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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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43話 君が真実を知る頃には

 今回も、主人公の兄がメインです。兄と婚約者とのやりとり、続きです。

 婚約者のアリアーネから、実の兄のように尊敬していると言われ、モーリスは複雑な心境だ。見た目は穏やかな表情であっても、内心ではガ~ンと擬音がつきそうに、ショックを受けている。彼のちょっとした表情の違いを、見分けられる人物が此処にいたならば、彼の顔から顔色が消えたと、気付いたことだろう。


…アリアが恋愛に疎いことは知っているが、まさか未だ兄として慕うとは、流石に落ち込むよ…。これまで私は其れなりに、明確な態度を取ってきたと思うのだが、それほど気付いてくれないのは、ある意味ではアンヌより手強いな……


彼らの婚約を成立させたのは、両家の当主で彼らの父親達であるが、彼らが婚約を拒否できない訳ではなかった。初めて婚約者として紹介された時、彼らが最終判断を任された。出逢った時、婚約相手に全く好意が持てないようならば、婚約を白紙にしても良かった。しかし、モーリスもアリアーネも、互いの印象は其れなりに良かったようである。


この世界が乙女ゲーに似た世界で、自分はヒロインの攻略対象の1人で、後々最愛の人となるヒロインと出逢って恋をする、そういう展開が待ち受けるなど、まさか彼が知る筈もない。後にアリアーネが悪役令嬢となる存在とは、それも知る由もないのだから、彼女に好意を寄せていても、決しておかしくはない。


アリアーネは前世の記憶を取り戻した後、逆に彼の好意を理解できない。悪役令嬢になるつもりなどないが、強制力が発動しないとも限らない。例え、強制力が発動しなくとも、彼がヒロインに惹かれる可能性も高く、そのなった先の自分がどう振る舞うかは、予測できない。中途半端に乙女ゲーの記憶が戻った所為で、彼との距離を自分から無意識に、置くようになってしまった。


彼女の傍に居続けるモーリスも、今の彼女の心情は計り知れず、どう対応するべきか困惑した。それでも彼は、彼女が自分を嫌っているとは、思わない。以前よりも明るくなり、妹とも親密にしていると、知っているのだから…。もし…何かが足りないとするならば、自分と彼女との()()()()()()()ないか、と……


 「……アリア。私の想いは未だ、君の元へと届かないようだね?…これでも分かりやすく行動してきたつもりだが、意外とアンヌとはいい勝負のようだ。最近の君が何を考え、何をそれほど悩むのか、きっと今の私には見当もつかないのだろう。それは単に、私の努力不足だったということに、今気付かされたばかりだよ。如何やら私は()()()()()()、努力しなければならないようだ。だから…アリア、これからは…覚悟してほしい。」

 「………っ!?…………」


彼は気落ちしたものの、そう簡単に諦めるつもりはなかった。否、寧ろ逆に燃えてきたと、言うべきだろうか。彼女に自分の想いが伝わらないのなら、もっともっと自分が努力すれば良い。彼女に伝わるまで何度でも、挑戦すれば良い。


彼はそう結論付けて、にこりと素敵な笑顔を振り撒く。それを、垣間見た女子生徒達は、「キャー!」と小さく騒いだ。見た目は爽やかな人懐っこい笑顔だけれど、本心としては仄暗さを含む笑顔だ。普段は彼女も爽やかな笑顔に騙されるが、今日ばかりは背筋にゾクッとした何かを、感じていた。本来は、安心出来る笑顔の筈。何故だか今日は裏がある気がして、彼の笑顔に彼女は顔を引き攣らせ…。


…今日のモーリス様、何か何時もと違っておられます?…おかしいわ。わたくしが大好きな優しい笑顔ですのに、彼の笑顔にちょっぴり恐怖を感じましたわ。今まで一度も思ったこともなく、前世ではあれほど推しだったのに……


アリアーネは声に出さなくとも、前世の口調になるほど動揺している。彼の笑顔に恐怖を感じたのは、ある意味では正しい。現状の彼は、怒りに似た感情と新たに目覚めた決意に、メラメラギラギラという謎の闘志を、盛大に燃やしていた。分かりやすい表現にすれば、子羊を狙った狼という状況だ。そこは貴族メインの世界で、ペロリと平らげる…とまでは言わないだろう。()()()()()()()()()()、『待て』はしっかり出来る、と…。


例の女性にだらしないとされたハイリッシュさえ、最低限の貴族のルールは守っていたし、常に紳士を心掛けているモーリスが、暗黙のルールを破ることはないだろう。だから、身体的な恐怖ではなかったと言えるが……


アリアーネが感じた危険信号は、前世で恋愛の記憶もない彼女に、十分に刺激的な未知の分野である、と言えそうだ。






    ****************************






 「…ええっと別に、モーリス様が頑張られることでは、ないのでは…。わたくしの悩みにご相談に乗ってくださって、大変嬉しゅうございました。これ以上無理をなさらずとも、わたくしも努力を致します。…モーリス様、あまり気になさらないでくださいませ。」


アリアーネからは、的外れな返答をされた。笑顔の怖い婚約者を理解しようとしているが、彼女は()()()()()()()抑々、履き違えているみたいだ。彼女の悩みを努力して理解したい、彼がそう発言したと勘違いしている。


