5問目:幼馴染 / 幼馴染 ②
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彼を、『リン』という男性をどのような方なのかと問われれば、私はどのように答えればよいのか迷ってしまうことでしょう。
青山凜。三月一日生まれ。男性。星座は魚座で誕生石はアクアマリン。今年五月の時点で身長は百七十ニセンチ、体重六十二キログラム。髪は短めであまり伸ばすことを好まない。
彼の今のプロフィールと言えばこんなところでしょう。
あと特質するとすれば、学力、運動ともに優秀でコミュニケーション能力も人より高く彼を中心に友人の輪が出来上がることは珍しくないことでしょうか。
「よし、ナイスシューッ! 山田、草野、パスは気にしなくていいからマンツーマンでディフェンスを頼む!」
例えば今、クラスの男子たちは体育の授業でバスケの試合に取り組んでいますが、やはり一番目立っているのはリンさんのようでした。
五対五のゲーム形式で試合する彼らメンバーを見るに、リンさん以外は運動に自信のある人たちで構成されているらしく、いわゆる『本気の試合』という様相を呈しております。
「ねぇ男子の試合すごいってよっ! ちょっと見に行こうよ」
同じ体育館の中、仕切りで区切りバレーの授業を受けていた女子たちはバスケの試合が白熱しているものだと知るや否、まるで応戦席が出来ているのかとも見まごうほど綺麗な隊列に並び試合観戦を始めます。
これには先生もお怒りになるのではと振り向いてみれば、当の本人も少し気になっていたらしく苦笑いしつつも少しだけならと見逃してくれているといったところでしょうか。
彼女たちにとってありがたいのか無責任なのか、はてさてといったところではありますね。
「ねぇ試合どうなってんの? どっちが勝ってるのよ」
「スコアボード見りゃ分かんだろ! 青山たちが一点リード。試合時間は多分残り一分くらいだ!」
試合はリンさんたちがわずかにリードしているご様子。
両陣営ともにだいぶ疲れ切っている様子でまともに動けそうな方が少数といったところでしょうか。
さすがにこの接戦で終盤に向けて足をためておく余裕はなかったらしく、最も体力の残っていそうな両チームのエースが最後の対決に臨もうとしております。
「青山、てめぇぇ……帰宅部の、分際でぇ、どんな……はぁ……体力ぅ、して、やがるんだよっ」
「まぁ、帰宅部、だからね。体力は、余ってるって……はぁはぁ……もんだよ」
ボールを持つ坂下さんは確かサッカー部に入部したと記憶しております。
ここ最近あまり運動をしていなかったリンさんでは荷が重い対決かと、普段であればそう見えるはずですが、現時点でのお二方のコンディション状態からするに五分五分といった状況。
残り八名の方も各々の役割を果たすべくポジションに着きます。
「……………………はっ!」
瞬間、空気が変わると同時に坂下さんが抜きん出ようと右側に身体を傾けます。
一方でリンさんもその動きを読んでいたかのように僅かに左側に身体をずらし、同時に左足を軸に右側へと大きく踏み込みます。
坂下さんの表情が変わります。やはり最初の一歩はフェイント、彼の素早い動きであればそのまま抜き出すことも可能だったのでしょうが一つ罠を仕掛けたといったところでしょうか。
読みの勝負はリンさんに軍配が上がった模様。
ですが――。
「…………っちぃ! くっそがぁぁぁ!」
身体能力は坂下さんが勝り、かなり強引ではありますがさらに左へと切り返しを試みます。
「……くっ!」
残念ながらリンさんではその切り返しにはついていけません――と誰もがそう思うはず。
「よっしゃあぁぁ! ってなぁ!?」
その進行方向にはリンさんの仲間である草野さんが構えており、抜きん出た瞬間の僅かな隙を突きボールを奪取。
「速攻っ! 走れぇぇ! ラスト決めるぞっ!」
切り替えの早いリンさんが相手コートに向かい先頭を駆けます。
さすがの坂本さんも察するや否や急いで自陣に戻ろうとするものの、最後の攻防で残りの体力を使ってしまったのか勢いがありません。
「あおやまぁぁぁ! 決めろぉぉぉ!!」
草野さんからのロングパスがコートの中央を突き抜け、そして――。
「よっしゃぁぁぁぁっ!」
見事なレイアップシュートで追加点を決めるリンさん。
あたりでは歓声が飛び交い、激しい戦いに膝着いた坂本さんも、悔しそうではありますがどことなく楽しそうな表情です。
「僕の、勝ち、だね。……はぁ……はぁ……缶ジュース……一本……頼む、よ……はぁ…はぁ……」
「うっせぇ。わぁってるよっ!」
子供ですね。実に子供っぽい姿です。黄色い女性の歓声が聞こえる中、私は彼の姿を見てそう感想付けます。
ですが、それは決して悪い意味ではありません。
たかが体育の授業で全力で試合に臨むなんてアホらしい。そう思う人も中に入るでしょう。
ですが、こういったことにも全力で取り組めるということを、私は非常に大切なことだと考えております。
たとえ子供っぽくても、みっともない姿を晒そうとも、物事に意味を見出す以上に全力で楽しもうという彼の姿を、私はいつも目で追っていました。
「お疲れ様でした。いい試合だったのではないですか」
誰に聞こえるわけでもなくそう呟いた一言に、離れた距離にいるはずのリンさんが笑い返した、ような気がしました。
実際のところそれは一瞬の出来事で、私の周りには何人もの観客がいるわけですから気のせいだと思うこともできますが。
それでも――。
「どうだっ、麗華さんっ! ……はぁ…はぁ……僕も、やるときはやる、んだよっ!」
彼はいつだって名前を呼んでくれます。
幼いころよりずっと、成長した今でも。
「そうですわね。少しだけ見直しましたわ」
「なんだよ、それっ!」
彼を、『リン』という男性をどのような方なのかと問われれば、私はどのように答えればよいのか迷ってしまうことでしょう。
良いところも悪いところも、『リン』さんの多くを見てきた私にとって、何を伝えればいいのか迷ってしまいます。
ですが、ただ一つ彼のことで真実を伝えるとすれば、こうお答えするでしょう。
私の愛する殿方である、と。