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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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閑話7。新婚夫婦の重すぎる愛

 第2章もあとちょっと…。番外編は、今回で終了となる…?

 「ユーリっ!!……突然倒れたと聞いたが、大丈夫なのか?!」


ユーリエルンが倒れてから、少なくとも2〜3時間ぐらい、経過した頃。先ず医師が呼ばれ、診察中に王妃も駆けつけた時点で、既に30分以上経過している。


ユーリエルンの意識が戻ってからも、引き続き医師の診察と、王妃とのやり取りの末に、漸く自分の妊娠を知った。王妃や周りの侍女達が燥ぐ姿に、彼女も段々実感が湧いた様子である。


ユーリエルンの部屋で皆が大騒ぎする頃、夫である王太子は妻の一大事を、知らされたばかりだった。彼は慌てた様子で、妻の元に駆けつける。ノックもなく行き成り妻の部屋へと、真っ青な顔色で飛び込んだ。


近い将来に国王たる王太子は、幼少期から品行方正であったけれど、王宮の廊下を全力で走り抜け、その勢いのまま部屋に押し入ってきた。彼の妻の部屋とはいえ、王太子妃専用の寝所に。あまりに無作法な王太子の姿を目撃し、その場のほぼ全員が凍りつく。その後、彼らの視線は徐々に、()()()()()()()変わって。


 「…この無作法な状況は、何ですの?…王太子ともあろうお方が、音を立て廊下を走っていらした上、王太子妃専属の寝所に唐突に押し入るなど、いくら王太子の正妃と申しましても、不躾なことですわ。そのように慌てられた理由は、わたくしも十分理解致しましても、あまりに礼儀を欠く行いですこと…」


この中で王妃だけは、冷静であった。突然部屋に飛び込む王太子に、一瞬驚く様子で目を見開いたけれども、直ぐさま冷静さを取り戻す。ギョッとした様子の侍女達も、次第に落ち着きを取り戻した。


 「…母上…いえ、王妃陛下。私も礼儀を欠いたと、自覚しております。つい先程まで会議中でしたので、ユーリが倒れたとたった今、聞いたばかりなのです。ですからとても冷静ではおれず、急いで駆け付けました。ユーリが倒れてから何時間も経ち、どうしても気が(はや)り…」


王妃からの小言は、優しくも厳しいものだった。王太子は自らを恥じつつ、報告を受けたのが遅れた所為で、冷静さを失ったと告げる。剣術の訓練中でも、息切れを滅多にしない彼が、「はあ…はあ…」と息を切らせるほど、焦ったらしい。


 「…ふう。例え…どういう理由であれ、王族たる者は常に冷静に、行動しなければなりませぬ。貴方が慌てられたところで、()()()()()()()()()わ。」

 「…………」

 「ユーリを心配なさった貴方が、逆に驚かすような行動をなさっては、いけませんことよ。王太子の名に恥じぬよう、思慮深く責任のある言動を、なさってくださいませ。」

 「…………」


普段はおっとりした雰囲気の王妃が、礼儀を欠く王太子の行動に、手厳しい言葉を投げ掛ける。小言とは言えど、大声で怒鳴るわけでもなく、睨みつけ怒りを出すのでもなく、淡々と冷静に告げるだけだった。寧ろ、本気で怒られるよりも、逆に怖いと思わせる態度である。


正妃1人の前だけでなく、侍女達大勢が集まっている前で、王妃が王太子を非難する光景には、侍女達も苦笑することさえできぬ、笑うに笑えない状況だ。流石に、笑う勇気はないだろう。


 「…止むを得ずとはいえ、申し訳ありません。母上の仰る通り、私はまだ未熟者のようです。…ユーリ。貴方が大変である時にも拘らず、夫である私が騒がせてしまったな…。本当にすまない…」


医師と侍女頭の2名は、何故か不自然なほどに瞳を、ガッと見開いた。王妃に怒られた王太子の尊厳を守ろうと、目頭に力を入れ失笑せぬようにするも、侍女達がその顔の方が怖いと思う傍ら、逆に笑いのツボに入りかけて。にやけ顔を隠そうと、慌てて視線を下に向ける。


