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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
53/66

50話 クセの強い令嬢、現る

 新キャラの正体は悪役令嬢でしたが、彼女から声を掛けてきた理由は…

 「わたくしがあの方を、どう思うか…ですか?…そうですね、実際のところはどうなのでしょうね…」


フェリシアンヌの問い掛けに対し、意外な答えを返してくる美少女には、誤魔化した様子もなければ、嘘を()く様子も見られない。特に意味もないと、何とも思っていない様子が窺えた。


 「…アレンシアさんにそれほどご興味ないようですが、何も怒りを感じていらっしゃらないのですか?」

 「あの方はわたくしの婚約者にも、()()()()()()()()という噂でしたが、わたくしの婚約者が一生徒として対応なされたお陰で、実際にはわたくしも実害を被っておりません。」


明確に答えるべきところは応え、伯爵令嬢はおっとりとした口調で、にこりと微笑んだ。一見してフェリシアンヌに似たタイプだが、ちょっとどこか抜けた一面もある彼女とは違い、計算した部分も持ち得たように、感じるだろうか。


実際に見た目は似ていても、伯爵令嬢はマイペースながらも、其れなりにしたたかさを持っていた。腹黒まではいかなくとも、常に相手を観察した上で、どう振る舞うべきか見極めている。それに比べてフェリシアンヌは、天然に近いという憎めない要素を持ち、今の家族や友人たちや婚約者達、つまり元旦那のカイルベルトも、そういう彼女を微笑ましく見守っていた。


アレンシアが再び学園に現れたのは、明らかに彼女達と何か関係がある。直ぐにそう気付いた伯爵令嬢は、興味津々でお近づきになりたいと思った。これは単なる純粋無垢な好奇心であり、本人としては別に()()()()()()()()()、その程度で。


フェリシアンヌ1人の時に近づくのは、以前から自らの興味を引く彼女と、親しくなりたいという強い意思であり、この機会を利用したに過ぎない。本来、それは下心として警戒される類だが、伯爵令嬢は純粋な好奇心しか持たず、また同性であるというのも大きいようだ。


前ヒロインが謝った時も、また現ヒロインと偶然出会った時も、多少なりとも警戒心を持ったにも拘らず、フェリシアンヌは何故か伯爵令嬢には、そういう意味での警戒はしていない。これほど強い好奇心を持たれたとは、思いもせずに……


伯爵令嬢が自らの婚約者を語る度、ほんのり顔を赤らめている様子に、婚約者と仲の良い様子が窺えた。政略結婚が当たり前のこの現世では、家と家の繋がりを最優先とする、そうした思考が根深く重んじられている。最近、現カルテン国では貴族も恋愛結婚が主流になり始めたものの、まだまだ政略結婚の方が多いのいうのが、現状ではなかろうか?


…ケイブル伯爵令嬢はわたくし達同様、乙女ゲーでは悪役令嬢キャラで、各攻略対象ごとに必ず悪役令嬢が、登場しておりましたわ。彼女の婚約者も攻略対象の1人だったはずですが、何方(どなた)でしたかしらね?



 「ハミルトン侯爵令嬢は、わたくしをご存じですのね。とても光栄ですわ。」

 「…いえいえ、わたくしなど…。ケイブル伯爵令嬢のお噂は、以前から伺っておりますわ。常に凛とされておられるお姿を、わたくしも遠目から拝見しておりました。本日お会いできましたこと、至極光栄に存じます。」


伯爵令嬢が悪役令嬢だと思い出しても、彼女の婚約者は思い出せずにいると、急に前のめりの態勢で()()()()()()()()、伯爵令嬢が迫ってくる。決して血走ったギラギラではなく、瞳をキラキラと輝かせ…。大人しいご令嬢から、オタクっぽいご令嬢に豹変した彼女に、フェリシアンヌも困惑気味ではあったが。


 「王立学園5年生、『ハーモニア・ケイブル』と申します。…もし宜しければわたくしを、『ハーモニ』とお気軽にお呼びくださいませ。」


前ヒロインに恨みのない様子に、フェリシアンヌがホッとした途端、伯爵令嬢は貴族らしく姿勢を正し、改めて自己紹介をしてきた。そう言えば…自己紹介がまだだったと気付いて、彼女も名乗ることにする。


 「王立学園2年生、『フェリシアンヌ・ハミルトン』と申します。わたくしのことは是非とも、『フェリーヌ』とお呼びくださいませ。友人達は皆さま、そう呼んでくださいますのよ。」






    ****************************






 彼の正式名は、『スラリートン・サイス』。王立学園の教師で、21歳の成人男性である。実はサイス伯爵家の次男だが、実家の伯爵家と確執がある為、特に父親とは絶縁状態に近い。親が決めた婚約者がいる。お相手は王立学園に通う生徒で、5年生のケイブル伯爵家ご令嬢。大人っぽい美人であるものの、我儘で自己中な性質の彼女を、彼は最も嫌悪している。彼自身は真面目過ぎるほど堅物で、嘘が嫌いな誠実な人物でもある。一般的な愛称は『スラリー』


互いにフルネームで名乗り合えば、フェリシアンヌの頭の中にふっと、とある情報が浮かび上がってきた。それは間違いなくハーモニアの婚約者にして、攻略対象のうちの1人の設定であったが…。


ハーモニアの正体が判明しても、今の今まで彼女が悪役令嬢だと知らず、また婚約者も思い出せなかったのは、乙女ゲーの中で2人が共に登場するシーンが、皆無だったからだろうと思われる。2人は教師と生徒でもあり、()()()()()()()()()婚約者の正体を、明かしていなかったのではないだろうか?


