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7問目:先輩 / 後輩 ②





☆☆☆☆☆☆☆☆





 無事買い物を終え、各々コンビニのビニール袋を手にぶら下げて、目的地である図書館……ではなく道中の公園への道のりを共に歩くわたしたち三人。

 普段であれば食べ歩くぐらいは平気でしてしまうわたしですが、どうにも四条家にそのような家訓はないらしく、道中にある公園で腰を落ち着けようという話になった。

 ……女子力の差? なにそれ美味しいの?


「……友奈ちゃん、あと、どれくらい?」

「そろそろ着くよ。ほら、ちょうどあそこに看板が見えるでしょ」


 いいタイミングで視界に入り始めた看板をわたしは指差す。

 公園自体は小さいが道にぴょんと飛び見える看板が特徴的で、昔はよくそこで両親と遊んでもらっていたものだ。

 大きくなった今では来なくなってしまったけど、両親とわたしの三人でベンチに座り、真夏の夜にアイスを食べた記憶は未だ鮮明に残っている。


「……うん、ちょうど三人掛けのベンチが空いてるね。ほら二人とも、あそこでアイスを食べようよ!」


 一足先に公園に入り状況を確認したわたしは、桜ちゃんと四条さんをベストプレイスへと案内する。

 お花見という時期ではないけれど、公園の雰囲気を楽しめる絶好の穴場だ。

 

「……アイス、食べる」

「ふふっ、こんな風に外でアイスを食べるなんて初めての経験です」


 ただ肝心のお二方は花より団子状態ではあるが……まぁ問題ないでしょう!


「……友奈ちゃん、音頭、とって」

「え、明石さんは外でアイスを食べる時に音頭を取るのですか?」

「取らないよっ! 桜ちゃんたまに無茶ぶりするねー!」

「…………」

「いやなんか言おうよ! わたしが滑ったみたいになってるじゃんか! いやまぁいいや。それではみなさま一斉にご開封~」


 やけくそだがノリに乗ってやったぜとアイスを開きながら音頭を取りつつ、右を向けばキョトンとした顔がとても印象的でした。まる。

 …………くそ、二度とやらんわっ!





☆☆☆☆☆☆☆☆




 

「アイス美味しいねー」

「……ねー」

「なんかそういう季節が来たー! って感じがするよねー」

「……ねー」

「ふふっ、こうして見るとなんだか仲の良い姉妹みたいですね」


 プチ女子会なうなわたしたち。

 聞いてみれば四条さんも特に急ぎではないとのことで、ここで少しゆっくりしていこうとの話になりましたなう。

 ……しっかしこのお嬢様。アイス一つ食べるだけなのに非常に様になっている。

 なんだこれ、オーラみたいなものが見え――。

 

「それにしてもこのアイス。初めて食べましたがとても美味しいですね」

「え、あ、そうなんだ。結構定番のアイスだと思うけど。四条さんモナカって初めて食べるんだね」


 いけない。

 不思議な雰囲気に気圧され生返事で返してしまったが大丈夫だっただろうか。


「そうですね。まず家であまりアイスを食べる習慣がないものですから。このモナカアイスに限らず食べたことのない種類は多いと思います」

「……お菓子は、食べる、のに?」

「熱いと溶けちゃうって聞くと、なんだか気軽に手が出せなくって」


 熱いと溶けちゃうから? なんと可愛い理由。今度使ってみよう。

 それにしてもきっと四条さんはわたしたちみたいに歩き食いとかしないんだろうなぁ、などと考えてしまう。

 ね、桜ちゃん?


