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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
中盤 ~複雑に絡まる~
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57話 止めるには時既に遅し

 前回の『似顔絵』を描いた人物が、今回判明して……

 「…それで、何時(いつ)からでしたの?」

 「え~とですね。3ヵ月前からでしょうか?」

 「………」

 「…え~と。別に…隠していたわけじゃ、ないんです。これでも私、一応商売人の素質があるみたいで。友達やアイドルや有名人とかの似顔絵を、前世から描いてました。『そっくり!』と友達が褒める度、凄く嬉しかったなあ…」


到頭、絵のモデル本人にバレた。昔から絵を描くのが好きで、趣味で似顔絵を描いていた。但し、似顔絵師になりたいと、思ったことはない。イラストレーターや漫画家も、特に興味はなく。単なる趣味の範囲であった。


 「これだけ似てる絵が描けたら、天職なんじゃないの?」

 「もしかして将来、有名人から依頼が来るかも…?」


クラスメイトの女子や近所の人に、「本職にしたら?」と言われたりした。素人のわりに上手い方だと、自分でも思ってはいたが、特に仲の良かった友人には、薦められたことがない。


肖像画はモデルに似る方が好まれ、似顔絵は個性的な方が受け入れやすい。前世で活躍する有名な似顔絵師は、モデルそっくりには敢えて描かずに、特徴的な部分を独特な表現で、より強調した絵を描く。それと比べたら、画家の才能があったとしても、絵師の素質はなさそうだ。


 「この世界(ここ)では前世とは逆に、モデル本人に似てれば似てるほど、よく売れるみたいです。うちの店に飾ってある絵を見たら、突然前世の趣味を思い出して、()()()()()()()抑えられなくて…。私が描いたある人をモデルにした絵を、孫が描いたと客に自慢したかったおじいちゃんが、勝手に店に飾っちゃったんです。ある日、店に来た貴族風の客に、私の絵を買いたいと言われ、何度断っても諦めてくれないし、結局断りきれませんでした…」


情けない風な顔をして、シュンとしょげるアレンシア。今まではこの世界で生きること、それが精一杯だった。乙女ゲーに囚われ過ぎて、何故か忘れていた。前世の趣味を思い出した後は、前世より没頭する勢いである。


 「……貴方の描いた絵の人物は、わたくしでしたの…?」

 「…はい、そうです。当初は家族を描いていたんですが、フェリーヌ様をモデルにした似顔絵を、つい勢いで勝手に描いちゃいました…」

 「………」


再び平民に戻った後、乙女ゲー似の全く別の世界だと、気付いた。やっと現実を見るようになった頃、誰かの肖像画と思われる絵を見た時、前世の趣味を思い出す。似顔絵を描くのが趣味だった、自分を。


名の売れない画家の卵が、身近な人物をモデルに描いた絵が、前世の記憶を鮮明に蘇らせた。趣味を思い出して以降、暇を見つけては無心に絵を描く、日々で。風景画も上手いと言われたが、やはり自分は似顔絵を描きたい。


思い出した当初は、自分の両親や今の家族を、モデルにした。戸籍上父に当たる実の祖父に、似顔絵を描いてプレゼントした。あまりにも自分に似た絵を見て、彼は驚くも大喜びであった。何時(いつ)しかこの世界(ここ)でも、似顔絵が趣味となる。絵を売るまで知らなかったが、この世界(ここ)では本人に似れば似るほど、肖像画として価値を持つということを……


 「私が勝手に描いた絵を、()()()()()()()でください。」

 「勿論、約束しよう。」


そう約束したはずが、貴族の家のメイドがバラしてしまい、既に時遅しで一気に噂が広まった。主に貴族令嬢達が、(こぞ)って買おうとした。当たり前のことだが、絵を描く当人も大忙しだったが。


そして到頭、フェリシアンヌの耳に入ってしまう。困惑した彼女は、誰が描いたのか誰が売ったのか、徹底的に調べさせた。もし悪意で絵を描いて、その上で売っていたとしたら、侯爵令嬢としての名に態と傷をつけた、可能性も有り得たから。


詳細に調べた結果、自ら絵を描き売っている、意外な人物が浮上した。その人物の正体は、アレンシアであると。平民に戻った後に、心を入れ替えたはずの彼女が、まさかフェリシアンヌを裏切った?…と、疑心暗鬼になった。だからこそ明確にすべく、侯爵家に呼び出した。


 「……あの~、フェリーヌ様。怒ってます…?」

 「…………」


今にも泣きそうな顔で、恐る恐る訊いてくるアレンシアに、フェリシアンヌは無言で溜息を()いた。貴族令嬢をモデルにした絵を、当人の許可も取らずに売るのは、犯罪とまではいかなくとも、マナー違反である。フェリシアンヌは怒っていないものの、心底呆れた。


……わたくしが知る前に一言、()()()()()()()良かったのに。それにしても、意外でした。シアさんの絵は、本物の画家が描いたみたいだわ…。




 


   ****************************






 その絵は単なるスケッチでなく、絵の具で塗る本格的なもので、フェリシアンヌにそっくりであった。前世のフェリシアンヌは、特徴的な似顔絵よりもよく似せた似顔絵を、好んでいた傾向がある。アレンシアの描いた絵は、遠目で見れば写真かと思うほど、本人によく似ている所為で、彼女も本気で怒る気にならない。


画家の卵どころか、今すぐ画家と名乗れそうな腕前だ。背景まで細部に渡り、丁寧に描かれている。これなら前世でも、プロマイド同様に人気が出るだろう。当然ながら写真のない世界では、飛ぶように売れるはずである。