実際に2人が一緒にいる場面を、一度も見たことがない。そういう噂も聞いたこともないが、アレンシアが攻略に失敗し、ハーモニアが話す通りであれば、互いに両思いであろう。現実は乙女ゲーと、異なるのか?


 「…ハーモニ様の婚約者は、サイス先生なのかしら?」

 「……っ!……どうして、それをっ!…誰にも申し上げたことが、ございませんのに……」


意を決して探りを入れてみれば、そこは乙女ゲー通りであった。乙女ゲーを知る者であれば、知り得た情報ではあるものの、ハーモニアには説明できない事情から、隠していた秘密を暴かれた側の当人は、明らかに狼狽えているようだった。今までの落ち着いた大人しい姿は、まるで虚像のようにさえ感じる。


そうした彼女の様子から、乙女ゲーどころか前世の記憶がない、フェリシアンヌがそう判断するに至った。その可能性は高いとは思っていたが、これでハッキリしたというわけだ。


 「…このことは、どうかご内密に…。彼の足枷には、なりたくないのです…」

 「…勿論、お約束は致しますが…。どうして公表をなさいませんの?…先生はまだお若く、イケ……殿方として素敵な男性ですから、婚約者候補として他家からも縁談のお話があるのでは?」

 「…わたくしは彼を信じておりますし、彼もわたくしを信じてくださっておりますのよ。わたくしが学園を卒業するまでは、お待ちいただくと……」


ハーモニアは案の定、口止めしてきた。フェリシアンヌ以外にも、()()()()()()()知り得るだろうが、まさか乙女ゲーで知り得た情報とも言えず、話せない事情があるのは彼女達も同じだ。


婚約を公表しない理由を問えば、彼女が卒業するまでは待つという、約束を交わしているらしい。アレンシアから聞く限りでは、彼は婚約者の存在を濁していたそうで、アレンシアからのアピールは全く通じなかった、と…。


…危ない、危ない。イケメンと、言いかけそうになりましたわ。ハーモニ様は転生者では、ございませんのね。シアさんの話では、サイス先生は女性の恋心に鈍感すぎるぐらい、生真面目なお方のようですからね。わたくしから見ても、大人の魅力に溢れたイケメンですけれども、一先ずは安心すべきことかしら?


学園の中では、大人びた容姿ですらりとした背丈のハーモニアは、一見しただけでは教師に見えるほど、豊満な胸を装備し色気も漂っている。前世からスタイルの良かったフェリシアンヌでさえ、羨ましくなるほどに……


 「…まあ!…とても仲が宜しいのですね。羨ましいですわ。」

 「あら、それでしたら…フェリーヌ様とアーマイル様も、大層仲の良いというお噂でしたわね。ふふふっ…」


アーマイルとは、カイルベルトの家名だ。日本風に表現すれば、苗字と同様の意味である。普段から仲の良い関係ならば、日本人でも下の名前で呼ぶ者が多いだろうが、日本では異性であっても親しみを込め、敢えて下の名で呼んだりする。


しかし、この世界は貴族中心の社会であることから、異性を呼ぶ際は特に気を付けなければならない。貴族社会では同性同士であっても、相手の了解なしに軽々しく下の名を、呼んではいけない。況してや、婚約者のいる相手や婚約者を持つ身で、婚約者以外の異性を下の名で呼ぶのは、タブーとされている。このような場合は、家名で呼ぶのが正解だ。


……ええっ?!…わたくしとカイ様の婚約が噂になったと、流石にそれは存じておりましたが…。大層仲が良いとは、どういった類の内容ですの?…この世界では、貞操概念が強いことですし、まさかそういう意味ではありませんわよね?!


「噂で聞いてますよ」と言われ、フェリシアンヌはボッと火が灯るように顔を赤くさせ、熱を持つ頬を隠そうと両手を添えて。それに対し、先程まで混乱していた様子のハーモニアは、もう何処にもいなかった。フェリシアンヌの恥じらう様子に、如何にもご満悦の笑顔で瞳を煌めかせている。最早彼女は好奇心を丸出しにして、一切隠そうという気もないようだ。


 「あらあら、可愛らしいお人。()()()()()()()()ことよ、…ふふっ。これからは毎日が、楽しくなりそうですわ。」


一癖も二癖もあるようなクセの強い人物から、フェリシアンヌは好意を持たれたようである。彼女は未だ頬を染めつつ、恥ずかしさに耐えていたことから、口ずさむように実に楽しげに呟くハーモニアに、気付かない。クリスティアやミスティーヌもいたら、厄介な人物から好意を持たれたと、溜息を漏らしそうだ。…否、遅かれ早かれ、そうなるだろうか?


遂に悪役令嬢達は、全員勢揃いしたようである。フェリシアンヌ達はこうして物語の渦中に、巻き込まれて行く。前ヒロインと共に……

 前回の後半から、最後の悪役令嬢となる新キャラが、漸く登場しました。新キャラから声を掛けてきたのは、単なる興味本位を持たれたという、フェリシアンヌに惹かれた人物がまた1人……


ハーモニアは貴族令嬢の中でも、ちょっと変わった性質のある、クセの強い人物のようです。自分の思惑に一途な人なので、悪気は一切ありません。単なる恋バナが好きなだけかどうかは、今後少しずつ判明していくことでしょう。


この2人のやり取りは、あと少し続く予定です。

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