……えっ?…ええっ?!…普段は、にこにこと笑顔を振り撒かれ、穏やかで静かな振る舞いをなされ、淑女の鏡とされる常に冷静な王妃様が、ライトバル殿下にお説教なさるなんて…。ゲームでは真面目過ぎて、王族という重圧に苦しまれたライト様も、現実では少年の如く振舞われることも、あって…。()()()()()()()今のような彼を、初めて拝見致しました……


 「…ユーリ。我が最愛の妻である、貴方の身体を慮れず、本当にすまない…」

 「…………」


明らかにシュンと悄気ながら、誠心誠意謝ろうとする夫に、ユーリエルンはある幻を見た。気性の荒い百獣の王が、獰猛な動物の赤ん坊のように甘え、やんちゃ坊主の姿を振る舞い過ぎたのか、百獣の王の母から怒られる、そういう幻を。






    ****************************






 「今からこれほど大変なのに、夫1人に妻2人も…要らない。唯一愛する相手の子を育む幸せを、知らないとは虚しすぎる…」


ユーリエルンがそう呟くのは、まだもう少し先のことになる。妊娠し出産するまでの間に、悪阻(つわり)の影響で匂いに敏感になり、常に気分が悪く嘔吐することもあった。出産時も前世と違い、医療器具もない出産は命懸けだと、側妃は要らないという結論が、出たのだろう。


それは兎も角として、ユーリエルンから見た王太子の姿が、一瞬にして百獣の王から子犬の姿に、変化(へんげ)したようにも見えていた。要するに、人間にあるはずのない耳と、尻尾をペタンと垂らす幼気(いたいけ)な姿に、見えてしまったらしい。


 「……ふっ、…ふ………ふふ………ふ…」

 「…どうしたのだ、ユーリ?……もしかして私の浅はかな振舞いに、怒っているのでは…」


ライトバルは自らの不甲斐なさに、落ち込む。しかし、無言を貫くユーリエルンの唇から、震える抑え気味な声が漏れた。身体を小刻みに震わせる彼女を見て、彼は動揺し困惑する。自分が大騒ぎをした所為で、彼女の容体が悪化したのか、それとも彼の無作法に怒ったのかと、慌てふためく様子に。


 「……ふふふふふふっ。…このように慌てふためいたライト様は、初めてお見かけ致しましたわね。………ふふふっ…」

 「…ユーリ、あまり驚かさないでくれ。倒れたと聞いた時から、胸の動悸が激しくて如何(どう)にかなる、と思うぐらいであった。もし…ユーリが儚くなれば、私の動悸も止み儚くなるだろうな。それでも()()()()()()()()、嫌なのだが…」


夫の慌てぶりに妻は、笑いが止まらない。そのお陰でライトバルも冷静になれたものの、王太子ともあろう者が冗談にも程がある、と思わせる言葉を告げた。これには流石に妻も、苦笑気味になる。


 「…もう、ライト様ったら…。そのような縁起の悪い話を、なさらないでくださいませ。貴方は我が国唯一の王太子殿下で、次代の国王陛下なのですわ。ご冗談が過ぎましてよ。」


ユーリエルンの声が漏れた時、王妃と侍女達もハッと息を呑んだ。今は彼女1人だけの身体ではなく、ちょっとした精神的なストレスさえ、妊娠初期の体に負担がかかると、知るからこそ。


 「いや、冗談などではない。飽くまで私の本心だ。今の私には、ユーリさえいればよい。貴方を、誰よりも愛している。私より先に逝くのは、絶対に許さないよ。私の愛が重過ぎたとしても、これは譲れないことだ。」

