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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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53話 騙されてはいけないのに

 前回に引き続き、婚約者との遣り取りになります。今までの出来事を、婚約者が問い詰めるという形は、続く……?

 「…カイ様。ご心配をお掛けして、本当に申しわけございません。わたくしをこれほど大切に想ってくださり、本当に嬉しいですわ。ですが、貴方はあまりにお優し過ぎます。わたくしは貴方のことをまだ、殆ど存じ上げておりませんから、わたくしに貴方のことを知る機会を、お与えくださいませ…。前世も幸福な人生でしたけれど、今は…貴方の隣が一番、わたくしの幸せ場所なのでしてよ。」


頬をほんのり赤く染め、嬉し気に婚約者を見つめるつつ、申し訳なさそうに項垂れる婚約者に、カイルベルトは後ろめたく感じ、ばつが悪い顔である。監視されたとキレてもおかしくない相手から、逆に感謝されては。


…前世は幸せだったと、思っていてくれたのだな。当時、彼女は積極的な女性だったし、男として頼りない俺との結婚を、後悔していたかもしれない…と、転生後の今更不安になったが…。ずっと今まで、俺と()()()()()()()()()()相手に、監視だと疑われても仕方のない、護り方をするなんて……


カイルベルトは心の中で、「騙してごめん、フェリ…」と呟いた。前世の平和な時代と違い、平穏と真逆な常に危うい世界で、生き延びる為には仕方がない。決して騙すつもりはないが、彼女を護りたい気持ちは譲れない。


本来ならば誰もが、「勝手に護衛を付けるな!」と反抗し、黙って護衛を付けられた側の人間としては、事前に一言ほしかったというのが、当然であろう。いくら身を護る為とは言え、婚約者から秘密裏に隠密を付けられ、言動の全てが婚約者側に筒抜けになるのは、女性でなくとも好まれないはずである。


 「そこで満足しては駄目ですわよ、フェリーヌ!…飽くまでも、便宜上の言葉の羅列でしてよ!…監視されていたと申し上げても、過言ではございませんのよ!…決して騙されないでっ!!」


此処にクリスティアが同席したら、単なる護衛と説明する婚約者を、1ミリも疑う様子のないフェリシアンヌに、苦言を呈していただろう。生粋の貴族令嬢だとしても、これほど鵜呑みにして疑わないなど、有り得ない話だ。『護衛=監視』と疑うのが、一般的な貴族の姿だと言えるのだから。


実際には助言者はおらず、貴族令嬢であっても実直な彼女は、彼を信じ疑うことはない。前世で最愛の旦那様と幸せを掴み、現世も婚約者にこれほど強く想われて、前世の旦那さまにも現世の婚約者にも、申し訳ない気持ちになった。


 「…君の信頼を得られ、私も嬉しい限りだ……」


カイルベルトは一瞬、言葉を詰まらせる。気弱で男らしくない自分は、女性から見れば単なる男友達でしかなく、典型的な草食系男子だったと、自覚していたからこそ。実際は気弱でも軟弱でもなく、中世的な容姿も相まって見えた、()()()()()()()だ。自らを変えようと、長年に渡り努力を重ねた結果、喧嘩を売られても撃退できるし、いざという時には愛する人を護り切る、それが彼本来の姿である。


武道に秀でた強者ではない限り、素人不良グループを相手にしても、たった1人で立ち向かうぐらいには。普段は穏やかな性質の彼が、自ら喧嘩を売るはずもなく、軟弱に見せかけた彼を相手に、喧嘩を売る痴れ者もいなかっただけで。


武道関係者が規定場所外で、一般人の喧嘩に巻き込まれたとしても、暴力行為に加担したと見做す場合もある。道場の昇級審査、協会の昇段審査は受けても、また練習試合には出ても、彼は公式試合には一切出なかったが、彼はそういう立場でもあった。こうした真実を知れば、喧嘩を売る気にもなれないが。


平凡な男子として過ごし、前世の妻となる彼女と知り合うも、彼の態度が変わることはなく。彼の飾らない姿に、彼女の心は鷲掴みにされたと、彼自身は未だに気付いていない。


 「貴方を友人扱いしてきた女性達は、貴方の本当の姿を知らない。見た目で判断したばかりか、1人の男性として見ない。貴方の本来の姿を知る努力を、一度も試みようとしなかったのね。」

 「…君の言い分は、飛躍し過ぎだよ。多くの日本人は、普段から褒められることに慣れておらず、俺も…嬉しいより恥ずかしいかな。物語のヒーロー級の扱いを受けても、居た堪れなくなるんだ。これ以上は、勘弁して…」

 「…ふう~。日本人はもっと自分自身に、自信を持つべきね。他の誰が何を言おうと、貴方はもっと自信を持って良い。見る目のない女友達とは、縁がないだけ。貴方と私は、()()()()()()()出逢ったの!」


何度も繰り返し称賛する一方で、「そこは誇ってよ!」という彼女の不満気な心の声が、聞こえるようだ。無意識に他人(ひと)の本質を見抜くからこそ、出逢う運命だと感じているのか……


…君と俺が出逢い、また貴方と私が出逢う。この運命だけは、私も誇れるよ!