モーリスにはアリアーネの意図が、簡単に理解できてしまう。婚約者として常に隣に居た所為で、彼女本来の狙いに気付いた。フェリシアンヌが話した通り、彼女には重大な悩みがあるらしい。悩みの中身は誰にも話たくないようで、彼の目からも隠そうとしていると、モーリスは確信を持つことになった。勿論、彼の『努力』とする意味を、彼女が勘違いしている事実に、しっかり気付いている。


…アリアが隠したい悩み、雰囲気が変化した時期は、同じ頃だろうな。そう鑑みるならば、アンヌもアリアと同様に変化した時期が、あったかな。確か、妹も塞ぎ込んでいたんだよな……


今のアリアーネの様子と、昔のフェリシアンヌの様子が、色々と重なっていることに気付いたモーリス。変化は少しだけで、別人まで変化はしていない。それは彼女達を良く知る人物にしか、気付かない程度のもので。劇的に変わった訳ではないものの、彼は不思議に思ったのである。


 「最近、アリアの雰囲気が以前とは、少し変わったよね?…以前の君は、人の言う通り何でも従う様子に見えたけど、今の君は最低限以上の自らの意思を、しっかりと私に伝えてくれるし、私も今の君の方が好ましいと思う。但し、相変わらず君は的外れな思い込みをするが、そういう君も私は好きなんだけれどね。」

 「…へっ?!……あ、あの、モーリス様!…揶揄わないでくださいまし……」


大切な相手に内緒にされ、そのことが存外に面白くなくて、ちょっぴり揶揄う口調になったが、怒っている訳ではない。以前の聞き分けの良い彼女よりも、今の自分の意思をはっきりさせる、そういう姿の彼女に()()()()()()()()。頓珍漢なことを言う彼女も、結構気に入っていると言えた。


彼が告げた言葉に、彼女は自分を単純に揶揄っただけ、そう感じたようだ。確かに揶揄った部分もあるけれど、全てモーリスの心からの本音でもある。彼女自身は的外れな思い込みをした覚えもなく、『そういう君も好き』という言葉に、嫌味に感じるよりも好意に感じたことで、恥ずかしさから真っ赤になる。嘘でも嬉しくて、心が満たされていく。


 「いいや。私は別に、揶揄っていないよ。…ん?…アリア、顔が赤いね。どうしたのかな?」

 「…………モーリス様の意地悪…………」


揶揄う口調でありながら、決して揶揄ってはいない顔で、平然と嘯く彼。ちょっと意地悪そうな目をして、顔を赤く染めた彼女を見つめる。案の定、彼の悪口を小声で呟いた彼女に、ジト目で睨まれたけれど。


プクっと口元を膨らませ、小声で彼の悪態を吐いた彼女を、モーリスは心の底から愛おしそうに見つめ返す。他者から見てもこれは、可愛くて仕方がない婚約者を、溺愛する様子にしか見えないのに。これほど溺愛されても、全く気付く様子のない相手に苦笑する彼を、「どんまい!」と同情や応援をしたくなるだろう。これほど想いがすれ違う2人も、珍しいのでは…?


アリアーネから何を言われても、また拒否に近い返答をされても、モーリスは優しい笑顔を向けたままだ。何故か彼女を眩しそうに見つめつつ、微笑ましいとでも言うような表情だ。例え、心中でショックを受けようとも、哀愁の感情は表には決して出さずに……


アリアーネは全て冗談だと思い、聞き流すことにした。決して彼の笑顔に屈服してはいないと、心の中で言い訳をしながらも。前世でも彼が一番の推しであり、彼の笑顔に弱いのは仕方がないのだと、自らの言動を正当化しようとしている。


 「……ふふっ、アリアは可愛いなあ。君は相変わらず、僕にだけ冷たい態度を取るけれど、そういうところも全部含めて、私は君が可愛いと思っているよ。」

 「……っ!!!…………」


モーリスが告げる会話も彼の態度も、アリアーネが冗談だと思うことは百も承知の上で、困惑する様子を具に観察しながらも、彼はグイグイ攻めていくことにした。素早く彼女の前の座席から移動し、彼女の隣へと席を陣取った後に、彼女の耳元でそっと呟くのだ。何よりも誰よりも、君が可愛いのだと……


その結果、彼女は飛び跳ねるほど仰天する。彼女にしては素早い反応で、両手で両耳をパッと抑えた後、彼女は思い切り彼から身体を逸らして、ごく自然に逃げの態勢を取ったのである。


普段のんびりした彼女が、俊敏に反応する様子に、至極珍しく思う。以前の彼女よりも今の彼女の方が、自分に好意のある様子を見せてくれていると、そう感じられた。グイグイ攻められることに彼女が弱いと、新たに気付かされる。彼女との距離を詰めていけば、自らを意識させるように仕向けられるのだと。


……アリア。君は何時になったら、本当の真実を知るんだろうね。私が君を囲い込んでいる、この状況にも…。君が()()()()()()()には、もう私から絶対に逃げられない事実に。

 前回後半部分から、モーリスとアリアーネのやり取りでしたが、今回もその続きとなりました。アリアーネに自分の想いが届いていなかったと、モーリスが奮闘する回でした…。今後の彼は更に、突進していく予定(?)です。


2人のやり取りは、今回で終了する予定。次回からは、またフェリシアンヌに主導権が戻るかと思います。

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