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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
37/68

35話 運命的に出逢ったのは…

 今回はヒロイン側から、という形式になっています。漸く、出逢うことに……

 ルノブール公爵家の者達のテレンシスに対する態度は、腫物に触るような扱いだと言えるかもしれない。当主である公爵は、彼女のご機嫌取りをしてくるが、公爵夫人は彼女の姿を見る度に、顔を顰めたりと明らかに機嫌が悪そうだ。公爵家嫡男の令息からは、嫌らしい舐め回すような視線を向けられ、年下となる令嬢からは完全無視される、という反応であった。


公爵家の使用人達は当初から親切であれど、公爵様の命令で…という風体で、義務的な接客であった。しかし、彼女の本心を知るようになると、使用人達の殆どが彼女の味方となってくれた。我が儘を言う彼女にも、積極的に応援してくれる。


実は、我が儘に振舞う切っ掛けとなったのは、使用人達からの提案でもある。公爵家に仕える使用人達は、公爵並びに公爵夫人と2人の子息に対し、一生仕え続けたいという忠誠心は持てずにいた。養女となったテレンシスに対しても、彼らは単に同情していただけだが、欲のない素直な彼女に傾倒していった。


彼女も我が儘を言い続ければ、公爵家から追い出されるだろうと期待したが、田舎に追い返すほどの効果はなく、我が儘で暴力的な本性(?)を出した彼女を、公爵夫人や子息達は逃げるかの如く、避け始めた。公爵もたじろぐ様子を見せ、一定の効果はあったと言うべきか。但し、公爵が彼女を()()()()()()()()()()()、寧ろ好都合だと思われたようである。


…公爵家に引き取られた当初、嫌味や嫌がらせなどの他に、舐め回す気色の悪い視線もございましたが…。それ等から漸く解放され、腫れ物に触るような扱いでも、随分とマシなのでしてよ。あの方々と分かり合おうとは、思いませんわっ!


せめて学園では誰とも仲良くならず、貴族子息達を自分から遠ざけ、嫌われる行動を取り続けた。公爵の命令通りに、絶対に従わないという決意と共に…。しかしながら養女と言えども、公爵令嬢となった彼女を下手に虐めて見下せば、相手側が罰を受けざるを得ない。いくら礼儀作法は完璧でも、どれだけ貴族達の勉強に追いつけようとも、未だ貴族社会に精通していない彼女は、そこまでの考えに至らない。


幼い頃から貴族令嬢として、厳しく受けた礼儀作法は最早習慣となり、骨の髄まで染み渡っている。心中での独り言もお嬢様言葉で語り、その違和感にすら全く自覚もない。弟達の前や家の外で何とか、見よう見まねで平民口調に崩し会話しても、特に母の前でこうした平凡な日常も、平民らしく振る舞うことも、許されなくて。但し、今の環境では大いに助けとなる。本人が全く望まない形で…。


…以前より、母が仰られていたわたくし本来の身分は、公爵家でもお粗末に扱えない身分で、其れなりに高貴な家柄のようですけれど、()()()()()()()()()()()()()肩書きですのに……


育ての両親とは別に、血の繋がる実の両親が存在する真実に、強いショックを受けた彼女は、両親に認めてもらいたくて褒められたくて、実の娘として愛してほしくて、ただそれだけを望んだ。前を向いて来れたのは、あの家族の一員として過ごせたからだと、確信する。常に本心では、貴族令嬢の身分などどうでも良く、貴族令嬢として返り咲きたいと思いつつ、頑張っていた事実もなく…。彼らの娘として共に過ごせるならば、庶民でも構わなかったのに。


ルノブール公爵家が本来の自分の戻る場所ならば、もう少し好かれようと努力したかもしれないが、此処は本来の戻るべき所ではないと、彼女の本能が告げる。(ただ)の勘とは言え、頭の中で警告音が鳴り響いている。


それでも、自分が帰る場所は本来の戻るべき場所でもなく、例えどのような理由があろうとも、一度も便りが来ることもない家になど、帰りたくはない。一度ぐらいは会ってみたい、どういう人達か知りたい、そう思う時期も確かに存在する。


単純に両親がどういう人物か、身分や容姿や性格などの人間性を知りたい。どういう事情や理由があったのか、それぐらいは知りたい。現在、彼らは無事に生きているのか病気ではないか、将又既に死亡していないか、子孫として気にしただけで、それ以上の感情は一切なく。当たり前のように今更、迎えに来ないでと……


実の母親が自分を産んでくれたことには、其れなりに感謝している。庶民暮らしと貴族令嬢の生活とを比べれば、お腹いっぱい食べられない時もあったり、仕事に恵まれなくて貧乏のどん底になったりと、辛い想いも多々あったけれども、家族で身を寄せ合いながらの生活は、()()()()()()()()()()()()()()であったと、今ならば彼女も言えるだろうか。生まれて来れたからこそ、そういう経験も出来たと。


…そういう点では、大変感謝致しております。今後、本来の両親の元へと連れ戻される運命など、永遠に参りませんよう…。それが…わたくしの望みです!!






