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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
中盤 ~複雑に絡まる~
70/70

60話 秘密裏なヒロイン設定

 今回は、やっとアレンシアが思い出した謎が、はっきりして……

 その場にいた令嬢達には、アレンシアが突然の奇行に、走ったようにも見えたかもしれない。だからか最初は驚いていたものの、彼女が叫んだ言葉に対して、一筋の光が見えたかの如く、目を輝かせている。


先程から令嬢達は皆、自分達の前世の記憶を頼りに、乙女ゲームの設定を現世界の状況に当て嵌め、相違点を話し合っていた。そのうちに話が煮詰まり、敢えて話を逸らせ、現実的な話題へと目を向ける。隣国の1つであるジュール王国が、不穏な動きを見せている点に。


その最中にふと、アレンシアはあることを思い出す。何故、今まで忘れてたのかと思うほどに、思い出せずにいた設定を。まだ秘密だと言われたから、今まで思い出せなかったのかも。そうなんだわ、きっと……


 「…やっと、思い出しました。道理で…()()()()()()()()()、よね…」


彼女は段々と、明確に思い出してきた。乙女ゲームヒロインの設定は、ゲームの内容を左右するほどの影響力を、持っている。それが分かっているだけに、前世では誰にも言えずにいた。だからなのか…と、彼女は一人納得しつつも頷く。要するに会話の後半は、単なる独り言だ。


 「…それは、どういった意味…ですの?」


周りのご令嬢達はまだ、理解が追い付けずにいるのか、「?」といった風の顔をして眉を寄せる。そして痺れを切らせた令嬢の1人、ミスティーヌが彼女に問うてきた。何か別の意味が含まれている、と感じて。


 「…え~っと。今から私が話す設定は、ゲームの設定集に載っていない、非公式なもの…というか、秘密裏な内容ですので…」

 「「「…ひ、非公式…?!」」」


つい興奮して独り言を漏らしたが、何から話せばよいのかと迷いつつ、アレンシアは暴露し始めた。彼女が告げる話の内容の中には、誰もが耳を疑う類も含まれていた。お陰で令嬢達の間に、衝撃が走ったようである。


 「設定集に載せないような非公式な設定は、一体どういう意味でして?」


ただ1人動揺せず、フェリシアンヌは自然に問う。非公式と言うからには、当然ながら公式なものではないだろう。ゲームサイト側が非公式とした理由は、どういう経緯であったのか、どういう理由から()()()()()()()()()()()のか、全く見当もつかないところだ。


 「…言葉通り、ゲーム運営側が非公式とした設定です。ヒロインの設定はどういうわけか、最低限の内容しか設定集に載せず、ゲーム運営会社の正式サイトでも、特に公開をしていませんでした。」

 「それならばわたくしも、存じておりましてよ。設定集に掲載されたヒロイン設定は、あまりに情報が少なすぎると、運営サイトの掲示板上でも、問題視されておりましたわ。だからと言いましても、それで攻略できないわけではなく、特に何の問題もありませんでしたわ。」

 「アリアお姉様が仰る通り、私も運営サイトに文句を言いつつも、推しの攻略に何も問題がなかったような…」


非公式な設定があると、認めたアレンシア。ヒロインの設定が最低限だという事情には、アリアーネとミスティーヌも激しく同意した。前世の頃に、顧客達から不満の声が上がっていた、という。但し、ゲームを攻略する上では、何ら問題がなかったようである。


設定集の内容が少なすぎることは、ゲームをした者なら誰もが知る、事実でもあったのだろう。運営サイトで他に公表されず、ゲームを攻略する者は皆、何らかの不満を抱えていたはず。


 「実は私も不満に思っていて、ついお姉ちゃんを問い詰めてしまって…。まさかお姉ちゃんが、あんな話をするなんて。衝撃が強すぎたかも…」

 「…前世のお姉さまが?……このゲームについて、()()()()()()()()の?」


運営サイトへ実際に文句を言っても、運営側からの返答は何もなかった。ヒロインの詳細は、最後まで明かされることはなく。


アレンシアの姉が、どう関係しているというのか。誰もが不思議に、思うところであろうか。ゲーマーとして、全ルートを攻略に成功したとか、裏ルートか何らかに気付いていたとか、それなら分かるものだが……


 「…はい。実は…私の姉は、ゲーム関連の会社で働いていました。つまり姉はあの乙女ゲーの関係者で、今私達が居るこの世界の乙女ゲーを作った、制作者の1人でもあったんです。」


フェリシアンヌの当然の疑問に、アレンシアが明かした内容は…。前世の彼女の実姉は、この世界の乙女ゲーを作ったとされる、関係者の1人であった。想定外の暴露をした彼女に、フェリシアンヌも他の令嬢達も、この場の全員がギョッとする。重い沈黙が数時間にも、長く感じられて……


 




   ****************************






 「…貴方のお姉さんが、ゲーム関係者ですって!?…何故もっと早く、教えてくださらなかったの?…貴方のお姉さんに、サインを貰いたいのに…いいえ、貴方のお姉さんは此処には、転生してないわよね?……貴方にサインを強請(ねだ)るのは、本末転倒だろうし…」

