんじゃない? あたしたちって結構大変な委員会に入っちゃったかもねー」

「……で、なんでそんなことを言いつつも優木さんは楽しそうに笑ってるの?」


 その言葉とは裏腹にニヤニヤと笑っている優木さん。

 なんとなくだけどいつもの笑顔とは違うような、そんなに彼女のことは知らないけれど素の雰囲気というか、とにかく少し気になる表情を見せていた。


「えー、だってさ。水戸っちは楽しくない?」

「え、楽しい?」

「うん。楽しい! あたしはすっごく楽しいの! なんかさ、お店を経営してるってわけじゃないけど、お金を使って、どうやったら文化祭を成功させられるのかなーって、クラスのみんなと力を合わせて盛り上げていくにはそうしたらいいんだろーって、そういうのを考えるのがとっても楽しいの! ねぇ、水戸っちはそういうの分かるかな?」


 もしかしたら、こんなに胸の内を伝えてくれる優木さんを僕は初めて見たかもしれない。

 普段はクラスの中心で楽しそうに友人たちと時間を過ごし、きっと放課後なんかもいわゆる「青春」を満喫しているであろう優木さんだけど、少なくともこんなに感情をむき出しにして話すような場面を見たことはない。

 勿論大声で笑ったり、騒がしかったりする姿は見かけることはあるものの、そういうのとは少し違うというか……なんというか。


「僕は……僕も、楽しいよ。うん、意外と楽しいかも」

「でしょー! 良かった。水戸っちならそう言ってくれるかなーって思ってたっ!」


 それは一体どんな意味での期待なのだろうか。

 今度、彼女の中の「水戸悠」とはどのような人物であるのかを是非聞いてみたいと、僕はそう思わずにいられなかった。

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