表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
36/66

34話 裏イベントへのご招待?

 前半が主人公側からの、後半がヒロイン側から、という形式にしています。

 フェリシアンヌはどういう内容のイベントだったか思い出そうと、首を頻りに(かし)げ唸るように思案する。その時、彼女の背後からガサガサと、草を踏み分けるような足音がして、此方に向かっているような足音が段々と大きくなるにつれ、誰かの近付く気配も感じていた。


…誰かが、此処に来るようね。徐々に、足音が近づいて来ているわ。こんな辺鄙な場所に、誰が来ようとしてるの?…どうすればいいのよ…。今更隠れるには遅すぎて、何処にも隠れる場所もないわね……


フェリシアンヌの顔は、恐怖で引き攣る。彼女が先程から思案したような、不穏な出来事が起こるのではないかと、思わず顔が強張った。この場所で裏イベントが起こると知った、彼女達が()()()()()()()()()()()()と、身構えていると…。


此方に近づく人物の姿が、漸く見えるようになる。花畑に来るには、ちょっとした坂を登る必要があった。彼女は逃げるように此処に来たので、今まで気付いていなかったのだが、学園の庭園のとある場所を抜けると、小道のような長い道が続き、その道がクネクネと緩やかな坂道となった先に、漸くこの花畑へと続く道となる。途中からは一本道なので、其処からは迷うことはないだろう。


坂の下からはフェリシアンヌの居る此処は見えなくて、また彼女の位置からも漸く見える位置だった。その人物の姿が見えた瞬間に、彼女は目を丸くして安堵した。()()()()()()()()()()は、なさそうだと。


花畑を目指していると思われる人物は、どう見ても小柄な女性だ。この王立学園に通う生徒だと、思われた。女性はフェリシアンヌの存在に気付かぬまま、此方に向かっている様子だ。然もこの女生徒と思われる者は、遠目から見てもハッキリ分かるような、高位令嬢が着る最近の流行の衣装を、身に着けている。フェリシアンヌも親友であるクリスティア達も同じく、最新の流行ドレスを身に着けていたが…。


乙女ゲーそっくりの此処は、中世ヨーロッパの雰囲気そのものであり、女性の衣装はドレスとなる。王立学園の男子生徒には制服が決まっていても、女子生徒には制服はない。あまりにも派手なドレスでなければ、良いとされている。


…あれっ?…確かゲーム設定集のイラストで、女子生徒も同じ制服を着ていた筈なのに…。ゲームでは女子生徒にも制服が決まっていたのに、現実では没になったのかしら?…そう言えば前世の私は、制服が可愛いと憧れていたっけ…。あれほど憧れた制服は、今世でも着れないようね…。


前世の彼女は西欧人だったので、自国には制服は存在していない。彼女が日本に留学した先は大学だったので、制服を着用した経験がない。乙女ゲーで遊んでいた時も、一度ぐらい着たいと憧れていただけだ。制服の存在が消えたことに、内心で肩を落としつつ。


坂を上り花畑に辿り着いた女子生徒は、先客が居る事態に驚く様子を見せた。如何やら今までも、此処に来ていた様子だ。以前から存在を知っていたようで、今日になって偶々、初めて此処を知った訳ではなさそうだ。


制服が着れないと落ち込んでいたフェリシアンヌも、女子生徒と目が合うことで我に返る。改めてその女子生徒を観察してみれば、遠目で見た通り最新の流行ドレスを身に纏っている。これを鑑みるに、流行ドレスを着ているということから、上位貴族のご令嬢で間違いないだろう。その上、この目の前の小柄な少女は、伯爵令嬢以上の身分であると言えそうだ。裕福な家庭というだけでは手に入らない、特別なデザイナーの手掛けた逸品だと、一目で彼女は気付いたからだ。そのデザイナーのドレスを着ているのは、彼女も同義である。


…彼女のドレスを着るには、家柄も良く裕福だけではなく、彼女自身にも気に入られる必要があるわ。あの気難しい『イーズ』は、中々引き受けてくれないことで有名なデザイナーなのよ。元々お母様と仲の良い彼女は、わたくしのドレスを快く引き受けてくださるけれど…。


フェリシアンヌの母親とは、仲の良いことで知られるイーズは、この国でも指折りの腕の良いデザイナーだ。ハミルトン家の女性陣は皆、イーズが手掛けたドレスを普段から愛用している。バミルトン家専属デザイナーと言う程に、イーズが手掛けた衣装ばかりである。この国のデザイナーは他にも存在するものの、その中でも群を抜く奇抜なデザインで、イーズは特に人気者となっていた。


そういう理由もあってイーズに依頼するのは、物凄い倍率なのである。またイーズ自身が気の乗らない依頼には、例え王家からの依頼だろうと()()()()()()()、断ってしまうほどの頑固者だった。


…そういう我が儘が通るのは、イーズの正体が王族の血筋を引く人間だと、王族も知り得るからこそ、出来る芸当でもあるけれども……






    ****************************






 テレンシスは今日も同様に、クラスメイト達を避ける行動を取っていた。実は最近の彼女は、お気に入りの場所がある。昼食時と昼食後の休憩時間には、とある場所で過ごしていた。