    ****************************






 「……あっ?…………」


テレンシスは驚き過ぎて、思わず声が漏れる。自分以外の他者を、此処で見かけたことがなく、すっかり油断していた所為で、頭の中は真っ白だ。彼女はその場で立ち止まった状態で、先客である目の前の人物を凝視し、固まる。先客となる人物もまた、彼女同様にジッと相手を見つめ、呆然としたようだった。


…このような辺鄙な所に、わたくし以外の何者かが訪れるとは、夢にも思いませんでした。此方の上品な雰囲気の女性は、高位貴族と呼ばれる貴族令嬢なのでしょうね。一体、何処(どこ)何方(どなた)なのかしら?


テレンシスは非常に驚くものの、目の前の人物には嫌な印象を感じない。今までに感じてきたような、好奇心や蔑むような視線や感情は、この人物からは読み取れない。単に相手も本気で驚いた、という状況に見えるだけで。


ルノブール公爵家に来たばかりの頃、使用人達のその頃の態度は、彼女を窺うような視線や感情が垣間見られた。彼女を馬鹿にする様子は感じられなくとも、公爵家の使用人として()()()()()()()()()()()()()、接していたようだ。主人が連れて来た養女を蔑む行為は、解雇される理由の1つとなる。義務的とは言え優しくされた彼女は、心休まっていったのである。


王立学園では、公爵家が引き取った養女に対し、平民を軽視した視線と単なる好奇心からの視線が、クラスメイト達から向けられる。積極的に彼女と仲良くなることで、公爵家に取り入るチャンスを算段する者、公爵家を自らの目的に利用する目的を持つ者、そういう者達が何とも多いことか…。純粋に彼女と仲良くしようと思った者は、存在しないも同然だ。


居心地が良いとは言えぬ感情を、テレンシスは敏感に感じ取り、円満に解決する為にも誰にも関わらないと決めた。彼女を認めない者達はどうあっても、彼女の粗探しを延々続けることだろう。彼女には損にも得にもならないと、言えようか。


貴族らしい礼儀作法が完璧でも、テレンシスが庶民育ちという真実は、一向に変わらない。庶民と貴族では、あまりにも生活環境が違い過ぎた。貴族としての生活を経験せず貴族に混じり、正解がどれで何処までが許容範囲か、貴族らしい所作も正しく振る舞えているか、判断できないままに。


育ての母親も元は貴族の出で、末端の貴族の名ばかりの貴族だったと、礼儀作法は奉公先で学んだらしい。母親の教えを疑っているのではないが、貴族としての自信が彼女には持てなくて。


ルノブール公職家では、彼女の基本的な礼儀作法が出来上がっていると、特にこれ以上の指導はせず済ませた。彼女が貴族の礼儀を全く知らなければ、その時は公爵も教師を手配したことだろう。但し、公爵夫人や子息達は庶民らしい彼女に対し、もっと辛く当たる可能性もあり得たが……


そのお陰でテレンシス本人は、自分の言動が貴族らしいかそうではないか、十分な判断が出来ない。勿論、彼女は家に帰りたいと本気で願う以上、教師を与えても素直に応じなかっただろうが。貴族らしく振る舞う必要など、全くない。それでも貴族らしく振る舞うのは、彼女自身のプライドからだ。ルノブール公爵家に泥を塗るのは構わずとも、育ての両親や実の両親の名誉を、自らのミスで汚すことだけは、絶対に避けたい。クラスメイトから逃げ続けれることで、これ以上の粗相はバレないと踏んで。


…逃避する先に、先客がいらしたとは…。このような場合はどう躱すのが、正解なのかしら?…どういうご対応を致しましたら、()()()()()()()()()()()()()()済みますかしら?


テレンシスの背中を、冷汗が流れていく。公爵令嬢という立場の彼女は、相手が公爵令嬢以上でもない限り、相手の身分を特に気にする必要はない。今まで庶民だった彼女はそういう事情も知らず、自分が先に声を掛けても良いものか、判断出来ず戸惑ってしまう。


 「…もしかして、此処をご使用されておられます?…でしたら、勝手に迷い込んでしまい、申し訳ございませんでしたわ。わたくしはとある事情で逃げて参りまして、偶然にも此処に迷い込みましたの。ですから、わたくしは直ぐに此処を立ち去りますわ。どうぞごゆるりとお過ごしくださいませ。」


先客の人物は、テレンシスの状況を瞬時に把握していた。彼女が1人になろうとして此処に来ていると、直ぐに気付いた。また、自分にどう話し掛けようかと、彼女が戸惑う様子に配慮し、身分の下の者が()()()()()()()()()()()状況下で、敢えて自分から声を掛けてくれる。


話し口調にも上品さと気品があることから、相手の女性は思ったよりも上位貴族であると、直ぐに分かるほどだ。もしかして、相手の女性も公爵令嬢なのでは…と、そう捉えたテレンシスは間違いではない。


先客である女性の正体は、現カルテン王族の遠い親戚という血筋で、また隣国王族の血も受け継ぎ、この国の王族に継ぐ高貴な身分とされる、フェリシアンヌだったのだから……


こうして…乙女ゲーヒロインと悪役令嬢は、運命的に出逢うことになる。

 到頭、ヒロインと悪役令嬢が出逢います。男女ではないけど、敢えて『出逢う』という字を採用しました。


漸く、運命が動き出すのかな……?

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