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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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閑話2。永遠の誓い、姉弟の如く

 今回からは暫く、番外編となります。過去の話が中心になるかと…。


手始めに未だ出番の殆どない、あの人が…登場?

 「お久しぶりです、フェリーヌ姉様。この度は兄上が、姉様にとんでもないことをやらかしたと、伺いました。不肖の兄に代わり、弟の僕が謝罪致します。本当に申し訳ございません。我が兄は何処(どこ)までも救いようのない、愚か者ですね…」


まだあどけさを残した1人の美少年が、とある令嬢の前で突然跪く。この国の騎士のように片膝を床につき、謝罪してきた。何時もの元気な姿ではなく、自ら大きな罪を犯した罪人だというように、しょんぼり首を垂れている。


 「…本当にお久しぶりです、ラング。お顔を上げてくださいませ。貴方がわたくしに謝ることなど、何もございません。あれは、彼自身の責任問題ですから…」


フェリシアンヌは微笑み、少年に手を差し出す。元婚約者の実弟とは言え、実の姉同然に慕ってくる少年に、彼女もまた実の弟同様に可愛がっていた。だからこそ、肩を小刻みに揺らしつつ、頭を下に向け平謝りしてくる、実直で心優しい少年の謝罪に、心苦しく思う。


 「…兄がああなったのは、公爵である父の暴虐無人な振舞いが、抑々の原因となったと言えることでしょう。日頃から父の言いなりで、兄を諌められない母上も、兄に進言できなかった弟の僕も、責任逃れをする気はありませんが、僕も公爵家の者達も皆、姉様に()()()()()()()()()ないのです…」


少年こと『ラングルフ・キャスパー』は、キャスパー公爵の次男であり、彼女の元婚約者ハイリッシュの実弟に当たる。元婚約者とは距離を置いていたが、少年とは実の姉弟(きょうだい) 同様に仲良くしていた。その頃の彼女にとって、彼は 乙女ゲーで名も無いモブであり、気の置けない仲とも言える。


…例え血の繋がる兄弟でも、別々の人間ですもの。貴方が謝る必要は、これっぽっちもございませんわ。年齢以上にしっかりなさっておられましても、13歳を迎えたばかりですもの。前世であれば、まだ中1の子供ですのよ。其れなのに……


兄の言動は以前から、社交界でも問題視されていた。(いず)れ2人の婚約は破棄されるだろうと、ラングルフも想像できていたけれど、まさか兄がこんな形で婚約破棄を願うとは…。常に彼女を裏切っていた兄が、()すべき資格はないと何故気付かないのか。少年の悲痛な叫びが、彼の全身を纏う。


 「…ラング、お立ちくださいませ。貴方もご存じでしょうが、わたくしは彼を愛しておりませんし、彼からの婚約破棄は願ってもない 好機(チャンス) でしたわ。今は寧ろ、ホッとしておりますのよ。彼に対しても、特に恨みはございません。その上で許すか許さないかについては、また()()()()()()()()。」


元婚約者の強引な婚約破棄は、法的に認められる行いではない。乙女ゲーの記憶がある彼女には、婚約者に囚われることもなく、乙女ゲーの悪役令嬢の末路を回避できたものの、記憶を取り戻さなければどうなったか、そう思ってゾッとした。前世を知らないラングには、知られたくもない事情である。


 「…フェリーヌ姉様は元々、兄には勿体ないお方です。兄上とは抑々、ご縁がないのでしょう。姉様を自ら手放したことは称賛致しますが、兄上はこれから一生を掛けて、償うことになるでしょう…」


彼女の優しい声に導かれ、今にも泣き出しそうな顔をして、ラングルフは漸く顔を上げる。家族との遣り取りで疲れているのか、弱々しく告げた。彼の目の下の薄い隈を見て、暫く眠れない夜を過ごしているのでは…と、心配になってくる。


