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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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閑話6。正妃以外は要りません!

 番外編はもう少しで、終わりそうです。あと少し、お付き合いを……

 「2週間ぐらい遅れるなんて、私には何時(いつ)ものことね。」

 「…ふうん、そうなんだ。それだけ不規則だと、色々と大変そうね…?」

 「…そうなのよ。遅れるほど、痛みが段々と強くなるし…」

 「…うわあ~。痛みが酷くなるのは、私も…嫌だなあ…」


何の話かと思えば、女性特有の悩みについてである。前世では不規則ではなかったと思えば、ふと前世の記憶が蘇ってきて、友人とのやり取りを思い出す。痛みの強い友人とは違い、そんな辛さも何もなく、気にもしなかった。


 「おめでとう、ユーリ。これでわたくしも漸く、孫をこの手に抱くことができますわね。」

 「……???……」


王妃が態とらしく匂わせても、ユーリエルンの頭の中は『?』マークが、盛大に飛び交う。王太子妃がキョトンとする中、王太子妃及び王妃陛下の侍女達、ほぼ全員が黄色い歓声を上げ、上を下への大騒ぎだ。当然ながら当人だけは、置いてけぼりの状態のまま……


侍女達の歓声にギョッと驚くも、ユーリエルンは何が何やら分からない。前世では出産どころか、結婚した経験もあったかどうか、一切思い出せない。真面に恋愛もしたかどうかさえ、分からないと言えた。それでも…。


一生を喪女として過ごしたとか、それとも早死にだったとか、何も覚えていないというのに、恋愛も結婚も妊娠も出産も、その全てを初めてだと感じる。長い間ずっと、この世界を乙女ゲーだと思っていたし、彼女も必死に現実と向き合ってきた。但し、前世で経験していようとも、この世界(ここ)()()()()()()間違いない。


 「おめでとうございます、王太子妃さま!」

 「……っ!?……」


王宮の侍女頭である女性が代表し、ユーリエルンに祝辞を述べても、当人だけは未だ単なる疲れからだと、信じ込んでいるようだった。王妃も先程まで、緊迫した雰囲気を纏っていたものの、普段の柔らかな雰囲気に戻っている。


 「王妃陛下、おめでとうございます!!…これで王家も、安泰ですわ。」

 「…ふふふっ。まだ…油断は、禁物ですわ。()()()()()()()でしてよ。」

 「「「「「「王妃様、王太子妃様、おめでとうございます!」」」」」」


王妃陛下直々の祝辞に続けと、この場に居る侍女全員は次々、王妃とユーリエルンに祝辞を述べてくる。彼女は侍女達が何故、王妃にまで祝辞を述べるのか分からずに、ただ茫然とこの光景を見つめた。


 「……孫?………王妃さまの……孫?」


先程の王妃の言葉を思い出し、ふと呟く。言葉に出して反芻すれば、経験あるなしに限らず、漸く冷静に見えてきた。王妃陛下には未だ、孫は1人も居ない。王妃が出産したのは王太子だけで、王太子の妻は正妃のユーリエルンのみだ。当然ながら王太子の御子は、王太子妃の自分が出産することになる。勿論それは、愛人や側室がいないという、前提ではあるけれど……


現国王には王妃の他に、側妃がいる。側妃が産んだ2人の御子は、まだ幼く成人もまだまだ先である。百歩譲って側妃側に孫が生まれ、国王が孫と発言しようとも、王妃も自らの孫と表明するとは、思えない。


 「現国王は貴族を牽制し切れず、結果的に側妃を持ってしまったが、王妃も側妃も私も弟も妹も、国王の決断に不満を持つことはないよ。誰が見ても国王は王妃を溺愛し、側妃とその子らにも愛情を向ける、家族思いの良き父親だからな。だが私は父のように、愛せない。正妃と側妃を共に愛すなど、絶対に無理な話だ。」

 「(ただ)1人を愛すること、例え()()()()()()()だとしても、互いに愛せるとは限りません。時に人間は愛がなくとも共に過ごし、理解し合ううちに愛を知ることも、ございます。国王陛下は、王妃陛下には異性への愛を、側妃様には家族と同類の愛情を、向けておられるやもしれませんね…」

 

ユーリエルンは王太子と、結婚前に交わしたやり取りを、思い返していた。元々体の弱かった王妃は、王太子殿下を出産した直後に、これ以上は無理だと診断されたらしい。いくら国王が王妃を溺愛しても、側妃を拒絶するのも限界があり、止むを得ずに側妃を娶ることになる。但し、王太子だけでは心許ないと騒ぐ貴族が、娘を側妃に送り込む前に、王位に関心のない側妃を娶る為、自ら先に手を打った。


 「側妃は、愛する者がいた。しかし、身分違いの相手であったことから、結ばれることはなかった。側妃は政略結婚として、陛下からの提案を受け入れたようだ。家族として大切に守ると、陛下が仰ったから信用なさった、と…」

 「側妃様のお気持ちは同じ同性として、理解できましてよ。例え政略結婚だとしても、一夫一妻の国に嫁ぎたいと、わたくしも本気で願いましたもの。」






    ****************************






 ユーリエルンは一夫多妻を拒絶し、カルテン国に嫁がないと暗に振舞う。さすれば王太子たるライトバルが、彼女を面倒に思うだろうと考えた。ところが、隣国の姫君に対する彼の態度は、その後も一向に変わらなくて。


 「私は生涯、側妃を持つ気はない。貴方が不安に感じるのなら、今はまだ無理な話だとしても、国王即位までには一夫一妻制へ、変えてみせよう。」


前世の記憶のあるユーリエルンが、一夫多妻を毛嫌いする理由の中には、乙女ゲーの攻略対象としか見れない、その真実も大きいと言える。王太子当人から、側妃は持たないと断言されれば、それ以上()()()()()()()なく……


