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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
開幕 ~続編が始まる~
35/66

33話 取り巻きは断固お断り

 今回は、主人公側からの視点です。フェリシアンヌにも意外なことが……

 フェリシアンヌはこの日、学園内を1人で行動していた。彼女の親友達、1つ上の学年のアリアーネと1つ下の学年のミスティーヌは、当然ながら一緒に行動が出来ない。ジェシカは今はまだ貴族ではない為、王立学園には通っていない。同学年で彼女と共に行動が可能なのは、クリスティアしかいないということだ。


クリスティアは風邪を引いたと、今日は学園を休んでいる。昨日彼女が時々咳込んでいたことを、フェリシアンヌは思い出す。此処では医学も医師のレベルも、前世とは()()()()()()()()()()()遅れていた。


病院も完全な個人経営しかなく、今はまだ看護師も存在していない。アシスタントが付き添うのは、医師として大成功した者ぐらいで、また家族持ちの医師ならば、看護師が担当する仕事を医師の家族が協力するだろう。但し、医師として成功する者はほんの一握りで、多くの医師は治療費どころか材料費すら取れず、貧し過ぎて結婚できない状況だという。


最近になって漸く、カルテン王太子ライトバルによる政策として、貧しい医師に研究費と材料費を補助するという、新しい試みが始まった。実はこれは、前世の記憶のある王太子妃ユーリエルンが提案した、その内の1つであった。


国民全体の生活をより良くしようと、ライトバルが真剣に悩んでいた時、彼の手助けをしたいと考えたユーリエルンが、前世からヒントを得たものだ。医学が遅れ気味なのはこの世界ではどの国も同様で、医学を教え医師を育てること、貧しい医師を助けること、この2つを優先に勧めた。最終目標として病院を増やす為、先ずは医師を増やすことを前提に。


 「…なるほど、先ずは医師を育てるのか…。実際に医師の人数は少なく、庶民を診る医師は貧しいと聞く。医師達は条件の良い貴族と契約したがり、腕の良い医師ほど貴族が独占している状況だ。ユーリの提案は、素晴らしい!…流石は我が妻、この先は偉大な王妃となるだろう。其方は、私の自慢の妻だな!」

 「…うふふふっ。大袈裟ですわ、ライト様。わたくしは貴方の正妃として、役割を果たしたに過ぎません。ですが、()()()()()()()()()()()()、これほど嬉しいことはございませんわ。」

 「其方は我が正妃として、十分に優秀だ。勿論、私の妻としてもだが…。愛している、ユーリ……」

 「……ライト様。わたくしを、褒め殺しになさるおつもりなの…。わたくしも…愛しておりますわ。」


実際にした遣り取りを王太子妃から聞かされ、頬を赤く染めつつ惚気る王太子妃の様子に、その時のフェリシアンヌは苦笑するものの…。貧しい医師を救助し、医学を教育する体制を整える、その考えには彼女も大賛成だ。前世のように誰もが病院に通院可能な国となる、それを心から願いつつ…。


其れなりに裕福な伯爵令嬢であるクリスティアは、伯爵家がお抱えの医師に診てもらえる筈だ。今はまだ政策として動き出したばかりで、実践されるのももう少し先の話である。全医師を完全に把握し、補助とする対象や具体的な内容など、王族主催の会議で貴族達と意見を交わすこととなる。中には反対する貴族もおり、既に多くの課題を抱えていた。


元々ユーリエルンは隣国の王族で、政治に関してもそれなりに知識を持つ。反対に公爵令嬢として育ったフェリシアンヌは、前世を通しても政治には疎かった。前世では政治とは無縁の立場であり、現世の方がまだ政治に近い立場である。


…平和な前世とは違い、此処では()()()()()()()()()()()があるわ。前世のわたくしは旦那様の妻として、のほほんと好きにさせてもらいましたわね…。現世は貴族の妻という立場ですし、どれだけ面倒でも…社交界では夫を、盛り立てていかなければなりませんのよ…。


完璧な身分制度のある国に生まれ、一見して前世の彼女の生まれた自国と似ているようだが、彼女は全く違うと感じている。現代社会の世界の身分制度が残る国として、其れなりに秩序の保たれた国であったと、過去の世界の方が圧倒的な自由を与えられていたと、今にして思えばそう感じて。


…過去の私の生まれ故郷も、今となっては懐かしく感じるわね…。日本のような自由さはなくとも、それでも…此処よりもずっと自由だったと、言えるもの。あの頃に不自由だと感じたものさえも、今ではもう懐かしい思い出よね……






    ****************************






 フェリシアンヌとクリスティアは一目会った頃から気が合い、それからは2人で常に一緒に行動し、普段はそれが当たり前のようになっていた。改めて丸1日自分1人で過ごすことで、自らにとって彼女が如何に大切な友人であるのかを、思い知らされることとなったフェリシアンヌは、人気のない場所を探すことに至る。


フェリシアンヌが1人で過ごしていたところ、乙女ゲーに登場する悪役令嬢の取り巻き達、モブキャラと思われる貴族令嬢達が、()()()()()()()()()()()しつこく、彼女に付き纏って来る。