其処は、彼女が偶然に見つけた場所だった。人目を裂け彼方此方彷徨(あちこちさまよ)ううち、偶然にもその場所に出た。其処には誰もおらず、後から誰かが現れることもなく、今の彼女が求む憩いの場所のように感じられた。すっかり此処をお気に召した彼女は、翌日も此処に来ようとした時に、大変な思いをしたと思い出す。


…そうそう、あの時は焦ったわね。昨日の出来事は現実ではなくて、夢を見ていたのか、それとも…まやかしを見たのかと、思ったぐらいよ。どれだけ探しても見つからなくて…。


翌日も此処に来ようと彼方此方探したが、昨日は偶然見つけただけで、行き方を思い出せなかった。昨日は帰り道を覚えようとしたものの、帰り道に少々迷ったことで、正確な道が分からなくなっていた。彼女が諦めかけた時、何とかあの場所に辿り着くことができたのは、幸運だったとしか言いようがない。


…昨日の帰り道は、元々どうやって来たか分からなくて、お昼休憩の時間が迫っていて、慌てて此処を去ることになったのよね…。お陰でうろ覚えだったけれど、今日は何とか覚えているから、大丈夫だと思うけど…。


あの場所を探すには時間がかかったが、昨日はこの場所に来るまでに、人気のない場所を探し続けた所為で、昼食時間をオーバーしており、昼食後の休憩時間のお陰で、救われたと言えよう。


この世界での昼食時と昼食後の休憩時間は、日本の給食と昼放課の時間と同義だと言えるだろう。但し、日本の時間よりも超長めだったが。貴族が通う王立学園なので、年頃の王族も通うこともあり、当然ながら時間は大目に取られている。例え勉強時間が短くなろうとも、優雅な貴族の所作を優先とし、慌てず急がす落ち着いて優雅に、がモットーなのである。日本人の如く遅刻するからと走るのは、貴族には許されないことだ。但し、庶民は時間に関わらず、走ったりすることだろう。


彼女はその後、ほぼ毎日其処に通っていたお陰で、考え中でも辿り着くことが可能である。生徒達が普段から授業を受ける教室、生徒達の殆どが食事する食堂、教師達が待機する教員室(※日本で言うところの職員室)、その他諸々の部屋からも、随分と離れている場所だった。


彼女のお気に入りの場所は、学園内の隅っこにひっそりと、誰も訪れない場所でもある。好奇心旺盛な貴族子息なら兎も角、生粋のお嬢様として生まれ育った貴族令嬢には、辿り着くことは出来ないほどだ。例え偶然にも知ったところで、令嬢が来たいとは思わないだろう。


そういう理由からすっかり油断していたテレンシスは、今日も昼食の為に其処を目指す。今は公爵令嬢に収まった彼女だが、昔から公爵家に住んでいた人間ではないし、片親が公爵家の血筋だったという証拠も、見たことがない。


 「本当の貴方は、高貴なお人の血筋を受け継ぐ者なのよ。いつかきっとお迎えが来る筈…。その時のためにも、貴方は()()()()()()()()()()ならないの。」


物心ついた頃から、今まで育ててくれた両親にそう言われ続け、厳しく礼儀作法を躾けられた彼女。当初は意味も理解出来ず、徐々に理解出来るようになる頃、彼女の弟達が何の礼儀作法も教えられず、自由奔放に庶民らしく過ごす姿に、違和感を感じつつも寂しさを感じていた。


 「僕達一家は庶民なのに、まるで…お姉ちゃんだけが、お貴族様みたいに気取っておかしいとか、実はよその家の子だとか、僕の友達が言うんだよ…」


ある日、弟の1人からそう言われ、彼女は心に消えない傷を受けた。その後、彼女は親には内緒で、家の中と外での区別をつけ、外では飽くまでも庶民らしく行動した。本当に実の姉ではないことは、弟達には知らされておらず、彼らもまた心ない噂に傷付いていたからだ。


結局今のように、公爵家からの迎えが来た所為で、無理矢理に彼女だけ両親と引き離される。当初から両親が渋っていた様子を見るに、公爵が本来の迎えの者ではないということは、彼女にも理解できるつもりだ。


彼女を養女として引き取った公爵は、実際に彼女の血筋でも何でもなかった。全くの他人と言えようか。では、どうして公爵が引き取りに来たのか?…それは、彼にとっては利用価値のある、()()()()()()()()()()()()と、言えそうだ。


…わたくしの本当の両親は、何方(どなた)なのですの?…公爵家が利用したい身分の者だとすれば、それは一体………


テレンシスは本当の真実を知るのが、恐い…。彼女は馬鹿ではない。公爵家に無理矢理引き取られ、我が儘娘を演じてはいるけれども、その本意は利用価値がないと思わせる為の、()()()()()()()()()()


庶民でありながら高貴な血筋として、育ての母に貴族令嬢の最低限の嗜みを習った彼女は、公爵家が用意した礼儀作法や勉強も、あっという間に自分のものとするほど優秀だ。元ヒロイン・アレンシアとは決定的に異なる人物であろう。

 さて、フェリシアンヌと出会ったのは、誰なのか?…遂にあの人と、出会ってしまうのか……


今回のことが切っ掛けで、運命が動き出す???

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