本当は心のどこかでユーリエルンも、ライトバルに惹かれ始めていた。彼女にとっては最早、彼は現実に生きる人であり、単なる乙女ゲーの架空の人物(キャラ)ではないと、思えるようになる。真面目で人当たりもよくて、身分を問わず誰にでも平等に接する人。そして見た目で判断せずに、ちゃんと自分を見てくれる人だ、と…。


乙女ゲーでの王子ルートでは、既婚者でありながらヒロインに惹かれ、政略結婚した悪役正妃を離縁する。そして半年後、更に高位貴族の養女となったヒロインと、王太子が再婚するという、ハッピーエンドも用意されていた。


乙女ゲーに似た世界とはいえ、此処は現実の世界でもあり、乙女ゲーと同じ展開になることは、現実としてはほぼ有り得ない。我が国では先々代の頃より、王太子の妃となる者は生粋の貴族令嬢であると、法で決められている。例え貴族の養子となれど、元平民は対象外とされた。例えアレンシアのように元々貴族であれ、長年平民として過ごした者が、王妃教育を 終える(マスターする) のは難しいと、思われる。


 「具体的に例を挙げるなら、例の元子爵令嬢(クレイジーむすめ)とルノブール公爵令嬢は、王族との婚姻からは対象外だよ。元子爵令嬢(クレイジーむすめ)は当然のことであるが、公爵令嬢が礼儀作法を心得ていようと、安易に例外を出せぬ。国の民からの信頼をも、失うことになるからな。ユーリが民を思いやる心優しき姫君で、神に感謝しているよ…」


乙女ゲーのライトバルは、民を思いやる優しい王子様で、嘘がつけないほど真面目な人物であった。現実の彼も見た目はゲームの彼と、そっくりに思うところもあるが、ユーリエルンは婚約者だった頃から、ゲームと違って裏の顔もあるようだと、長年の付き合いで理解していた。


表向きは優しげな彼も、少々どころか其れなりに腹黒い。常日頃から、相手の手の内を観察し尽くし、逆手を取り自分の手の上で転がす人。ユーリエルンは、正にそう思う。その点は、ゲームと真逆だと。


 「…ライト様ったら、大袈裟でしてよ。王女に生まれた者として、国の民達の生活を守るのは、王族の当然の義務ですもの。ライト様と出逢えたこと、神様へお礼申し上げたいのは、わたくしも同じですわ…」


乙女ゲーの設定では、悪役正妃を城から追い出したと、王子との会話の中で判明するものの、その後の正妃の行方は分からない。但し、それ以上の罰が与えられた可能性も、完全には否定できず。()()()()()()想像できると、ゲームと現実の彼が別人であることに、感謝せずにはいられない。


 「…ユーリ、私も…貴方と出逢えて良かった。王族同士という婚姻で愛せる者に出逢うなど、滅多にないことだ。私は一生、ユーリだけを愛すると誓うよ。」

 「……もう、ライト様は狡いですわ。…わたくしも、貴方だけですわ…」


こうして振り返ってみれば、母国から嫁いだ婚約期間中の頃より、ユーリエルンに対するライトバルの態度は、今の溺愛に近い状況の前触れが、見られていたと言える。結婚後の現在は更に、激甘な旦那さまへと変化(へんげ)した。これで2人の間に我が子が産まれたら、どうなることやら……


 「…王妃様の孫は、ライト様の御子なのでは?……ええっ?!…まさか……」


こうしてパズルのピースが、カチリと嵌っていく。王太子の子は王妃の孫という真相に、ユーリエルンは辿り着いた。王妃の発言の意味を知り、彼女は余計に混乱してしまう。


…それはわたくしにとっても、我が子に当たりますかしら?…んん?……わたくしの子…?………もしかして、わたくしに子が…?!


妊娠直後に腹が膨らむはずもないが、理解したらつい自らのお腹に、視線を向けてしまう。呆然自失状態で顔を上げると、王妃と目が合った。自信なさげな義娘(よめ)に、王妃は優しく微笑む。


 「…ユーリ。たった今貴方が、ご想像なさった通りでしてよ。貴方は今日この日を(もっ)て、()()()()()()()()お持ちなさいませ。」

 「………っ!!………」


王妃からハッキリ告げられ、自分が妊娠したと確信した。正妃としての役割は重要であり、王太子が側妃を娶らない以上、王太子妃にその負担が全て、()し掛かることだろう。


 「王太子妃殿下。王妃陛下の仰る通り、『ご懐妊』で間違いございません。」


ユーリエルンの自覚後、医師はお目出度だと正式に告げれば、侍女達はまるで自らのことのように、喜んだり嬉し泣きをしている。この世界(ここ)はもう、私の大切な人達の居る世界(ばしょ)だと、涙ぐむ彼女は……


 「今からこれほど大変なのに、夫1人に妻2人も…要らない。唯一愛する相手の子を育む幸せを、知らないとは虚しすぎる…」

 ユーリエルンのメインストーリーが、続いています。やっと妊娠を自覚したようですが、夫・ライトバルは未だ登場せず…。次回は、登場する予定ですが…?


今回も過去の会話などが、入り混じっています。夫婦の会話部分は、結婚してから妊娠するまでの間のもの、という設定になります。



※本文には一部、当て字を使用していますが、今回は特に多用しました。

※第2章『開幕』はあと数話で、終了する予定です。


※『婚約から始まる物語を、始めます!』は、暫らく休載を致します。休載期間は未定です。その後、第3章開始を予定しています。

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