    ****************************






 「…ノイズ嬢には困ったものだ。…いや、王太子妃殿下も困ったお方、と言うべきだろうな…」


深く溜息を()き、カイルベルトはポツリ愚痴を零した。フェリシアンヌの婚約者である彼は、忙しい合間を縫って久しく、彼女の元を訪問している。アレンシアが学園の食堂で働く、その事実を婚約者から聞かされ、暫く物も言えぬほど驚きつつ、苦笑した。


 「カイ様は、ご存知なかったのですね?」

 「…ああ。君に付けた護衛は、堂々と学園内を出歩けない。ルノブール公爵令嬢と君が出会った場所は、学園内で最も自由が利く裏庭だったが、貴族子息達が大勢集まる食堂では、目立ち過ぎるだろうから…」


フェリシアンヌとヒロインが出会った場面を、密偵が目撃したらしい。要するに彼が彼女に付けた密偵は、学園内に潜んでいる。それなのに、食堂で働くアレンシアを知らないというのは、どういうことなのか?…彼女が不思議に思うのも、当然のことだと言えよう。


護衛や侍女は付き添わせないとする、学園の決まりがあるほどに、学園内は安全を確保されていた。王族など特別に護衛が必要であれば、申請すれば許可が下りただろうが、他の生徒達も納得する理由がなければ、問題視されることもある。


 「…わたくしに内密でした以上、尚更バレてはいけませんのね…?」

 「他の生徒達の目もあるだろうが、君の友人達にも気付かれぬよう、最新の注意を払っていたからね。私から見れば、君の友人達の方が厄介だよ。」


学園から許可が下りても、他の生徒には内密にしたいようだ。王立学園に通う生徒達は皆、貴族の子息・子女達ばかりで、侍従と護衛のいない学園では、不自由だと思われるからだ。


 「…えっ?…わたくしの友人達にも…?」

 「フェンデン侯爵令嬢、モニータ伯爵令嬢、普段は大人しいスイセント侯爵令嬢からも、小言が飛ぶからね。君が()()()()()()()と知った途端、皆一斉に別人の如く責め立ててくる。非常に厄介だ…」

 「……えっ?!…アリアお姉さまが…?!」


彼女を慕うミスティーヌは、親しい者以外には辛辣なタイプだし、彼女と大親友でもあるクリスティアは、見た目とは反対にきっぱり言い返すタイプで、小言は当然と言えなくもないが、おっとり系で大人しいアリアーネも、小言を言うなんて…。目を白黒させるフェリシアンヌに、カイルベルトは無言でコクリと頷いた。


学園では誰もが、自分のことは自分ですることから、こうした特別待遇には不満を伴う、理由の1つとなる。生徒達の中には高位貴族の立場を利用し、下位の者達を使役する者も、一部いるようだ。


つまり、高位貴族は自らの取り巻きに、理不尽な要求や命令を下し、侍従やメイドの役目を押し付ける、という実態が見えてくる。取り巻きに自ら立候補したとしても、高位貴族からの理不尽な命令や要求には、誰が従いたいと思うだろう。勿論、これらの実態はほんの一部の類に、過ぎなかったことだが……


 「学園在学時、生徒は皆平等とする学園規定を、アレンシア嬢は本気で信じていたようだが、無事に卒業できたとしても、卒業後に()()()()()()()だろう。在学中は何をしても良いのではなく、自らの味方を得て自らの敵を知り、自らを繕いつつ敵を欺く方法を他者から学び、学園はそれらを習得する場でもある、と…」


全ての生徒は平等と唱えつつ、現状を気付かせて自ら回避する力を得る、厳しい現実を知る為の学びの場だ。世間の厳しさを疑似体験する場を、学園が提供し補助する。平等にはその意味に気付かぬ者を、早々に排除する意もあるようだ。


 「フェリは身分に拘わらず、誰にでも優しいけれど、君に害を成す痴れ者も一部いる。僕が勝手に付けた護衛だろうと、誤解させる噂を流すだろう。君の友人たるご令嬢達も、君を大切に想うからこそ、要因となる私を許さないだろうし、抑々それ以前に私自身が許せそうにない…」


普段から評判がどれだけ良くとも、生徒の1人が特別扱いを受ける、それは十分原因に成り得る。例え高位貴族と言えど、例外ではない。フェリシアンヌには味方が多いけれど、敵もいないとは限らない。


 「カイ様は…大袈裟でしてよ。それでも、ご心配していただきまして、ありがとうございます。先日のようにわたくしが1人になることは、今後は滅多にございませんから、これ以上のご心配には及びませんわ。」


フェリシアンヌ当人にすっかりバレた所為で、カイルベルトはがっくり肩を落とした風に、空元気にも見えた。何も起こらぬうちから、自身を責める婚約者を元気づけようと、ヒロインに出会った日のようにはならないと、努めて明るく笑顔で振る舞う。親友達がいくら心配症だとしても、公爵令息の彼を本気で責めるとは、思えなくて。フェリシアンヌは軽く捉えていたけれど。


 「…フェリは、()()()()()()()優しいね。君の友人達が、私の所為で怒るのであれば、当然のことだよ。君がそれを、気にする必要はないんだ。それよりもつい最近、サイス先生の婚約者でもあるハーモニア・ケイブル嬢から、声を掛けられたようだけど、彼女と…どういう話をしたか、教えてくれないか?」

 フェリシアンヌに過保護なカイルベルトも、真っ直ぐな彼女には勝ち目がないようです。前世とは立場が逆になった2人も、前世から変わらないところも…。


今回のカイルベルトが言う『女子友』の中には、ジェシカやユーリエルンは含みません。ジェシカはまだ平民で、最近仲良くなったばかりですし、ユーリエルンは王太子妃という立場から、彼を責めることはないでしょう。勿論、アレンシアは彼女達からも許されましたが、まだ友人枠には入っていないので。


さて次回も、カイルベルトは登場予定。

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