 「…わたくしも、同じ気持ちですわ。今更、側妃を娶ると仰られても、わたくしが許しませんわ。ライト様こそ…わたくしの愛の重さを、ご覚悟なさって?」


愛の告白めいた会話を交わす皇太子夫妻を、医師と王妃を始め侍女達は、無言で見守る。王妃は死んだ魚のような目で見つめ、ベテラン侍女達はニヤリほくそ笑み、若い侍女達は今にもキャーと騒ぎたそうな顔をし、医師はただ目を泳がせた。


 「…こほん。王太子も王太子妃もそのような会話は、2人っきりの時にでもなさいませ。貴方方の目の前で、愛の告白を()()()()()()()()()()、なっていただきたいのですが…」

 「…ひゃっ?!…………」

 「…………母上………」


当人達は2人だけの世界に入り、周りが見えないようだ。少なくとも、王妃が忠告するまでは…。王妃から声をかけられ、漸く我に返る。ユーリエルンは飛び上がりそうに驚き、ライトバルは単に居心地が悪い、という素振りで。


…うう〜。つい…おかしな叫び声を、上げてしまいました…。ライト様があまりにも普通に告白なさるので、王妃様達の存在を完全に忘れてたわ。…うう、…恥ずかしすぎる〜〜!!


うっかり夫の雰囲気に呑まれ、大勢の前で重い愛を語り合っていた。妻は真っ赤な顔を少しでも隠そうと、両手で顔を覆う。あれほど動揺していたくせに、今は普段と変わらぬ平然とした様子の夫に、妻は恨めしく思った。


 「わたくし達はお邪魔なようですし、お2人でゆっくりなさいませ。ユーリはこれ以上無理をしないで、しっかりと休みなさいな。王太子殿下もユーリに、無理をさせないように…」

 「……はい、王妃陛下。重々承知致しました。」

 「…王妃様。お気遣いいただき、ありがとうございます。」


王妃の鶴の一声で、ユーリエルンとライトバルだけを残し、医師含めとする使用人達も皆、王妃の後に続いて出て行った。そして…誰も居なった途端、王太子は()も心配げに妻の手をそっと握り、労わるように撫でていく。


 「…あの、ライト様。()()()()()()()()がございます。わたくしが倒れたのは…他でもなく、実は…ライト様の御子を授かりましたの…」

 「……っ!!………ああ、ユーリ!…これほど嬉しい知らせは、生まれて初めてだよ!…ありがとう、私のユーリ…」

 「…ふふっ、ライト様。貴方の御子を授かりましたこと、本当にわたくしも大変嬉しゅうございます。」


ユーリエルンからの妊娠報告に、ライトバルは感激するあまり、妻をギュッと抱きしめようとしたが、寸前で思い止まる。お腹の子を潰さないように、そっと抱擁した。夫の胸に凭れ掛かる妻に、夫は妻の顔に優しく口付けを落とす。普段の彼らも甘々だが、今の彼らは更に甘く……


彼ら以外誰もいない部屋で、さり気なく激甘な空気を放つ夫婦に、屋根裏の隠密達が砂糖を吐く寸前だとは、露とも知らず。…否。少なくとも王太子は、気付いているはず。一体何の拷問かと隠密達は、本気で任務を放棄したくなった。

 ユーリエルン主役のメインストーリーは、今回で終了となります。本人も妊娠を漸く自覚し、ライトバル殿下が無事合流するまでに、色々な問題などを乗り越え、最後は只管イチャついて終わる展開に…。但し、2人っきりで単にイチャイチャしても、ストーリー的には面白くないと思い、周りも巻き込む形にしています。


後半部分で、前回の一部に関した説明を入れるに当たり、また出産までの過程を書く予定もないとして、ほんのちょっと先の未来も加えました。要するに、側妃は要らないということを、強調させたかったわけで。


次回は例の如く、登場キャラ達に関する公開をして、第2章を終わらせたいと思います。第2章『開幕』は、次回で終了となる予定です。



※『婚約から始まる物語を、始めます!』は、暫し休載となる予定です。休載期間は未定となります。その後、第3章開始とする予定でいます。あともう少しだけ、お付き合いくださいませ。

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