「……少し、分かる。家まで、溶けないか、心配、なの」

「うん、分かる分かるぅ」

「…………」


 わたしのタイミング完璧な相槌に疑念の目を浮かべる桜ちゃん。

 出来ればツッコミは言葉にして頂けると幸いです。


「と、ところで四条さんは図書館にどんな用事があるの?」

「え、図書館ですか?」


 ふと話題を変えて気になることを聞いてみることにした。勿論深い意図などはございません。

 

「実は用事があるのはわたしではなく部活動の先輩なんです。今日返却期限の本が用事で返せなさそうだと言われていたので、代わりにわたしが引き受けましょうかとお声掛けしまして」

「あれ、四条さんって部活入ってたんだ。聞いたことないかも」

「そうですね。つい最近入部したものですから」

「へぇ、どこ?」

「文芸部、ですね。ご存知でしょうか?」

「……………………え、文芸部?」


 文芸部、っていうとあれだ。比呂先輩の部活動。


「……文芸部、なんて、あったっけ?」

「つい最近三年生の先輩が設立された部活動なのでご存じない方もいらっしゃって当然かと思います。なんでも昔はあったそうですが一度廃部になり、それを先輩が立ち上げなおしたそうですね」

「……へぇ、そうなんだ。友奈ちゃん、は知ってた?」

「うん、まぁね」


 知ってるも何も、その文芸部の設立(・・・・・・)の相談を受けていたのは何を隠そうこのわたしである。

 部を設立できたというのは聞いていたが、まさか四条さんが部員の一人だったとは。


「ただ、実際はまだあまり活動が出来ていない部活にはなります」

「へぇ、ていうかそもそも文芸部って何をする部活動なの?」

「……読書の、感想を、話し合ったり?」

「そうですね。なんと言いますか、そういったところはこれから決めていくと言いますか」


 四条さんから聞いた話ををまとめるとこうだ。

 部員は全部で五人いるものの、誰も彼もが素人なので具体的に何をするということが決まっていないらしい。

 ただやる気のある部員がいるらしく、少しずつではあるものの個人のお気に入り作品を持ち込むなど、部活動として機能し始めてはいるとのことである。


「なるほどね。それで四条さんは何をしたくて文芸部に?」

「……私も、気に、なる」

「え、えっと、その」


 そうそこが気になって仕方がない。

 漫画みたいに言い表せば『学年のアイドル』に位置するであろう四条さんがわざわざ入部するくらいである。

 おそらくこれまではどの部活動にも所属していなかった彼女がなぜ今になって文芸部に入部したのか。そんな話、わたしでなくても気になるところでしょ。


「実は……その、以前から誰かと本の感想を語り合うということをしてみたくて……」


 理由が可愛いかよっ!


「……本って、何を、読むの? 小説? 漫画?」

「どちらも読みますね。小説も、漫画も」

「へぇ、四条さんって漫画とか読むんだね」

「ふふっ。えぇ、読みますよ。ただ……」


 そう話した四条さんは一呼吸おき、話を続ける。


「そうですね、出来れば小説について語り合うことが出来れば嬉しく思います」

「……小説の、感想?」

「どんな作品でもいいんです。ただ面白かったとか、このシーンで感動したとか、そんなありきたりな感想でも良くて。そんな感じなことをしてみたいなぁって」

「そう、なんだ」


 少しだけ、本当に少しだけど、四条さんのことが分かったような気がする。

 形は違うが、おそらく彼女はわたしたち(・・・・・)と似ているのだ。

 本当はやりたいことがあるけど上手く形に出来なくて。それでも何とかしたいと足掻いて見せる姿に、わたしは心から共感する。


「……小説ってどんなのでもいいの?」

「え?」

「いや、わたしも少しなら読んだことあるから、そんな話でも良ければどうかなと思って」

「……私も、たまに、読むよ」

「……!! は、はい! どんな小説でも構いません、ぜひお話させてください!」


 多分、文芸部は彼女にとってまだ少し物足りない場所だと思う。

 勿論それはあくまで憶測なので何とも言えないけど、比呂先輩はいま受験勉強で忙しいはずだし、時折そんな話をするのはわたしたちにとっても悪い話ではないでしょう。

 

「さ、そうと決まったら図書館に行きましょうか。なんか一冊本でも借りてさ、今度感想でも語り合おうじゃありませんか」

「……うん、賛成」

「はい! ぜひよろしくお願いします!」


 そうと決まれば即行動がモットーのわたしこと明石友奈。

 とっくの昔に食べ終えたアイスを公園のゴミ箱へと放り捨て、今度こそ友人たち共々図書館へ向かい歩き始めました。

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