例の事件から数日、ラングルフは眠れぬ夜を過ごした。ハイリッシュと元公爵の父親に、手厳しく適切な処分を与えるべく、大人達は対応に追われる一方で、成人前の彼は蚊帳の外に置かれていた。1人でいると、余計なことばかり考えてしまう。父に叱られ兄に殴られてでも、諫めるべきだったと幼い胸を痛めるほどに。


 「ゆっくりと眠れずに、いらしたのでは?…真面目でお優しいラングのことですから、悔いていらっしゃるのですね…。例え、公爵夫人や貴方が進言なさっても、公爵様は聞き入れてくださったかしら…?」

 「……はい、姉様の仰る通りかと…。目に余り過ぎる兄上の所業は、もう直らないだろうと誰もが諦めていたようです。今更ながらに振り返れば、母上も成長すれば直るとでも、思っておられたかもしれません。子供で嫡男でもない僕は、何もできないと現実から逃げたのです。それなのに…僕は図々しくも、姉様との縁を切りたくないと、思っておりました…」

 「血が繋がらずとも、わたくし達2人は家族ですわ。既に切っても切れない繋がりを、築いてきておりますもの。ですからキャスパー家に嫁かずとも、そう簡単に切れるような縁ではございません。ラングがそれを()()()()()()()()、わたくしも同様に望むことになりますわね。」






    ****************************






 「…ありがとう、フェリーヌ姉様。僕も心から、望んでいます。但し、今後も僕達が親しくすることで、他の貴族達が姉様にどういう態度を取るかと、急に恐ろしくなりました。兄様から酷い仕打ちをされて、姉様も僕に()()()()()()()()()…と気付いたことも、眠れない原因になったようですね…」


ハイリッシュは公爵家嫡男の頃から、弟を居ないものとして扱い、興味も示すことは一切なかった。傲慢に成長した結果、次第に実母まで見下すようになっていく。現在は公爵家を追い出されて、公爵家親戚筋に当たる屋敷で、使用人として働いている。使用人家系のレンブラー姓を、新たに与えられる形で。


彼らの父・前公爵の振舞う態度が、家族に与えた影響は甚だしい。夫人が夫に服従していた状況も、要因になっていた。父も兄同様に爵位を剥奪され、ラングルフが嫡男となる。彼が正式に跡を継ぐまでと、夫人は当主兼公爵位を受け入れた。


独裁的な存在を示す夫、その夫に逆らえないか弱い妻、父に似て自分勝手に振舞う嫡男。彼は長年そんな彼らを見続け、家族からの愛情を諦めながらも、代わりに姉という存在に愛情を求めた。但し夫人だけは、我が子に愛情を注いでいたことに気付き、彼は母の良き理解者になろうとして……


 「貴方をこれほど不安にさせるとは、もっと早く訪問すべきでしたわ…」

 「…姉様は、何も悪くありません。いつしか兄を実の兄だと思えず、姉様を実の姉のように尊敬することで、無意識に兄を認識しなくなっていきました。だから昔も今も兄弟姉妹と言えば、僕には姉様だけなんです。姉様に縁を切られたら…と、不安で一杯でしたよ。いざという時は公爵家を出ると、覚悟したぐらいです。」


前世で関わった人物で覚えているのは、旦那様だけである。弟か妹の誰か、居た気もする。容姿はぼんやり思い出せても、名前や性格などは何も思い出せない。今の世界ではモーリスバーグとカールユーラも居て、兄や妹との仲も良好だ。またラングルフは、兄弟姉妹(きょうだい)枠内の弟枠に含まれる。


 「わたくしにとってラングは、実の弟同然だと思っておりますので、何の心配もございませんのよ。もし…公爵家で心細い思いをされていらっしゃるのでしたら、何時でも我がハミルトン家では、()()()()()()()()できておりますわ。」

