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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
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41話 兄の為に一肌脱ぐ!

 前回の続きとなります。漸く兄の存在が……

 アリアーネは元々、穏やかで大人しい淑女タイプであった。前世を思い出してからというもの、心配性過ぎる面が強く表に表れ、前世の事情を誰にも相談できず、1人オドオドしていたことを、フェリシアンヌ達には打ち明けている。


…アリア様は誰にもご相談できず、怯えていらっしゃったのよ。ですからこういう時にこそ、お兄様をお貸し致しましょう。お兄様もアリア様を大切になさっておられますし、前回ヒロインのシアさんにはお怒りでしたもの。今回のヒロインに恋をする恐れも、ない筈です。アリア様とお兄様は正式な婚約者同士ですし、同じ馬車にご同乗されたとしても、何の問題もございませんことね。……ふふふ。


フェリシアンヌは馬車の中で、暫く黙々と思考に耽る。当初、彼女は兄と妹との関係性を、思案していた。ふとアリアーネが今も不安を抱えているのでは、そう気付いたのだった。将来、自分の義姉となるお人を、守ってさしあげねば…。


兄が婚約者を守るのが一番良いと、尤もな意見に辿り着くや否や、向かい側に座る兄へと視線を向ける。馬車の窓から外に視線を向け、景色を眺めていた筈の兄が、何時の間にやら彼女へと視線を向けていた。真顔で見つめてくる兄に、全てを見透かされているようにも感じて、彼女は思わず息を呑む。一瞬、時が止まったかの如く感じ、汗がドッと吹き出すほど緊張してきたが、何故かモーリスが満面の笑顔となった途端に、張り詰めた空気が霧散したようで。


「…随分と長く考え込んでいたね?…何か困ることでも、遭ったの?…あの例の転入生が、アンヌに()()()()()()()よね?」

 「……………」

緊張の糸は一時的に切れたけれど、モーリスは妹を心配するあまり、確信に迫った質問をぶつけてきて、フェリシアンヌは内心ではヒヤリとしていた。彼の纏う空気に冷気を感じ取り、顔が青くなりかけたフェリシアンヌ。兄はこういう笑顔を向けてくる時は、相手に棘を仕向けようとする時の兄の顔でもあった。


兄の指摘した『転入生』とは、新ヒロインでもあるテレンシスのことだ。彼女が転入してくる前から、話題に上った人物でもあるので、彼女を知らないと言う人は、今更誰も居ないだろう。在学途中で退学や自主退学する者は、今までにも少数居たけれども、途中から入学してくる者は、今までに1人も居なかった。アレンシアとは別の意味で、転入生として目立ったことだろう。


 「……まあ、お兄様ったら…。ご心配なさらずとも大丈夫です。特に何も変わったこともなく、過ごしておりますわ。例の転入生とも…何の接点もございません。況してや何も…されておりませんことよ。」


兄に確信を衝いた質問をされ、フェリシアンヌも内心では混乱していたが、外面に出すことなくやんわり否定した。兄の推測は実際に起きた出来事と、当たらずとの遠からずの状況であり、半分は当たっていると言える。前世の頃の彼女は上級階級に近い家庭で育ち、こういう貴族の遣り取りにも慣れている。


 「…それならば良いが…。アンヌは1人で何でも解決しようとするし、僕は本当に心配なんだ。兄として愛する妹達を守れないなど、ハミルトン家を()()()()()()()と同然だからな。」


ハミルトン家を継ぐ資格もないとは、少々大袈裟過ぎる気もするが、それだけ妹達を愛しているということだ。妹の否定を本当に信じたかは分からないが、簡単に納得した態度を取る兄に、心配される当人としては過保護過ぎると、苦笑していた。貴族としては、文面通り受け取るべきではないが、身内相手だとつい言葉通りに受け取るのは、彼女がそれだけ素直な人間だと言えよう。


…お兄様はわたくし達妹に、過保護ですのよ…。妹達の身に何か起これば、自身の責任を責めるという流れは、乙女ゲー設定通りで真面目なお人なのです…。悪役令嬢のわたくしをも、大切にしてくださるお兄様なのです…。お兄様のお陰でわたくしも、記憶のない頃から()()()()()()()とならず、済みましたのですわ!


兄に感謝しつつも、フェリシアンヌは苦笑気味だ。兄の本当の思惑には未だ気付かずも、兄が妹達を溺愛するあまり、妹達に関する出来事には敏感過ぎると、感じていたから。彼の先程の言葉は決して大袈裟ではなく、愛する妹達を守る為には如何(いか)なる手段も、ハミルトン家権力をフル活用した上、完膚なきまで倒すつもりだ。


但し、モーリスにとってカールラも大切な妹であるが、フェリシアンヌのことに関しては、カールラも兄に対抗しているのだが…。






    ****************************






優しく聡明で美しい我が妹は、兄を全面的に信頼していて、彼の言葉の意味もその通りに受け取るだろうと、モーリスは計算している。


…僕に似た性質のカールラはアンヌとは違い、あまり心配はしていない。それに彼女は姉のことになると、僕以上に容赦ない人種だからな…。アンヌが如何(いか)に貴族令嬢らしくない、とんでもなくお人好しな人間なのか。本当に危なっかしくて、見ていられないんだよ……