 「…私が調子に乗って、フェリーヌ様を描かなければ、フェリーヌ様も嫌な思いをせずに、済みましたよね…。元々は趣味で描いたものなので、せめて絵を売った代金をフェリーヌ様に、受け取ってもらいたいと思ってます。私は今後、似顔絵を描くのは止めます。()()()()()()()も、もう描きません…」


しょんぼりと俯くも、アレンシアはきっぱり言い切った。初めからお金儲けではないと、絵の代金を全額渡すと言い、もう二度と絵は描かないと、宣言する。それは紛れもなく、彼女の生き甲斐を諦めるのと、同様のことだ。


嫌われたくないという気持ちが、フェリーヌにも伝わってくる。以前のアレンシアを知るからこそ、今回の件は悪気は全くなかったと、フェリシアンヌも苦笑するばかりであれど……


 「…はあ~。わたくしは最初から、怒っておりませんわ。ハミルトン侯爵家という立場では、何か良からぬ思惑があるのかと、疑っただけなのです。貴方がご自分の趣味を諦めてまで、取り上げる気はございません。」

「……えっ?……本当に…?」


本来なら見過ごすわけにいかないが、友人が趣味で描いた絵は、誰もが認めるほど素敵だと、フェリシアンヌは思っている。だからこそ怒る気はなく、趣味も続けるようにと告げれば、アレンシアは勢いよく顔を上げた。それでもフェリシアンヌを窺がいつつ、未だ不安に思うようだ。


弱弱しく訊いてくる様子は、まるで小鹿のように見える。フェリシアンヌが笑い掛けることで、アレンシアを安心させようとするも、当人はまだ信じられないのか、キョロキョロと視線を巡らせ、オドオドと挙動不審な態度を見せている。


 「シアさんの描く絵は似ているだけでなく、本格的な肖像画とも思える、素敵な作品だと言えましょう。ですから特別に、許可を致しますわ。これからも、お好きに描いてくださいな。絵の代金も要りません。但し、貴方も商人らしくしっかり、代金を受け取りなさいませ。そしてもし()()()()()()()のなら、貴方のでき得る形で何か役立つことに、お使いなさいませ。」

 「…それは、この先も私が絵を描いていいと、お許しが出たと思ってもいいんですか?…絵の代金を私がもらって、自由に使ってもいいという、意味ですか?」


アレンシアは瞳を見開き、恐る恐る確認する。フェリシアンヌは絵の代金も要らないし、今まで通り似顔絵を売っていい、と許可したのである。アレンシアは信じられない展開に、驚き固まっていた。


 「勿論ですわ。貴方が描いた絵なのですから、貴方が代金を受け取り自由に使うことに、何ら問題はございません。」

 「…フェリーヌ様。勝手なことをしてごめんなさい。そして、許してくれてありがとうございます。」


アレンシアはフェリシアンヌの好意に、心底感謝した。寛大でありまた寛容でもある言葉に、彼女は胸がいっぱいになる。だからこそ、ちゃんと謝ってから、お礼を言いたいと思う。


それに、フェリシアンヌが安易に許したのは、他にも理由があるからだ。既に彼女の似顔絵は貴族令嬢の間で、知らない者はいないというぐらい、王都で広まっているのだ。中には、裕福な平民も買っており、今更売らないと言えないほど、売れていたからである。


 「今更止めても、既に手遅れですわ。アリアお姉様もミスティも、買ったそうですもの。クリスも予約したそうですし、ユーリ様も買う気満々で…」

 「…えっ?…私は売ってないのに?……ええっ!!…王太子妃様も…?」

 「貴族の家では使用人達が、買いに行きますから…」


フェリシアンヌは親友に絵を見せられ、そこで初めて知った。王太子妃までが買う気だと知り、頭を抱えたぐらいだ。この話に、アレンシアも仰天する。まさか乙女ゲー悪役令嬢達も、買っていたとは知らず。王太子妃も買うと訊けば、血の気が引いた。今のアレンシアにとって、フェリシアンヌより王太子の方が、圧倒的に怖いと知っている。今更販売中止にすれば、あの腹黒い彼が表に出てきそうで。


それ以前に、アレンシアが描いたと知られたら、どうなるだろうか。平民になった元ヒロインが、描いたと知られたら…。身体の芯から冷たくなる。王太子を本気で怒らせたら、バットエンドまっしぐらだろうと、青褪めて。既にバットエンドしたけど、それどころの比ではないと、思っている。


 「…ヒロインのテレンシス様も、既に絵を買われたようですわ。わたくしの絵を収集している、という噂もあるぐらいでして…」

 「…………」


フェリシアンヌが苦笑すれば、アレンシアも頭を抱える。ヒロインまで絵を収集しているとは、前代未聞のことである。


()()()()()()()、収集してるの。ヒロインが私の描く絵を、集めて眺める(さま)を想像してみたら、鳥肌が……

 今回は、主人公と元ヒロインのやり取りで、誰が誰の似顔絵を描いたのかに焦点を置きました。元ヒロインが意外な才能を発揮した所為で、主人公も巻き込まれるという展開に…。


最後の一文で、元ヒロインが『鳥肌が立った』と、訴えています。新ヒロインは誰が描いたか知らず、またアレンシアが元ヒロインとも知らないので、もし誰が描いたか知ったとしたら、逆に好意を向けると思います。反対にアレンシアは自分と同じ立場の彼女に、関わりたくないと思っています。それなのに、自分の絵を収集していると知り、「私に関わらないで。ちょっと気持ち悪い」と、苦手意識を持っている感じでしょうか。


次回からは、乙女ゲーに関する話題になりそうです。新ヒロインの所為で脱線していましたが、今後は少しづつ本題を進める予定でいます。

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