平常ならばクリスティアが様々な理由で、取り巻き連中を撃退してくれる。最近では漸く諦めたようだったが、今日は五月蠅いクリスティアが休みだと思ったのか、心優しい彼女ならば拒否しないだろうと、推測したらしい。その所為で彼女は休憩時間の度に、身を隠すこととなる。


フェリシアンヌの方が高位貴族である以上、()()()()()()()()()()だけだ。彼女もそう分かってはいても、前世で同様の状況を経験した所為で、取り巻きたる人物そのもの自体が、最早トラウマなのである。


前世では数人の女子達が彼女の許可なく、彼女の取り巻きだと勝手に名乗っていたものの、彼女自身は特に害はないと(ほう)っておいた。ある日を境にそれが、彼女を苦しめるものとなる。彼女の誕生パーティーに、女子達を招待しなかったことで…。彼女にとっては彼らは、親友どころか友人でもなかったから。


彼女に仲間外れにされたとして、その後の彼らは悪口を言い触らし始めた。彼らの普段の行動は周りの人間にも知られており、殆どの者達は彼らを冷めた目で見て、信じていなかったが…。それを面白がり、彼らの悪態に加担した一部の者もおり、ちょっとしたトラウマになってしまう。


……前世の出来事に未だ…囚われているのね、わたくしは…。トラウマになったのは前世のことで、今のわたくしと前世の私は、別人の人生でしかないのに…。1人で居ると、こうも気弱になるのかしらね…。


今までは婚約破棄をするのに必死で、気弱になる暇もなかったのだろう。前世や現世の過去を振り返りつつ、フェリシアンヌは(ただ)1人学園内を彷徨っていた。自国での思い出の中には辛くなくとも、其れなりに苦い思い出もあったものの、来日してからは楽しい日々ばかりで、すっかり忘れていた過去でもある。時を超え時空を超え今更ながら、別の人生で思い出すことになるとは、彼女自身も思いも寄らず。


偶然にもとある場所に辿り着き、彼女は暫し呆然とする。まるで何処かの野原にやって来たかの如く、綺麗な花々が一面に咲くこの場所は、学園内だという事実を忘れそうになる。見事に咲き乱れた派手な色とりどりの花は、前世では見覚えのない花と思われた。学園入学後にも、一度も来たことがない場所なのに、何故かこの光景を以前にも見た気がした。それも、ずっと昔に……


学園から謝って外に出てしまった…という可能性は、絶対に有り得ない。侵入者や野生動物が入らないようにと、学園の周りには城壁のような頑丈で高い囲いがあった。彼女が学園を故意に出ようとしても、侯爵令嬢である彼女には…否、例え前世の彼女でも無理な話なのだと。


……もしかして以前に、此処に来たことがあるのかしら?…その時に、この景色を見たのかしら?…学園に入学する前に此処に来るとは、絶対に有り得ないことですわよね…。学園には誰でも入れるという許可は、入学前には与えられない筈だわ。でしたらわたくしは何時(いつ)、この光景を見たと言うの?……いいえ、来たことがあるのではなく、見たことがあるだけだわ。わたくしが見たのは………


フェリシアンヌは何かに気付いたように、思考が固まった。まさか…という思いが頭を過り、冷や汗が出る思いである。此処へ来たのではなく、見たことがあるだけだと気付いた彼女は、()()()()()()()()()()()しまって。


…ああ、今のわたくしではなく、私が見ただけなのね…。わたくしが実際に此処に来たのも、実際に見たのもこれが初めて。飽くまでも見たのはわたくしではなく、前世の私だったのよ。私は前世の乙女ゲーの攻略中に、此処を見たのよね…。


徐々に思い出すうちに、此処がゲームの世界で見た風景なのだと、フェリシアンヌは気付かされていく。呆然と目の前の花畑の景色を眺めつつも、此処が裏イベントである『学園の隠されたお花畑』なのだと知り、彼女は動揺を隠せない。


…此処が、裏イベントの場所?!…もしかしてこれ、わたくしへの死の宣告ではないですわよね…。其れとも…今から、裏イベントが起こるとか…。あれ?…此処では、どういう内容のイベントだったかしら???


フェリシアンヌは今まで完全に忘れており、裏イベントの内容を思い出そうと唸りつつも、必死の形相である。今回の乙女ゲーの設定では、既に死者扱いされている彼女には、何時如何(いついか)なる状態となるか知れたものではなく。


彼女を守ると誓ってくれたカイルベルトも、最終学年の5年生となってから、彼女とはすれ違いとなる多忙な日々であった。学園で2年生と5年生が出会う機会は、ほぼ無いに等しい。5年生は新入生の世話役を担う役目もあって、テレンシスが彼と接触する可能性の方が、高いと言えるかもしれない。


何とも言えない不安が一気に押し寄せ、フェリシアンヌは暫く1人で呆然としていたらしい。ガザガザと草花の踏み分ける音がして、漸く我に返った彼女が振り返り見たものは……


思いも寄らぬ人物に、此処で…出会うとは!

 常に共に行動していたクリスティアの欠席で、フェリシアンヌがピンチに陥っています。悪役令嬢の取り巻きは、乙女ゲーでは敬遠される存在なので、主人公も受け入れたくないというところでしょうか。


さて、今回のことが裏イベントかどうかは、後日判明するのか……?

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