 「…いいえ、姉様。その必要はないですよ。父上と兄上が公爵家から去っていかれたお陰で、母も僕もやっと自由を手にしたようです。母が父へ進言なさる度に、暴言を受けていらしたことは、僕も存じ上げておりました。父は僕達兄弟にも暴力を向けられ、その度に母が守ってくださっていたと…。今後は僕が母を守るという約束を、神に誓ったばかりなので。」

 「……っ?!……前公爵さまが、暴力まで振るわれるとは。わたくしに優しくなさる一方で、裏の顔をお持ちでしたのね…」


夫人は今までもか弱いながら、自分の子供達を必死で守ってきた。庶民や下女など多数の女性と浮気した上、妻との離婚にも応じることなく、家族には暴言や暴力を振るい続けた。その事実を初めて知った、フェリシアンヌは。今でも彼が公爵家に居場所がないのかと、本気で疑う。


それが事実であれば、侯爵家で保護しようと決意して。但し、彼女の単なる杞憂ではあったが。彼女が与えてくれる深い家族愛に、彼は嬉しくなって微笑んだ。


 「…ふっ、そうですね。僕もここまで最低な父親だとは、今までは思っていませんでしたよ。父が特に機嫌の悪い時は、僕達兄弟も暴言を言われたけれど、まさか母に手を上げていたとは…。今思えば父は気も小さく、自分より明らかに弱い者にしか、当たらなかった…。何度か目撃した母上側の使用人達が、最近になって漸く教えてくれたんです。母上のお陰で僕達は、暴力を受けずに済んだことを…」

 「同じ女性として現公爵さまを、ご尊敬申し上げます。本当のお姿は自らの意志を貫く、芯の強いお方ですのね。前公爵には、失望を致しましたが…」


違えた道を選んだ息子を、敢えて厳しい道へ導いたのは、我が子を愛する上での愛の鞭だ。いつかは更生してほしいと願い、今更だとしても適任者に任せた。母親の意向通りに息子が更生するのは、まだまだ先の話となるだろうか…?


 「フェリーヌ姉様は聡明で優しくて、僕は姉様が一番大好きです。これからも僕の姉様に、なってくださいますか?…こんな僕が弟で居続けても、許してくださいますか?」

 「勿論ですわ。今後もわたくしはずっと、貴方の姉で居続けますわ。貴方も決して無理をなさらずに、わたくし(あね)を頼ってくださいませ。」


2人の間には『家族』の愛情はあれど、恋情ではない。家族同様に…否、それ以上に大切に思い合う2人の縁は強固で、今後彼らに()()()()()()()()としても、簡単には切り離せないだろう。


その後、ラングルフは正式に公爵家嫡男となり、次期当主となると決まったも同然になると、未だ婚約者のいない彼には、山のように縁談が舞い込んだ。それなりに策略家らしい彼は……


 「…申し訳ありません、姉様。あともう暫くは、姉様の名をお貸しください…」

 後続の乙女ゲー攻略対象、ラングルフがメインとなる話です。今回は、彼の実兄であるハイリッシュが退場した、直後の頃になります。ハイリッシュ当人は登場しませんが、兄としての過去の姿が語られることに。また、父親も同様の扱いです。


ハイリッシュがフェリシアンヌに、婚約破棄を突きつけた直後から、約1週間前後の頃になるでしょうか。フェリシアンヌから見たラングルフは、実弟にしたい可愛い年下の少年ですが、実際の彼は本文内で見せた、あの姿に近いと言えそうです。腹黒まではいかないけれども、次男の立場らしくちゃっかりしてるかも……


彼が名を借りることに関しては、また別の機会にもう少し掘り下げて、書くつもりです。だから今は敢えて、語らないことにします。



※本文中の実兄の失態に関する詳細は、前作『婚約破棄から始める物語を、始めましょう!』の第1話を、ご参照くださいませ。また第2章『開幕』は、残すは番外編のみとなりました。あと数話で、第2章は終了となりそうです。


※『婚約から始まる物語を、始めます!』は、第2章終了後に暫らく休載させていただき、休載後は第3章を開始する予定です。

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