反対に姉べったりの甘えん坊カールラは、やられたらやり返すタイプだ。一見見掛けは、フェリシアンヌより典型的な貴族令嬢らしく、身分を盾に威張ったりしないものの、家族に…特に姉に楯突く者は、絶対に許さない冷酷な部分も持っている。常に、計算ずくしで振る舞っている。


それは姉に対しても、動揺だと言えよう。姉に自分をどう見せれば、自分が好かれるのか、十分に理解していた。だから姉のことでは、兄でさえ容赦しない。身内だからと隙を見せれば、あの兄には勝てないと知っている。


兄が自分も含めて溺愛していると、知っている。其れでも…それとこれとは別なのだと、兄と妹2人共に百も承知だ。家族の中でフェリシアンヌだけが、貴族らしくない異端だけれど、完璧でないからこそ余計に、愛おしいという気持ちが湧いて、家族や使用人からも愛されているのだろう。


 「…もう、お兄様ったら。()()()()()()()()を、お忘れですわよ。ご自分の婚約者を、もっと大切になさってくださいませ。お兄様の重度のシスコンが、アリア様にもバレてしまいますわ。」

 「……しすこん…?……アリアに…ばれる?」

 「…え~と…シスコンは、シスターコンプレックスの略称ですの。妹思いが過ぎるという意味で、お伝え致しましたのよ。アリア様がお知りになられた場合、お兄様は嫌われる恐れがございましてよ。」


馬車に心地良く揺られ気合を入れつつ、彼女はタイミングを見計らう。さり気なさを装いながら、アリアーネの話題を出す。シスコンとバレたくなければ、妹達ばかりに気を取られている場合ではないと、アドバイスしたつもりで…。


この世界では『シスコン』のように、略称した言葉は存在しない。此処では日本語と英語が混ざったような言葉遣いで、略称しなければ十分に通じる。但し、幾つか注意事項はあるのだが。この国の文字は日本語ではないので、文字を書く時は注意しなければならない。彼女の他に、外国人転生者が此処に居るかは、今のところは日本語を理解する前提であらば、存在すると言えそうではあるが…。


シスコンという略語は前世に於いても、日本特有の和製英語であった。前世の彼女も日本に留学するまで、当然ながら全く知らない言葉で、初めて聞いた時も意味が分からなかった。こう略したのも…。あまりにも周りの日本人達が、彼女の前でも頻繁に使っている所為で、彼女も次第に使うようになる。こうして転生した後も、この言葉が記憶に染み付いていたようだ。


聞き覚えのない略語に疑問を覚え、モーリスは軽く首を傾げる。一度口に出した言葉は取り消せず、フェリシアンヌはどう誤魔化そうかと焦りつつ、この国では略語が通じないことに漸く気付き、彼女が()()()()()()()()をして、解釈を自分流に曲げたのである。


 「…そうか、アンヌが思いついたのか…。なるほど…。シスコンとは、何とも当て嵌まる言葉だな。また『重度』という言葉も、より重みが増したな。これほど聡明な女性が我が妹であり、兄としても鼻が高いよ。」


…前世の日本人の皆さま、本当にごめんなさい。それに…お兄様も。前世の事情を誤魔化す為とは言えど、日本人の方々が作り出した略語を、わたくしの手柄にしてしまいましたわ……


本来、彼女は嘘を吐くのも聞くのも、好きではなかった。頭の中では土下座する勢いで、只管謝る姿を浮かべていたけれど、前世の彼女は日本人ではなく西洋人なので、土下座をする習慣などある筈もないが…。日本人との結婚で永住権を得ていた彼女には、日本人として過ごした日々が強烈に、身体の奥底まで沁み込んでいるらしく…。転生しても尚その習慣が、彼女に染み付いていた。


 「お兄様、わたくしのことなど今は、如何(どう)でも良いことですわ!…今はアリア様のことだけ、お考えくださいまし…。アリア様は将来、わたくしのお姉さまになられるお人ですし、お兄様とは仲睦まじく過ごしていただきたいですわ。」


他人から()()()()()()()を、自分の手柄にしてしまったことが、何とも居心地の悪いことか…。兄が何時(いつ)までも感心している様子に、フェリシアンヌとしては一刻も早く話題を変えようと、無理矢理に話題を切り替えた。肝心の兄は妹が提案した話題に、大きく目を瞬かせ…。


 「…私は常に暇を見つけて、アリアに会いに行っているよ。彼女のことは婚約者として、大切に扱っていると思うが?…其れほど彼女と仲が悪く見えるのか、それとも彼女自身が僕を嫌っている素振りでも、見せていたのか……」

 「……っ!……いいえ、そういう意味ではございませんっ!…お兄様はアリア様を大切になさっておられますし、お2人が想い合っておられることも、十分に存じておりますもの。ですが…アリア様にはご兄弟もおられず、お1人で悩んでいらっしゃるようですの。お兄様、ご相談に乗って差し上げてはいかがでしょう?」

 まだ登校中の馬車の中での、主人公とその兄との遣り取り、続きです。兄の婚約者であるアリアーネの悩み相談として、兄を煽っているフェリシアンヌです。さて兄はその計略に、嵌ってくれるのかな?


やっと攻略対象・モーリスを、登場させられた…。一部の人物に関し、今後は愛称で書こうと思います。日本で言うところの下の名前が、長すぎて面倒なので。但し主人公は愛称が多く、例外となりますが…。彼の容姿に関して、今回は説明を忘れていたし、次回にでも書こうかな……

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