 「…え~っと、流石にお姉ちゃんが転生してるかどうかは…」


アレンシアの暴露に、クリスティアは瞳をキラキラ輝かせた。『姉』の正体を知るや否や、心の底からサインを欲しがるところは、有名人に熱狂するファンの姿と、重なって見えた。一方でアレンシアは、ちょっと引き気味だ。前世の姉のサインが欲しいと言われても、今更どうすることもできないからだ。然も…姉は芸能人でも何でもないのに、何故に姉のサインが欲しいのかと、只管困惑してしまう。


 「なんでお姉ちゃんのサインが、欲しいんだろ?…それに私、サインを書くとも何にも、全然言ってないし…」


クリスティアは異様に舞い上がり過ぎて、自分でも何が何だか分からなくなったらしい。反対にアレンシアは、ブツブツ小声で呟いている。彼女達の両隣に座るフェリシアンヌは、声もなく苦笑する。ゲーム関係者を神聖化した友人も、身内を神聖化して見られない友人も、()()()()()()()理解できるから。


 「クリスお姉様の気持ちは、わたくしもお察し致しますが、少しはフェリーヌお姉様を見習い、落ち着いてくださいな。」

 「乙女ゲーのクリス様は、大人し過ぎる人でしたが、現実のクリス様は言いたいことをはっきり言う、芯の強いお人ですよね。」


一向に話が進まないと、ミスティーヌは苦笑しつつも、クリスティアを現実に戻そうとした。これまでずっと沈黙していたジェシカも、クリスティアを持ち上げるというよりは、少し揶揄うような口調であった。


乙女ゲームのキャラとは、性格や態度が不一致している。それは何も、彼女に限ったことではない。少なくとも、主役・脇役に限らず殆どの者達は、性格が全く異なると言えるのでは、ないだろうか。但し、ほぼゲーム通りだと言える人物も、中には数えるほど少数ではあるが、()()()()()()


 「…こほん。これから話すことは、その非公式とされる内容です。前世で私がお姉ちゃんから聞いた、ゲームの裏側での設定ですので、できれば…此処だけの話にしてくださいね…」


アレンシアは咳払いをすると、真面目な顔で前置きをした。此処だけの話にしてほしい。他の転生者にも内緒にしてほしい。そんな彼女の深層が垣間見られるようだと、フェリシアンヌは心の中で思った。


その後、アレンシアは非公式の内容を、ポツポツ話し出した。それらを簡潔に纏めると、以下の通りである。


商家を営むテレンシスの両親は、彼女の実の両親ではなく、彼女を実子として育てていた。この世界は現代世界と異なり、平民の戸籍を登録する仕組みはなく、貴族のみ義務とされる。平民の家族の間では、血縁を証明する証拠は何1つなく、当人達の口頭で伝承するだけだ。


ゲームの中では、テレンシスの育ての母は、破局した元恋人の子供として、自らの夫にも真相を隠していた。そうした事情から、現実の彼女の養父母も、同じ状況下に置かれているのでは…と、フェリシアンヌは密かに思う。


 「その時点でヒロインは、本当の両親だと信じておられますのね?」

 「はい、多分そうだと思います。だけど…お姉ちゃんは、薄々気付いているようだと、言っていました。育ての母親が彼女の元の身分を鑑みて、厳しく礼儀作法を教え込んだ、という設定にしたかったそうです。周りにそんな設定はおかしいと、猛反対されたようで、商人らしい少女という設定に…」

 「…確かにおかしいですわ。この国の商家は、平民の身分ですもの。平民が貴族のような振る舞いをすれば、寧ろ周りから浮きますわ。」

 「正にその通りですわ。お姉さんの設定では『此処にいる』と、敵にも知らしめてしまいます…」


アレンシアの説明の合間に、このようなやり取りもしていた。飽くまでゲーム上でのヒロイン設定として、話し合う。フェリシアンヌが強く確認すれば、アレンシアは前世の記憶を辿っていく。


平民と貴族の礼儀作法は、全く違う。アリアーネとミスティーヌはそれを理解するからこそ、『姉』の望んだ設定を否定した。


 「現実のテレンシス様は正に、お姉様の設定通りではございませんか?…どう鑑みましてもあの振る舞いは、上位貴族の礼儀作法に匹敵しております。」

 「…あら?…確かに…」

 「「………」」


フェリシアンヌが落とす爆弾発言の意味に、漸く気付いた。まさか現実でゲームの裏設定が、()()()()()()()()()。確かに…とクリスティアが認め、残り2人の令嬢は沈黙を貫く。今更そんな重要な真相に、気付くなんて。


 「……えっ?…まさか現実のヒロインは、貴族らしいってことなの?」

 「…あれ?…そう言われてみたら、そうなのか。…ん?…それじゃあ、お姉ちゃんの設定が…現実になっちゃってるっ?!」


別の学校に通うジェシカは、我が儘なヒロインだとしか知らず、貴族らしいと聞かされ目を丸くし、実姉の設定が現実となったことに、アレンシアは素っ頓狂な声を上げている。今まで誰も知らずにいたのは、運が良いのかそれとも……


…お姉ちゃんの設定通りなんて、この世界は…どうなってるの!

 アレンシアが乙女ゲームの裏設定を、漸く思い出してくれました。前世の彼女のお姉さんが、乙女ゲームの関係者だったことから、それなりに重要な内容を知っているようだと、思われます。


今回の本編では、その内の1つを暴露した形となりました。次回はもう少し暴露できると、いいのですが。ジュール王国と乙女ゲームの関係は、今のところ明確にしていません。今後明らかにするつもりですが、何時になるやら……

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