27話 前世の推しは、誰?
『王太子妃とご令嬢達のお茶会』編も、漸く終わりそうです。
タイトル通り、お茶会も完全に雑談モードです。
「アレンシアさん!…そのお気持ち、よぉく分かる。私も第2弾では、他の男性に目移りしたもの。」
「…あれれっ?…ジェシカさんは、タリムード推しなのでは…。ジェシカさんって案外と、浮気者なんですね〜。」
「そういうアレンシアさんこそ、ハイリッシュ推しでは?」
「…ああ、それは…。ゲームでは2番目に推しだったけど、今の現実では有り得ないなあ…と。」
「…分かるわ。私もゲームでは、タリムが可哀想だなあ…と同情したぐらいだったけど、これが現実になると、幼馴染のタリムの力になりたくて…。」
「羨ましいなあ…。現実に居る、本気で好きな人…。私だけを見てくれるような人と、私も恋愛したいなあ~。今のところ此処ではまだ、本気で好きになれる人が見つからなくて…。」
先程王宮に到着した頃とは違い、アレンシアとジェシカはすっかり意気が投合したようで、乙女ゲー第2弾の攻略対象の話題で、きゃあきゃあと盛り上がっている。如何やら2人共、前世でゲームを攻略していた頃とは違い、推しキャラと現実で好きになる人とは、別のようだった。
本来は前世で一番だった推しキャラを、現実でも好きになると思うけれど…。続編が存在することを、先日まで知らなかったわたくしの場合は、続編キャラ・カイ様と婚約した時点で、わたくしには最初から推しキャラとは関係ないのです。
2人がキャッキャッ騒ぐ傍ら、フェリシアンヌは自分の過去を繰り返り、前世の自分の推しキャラが誰だっただろうかと、思い出そうとしていた。何方かと言えば、悪役令嬢を推していた彼女。攻略対象で推しを思い出そうとしても、前世の旦那様の顔や声やセリフが思い出されて、前世の自分の推しは…実は、現実の旦那様だったかも…という結論に、辿り着いていた。
…どれほどわたくしは、自分の旦那様を好いていたのかしら……。旦那様のことしか思い出せないわ…。ゲーム世界で再会することは叶わないというのに、余計に会いたくなってきてしまう…。
少々感傷的になるフェリシアンヌ。周りのご令嬢達もまた、アレンシア達の前世の推しキャラに刺激され、自分の推しキャラは誰だったかと、考え込んでいた。そうして思い出した面々は……
「実はわたくしも、前世では推しキャラがおりましたわ。それでもやはり一番の推しは、モーリス様でしたわ。彼は我が儘な妹や婚約者との不仲に悩んでいたところ、ヒロインによって救われた後は只管甘くなる、そういう部分がわたくしにはお気に入りでしたのよ。…あっ。勿論、我が儘な妹はゲーム上の人物のことでして、此処におられるフェリーヌのことでは、ありませんことよ。」
「…ふふっ。アリア様、十分に理解しておりましてよ。」
最近になって前世を思い出したアリアーネは、同じく悪役令嬢となる同世代の少女達が転生者と知り、前世の話が出来る喜びを感じた。彼女も正直に、自らの胸の内を打ち明ける。現実の自分の婚約者は、前世時代からの推しであるのだと…。普段からおっとりしている彼女は、何時もは主に彼女達の聞き役に徹し、何か年上として振舞うべきところでしか、自分の意見を語らないような女性である。
自分の兄を推しキャラだと言ってくれる彼女に、フェリシアンヌはゲーム上の話とは言えども、嬉しく思う。我が儘な妹が貴方ではないと、慌てて否定する彼女には親近感を持てど、嫌いになどなれそうになく、フェリシアンヌは心からの笑みを零ぼしていた。
現実のモーリスバーグはゲームとは違い、かなりのシスコンだ。フェリシアンヌの他にもう1人、現在10歳になる妹カールユーラがおり、彼は妹2人のことは目に入れても痛くないほどに、溺愛している。ハミルトン家次女カールユーラは、家族や親しい者達からはカールラと呼ばれる、美少女だ。長女フェリシアンヌとは真逆のおませな少女で、常日頃人間観察している腹黒い部分もあるが、兄や姉のことは本気で慕っている。特に無垢な魂を持つ姉を、兄と同様に溺愛しており、彼女もまた…シスコン気味だった。ブラコン要素はなくとも…。
兄妹の仲は非常に良好であり、乙女ゲーのようにモーリスバーグが妹を切り捨てることは、絶対に有り得ない。婚約者・アリアーネのことも大切に扱っている彼は、乙女ゲーのように婚約者を嫌ったり避けたりという言動は、一切していない。
「確かに…モーリス様も、素敵なお人ですよね~。」
「うんうん、そうそう。」
真っ先にジェシカが同意し、アレンシアもコクコクと首を縦に振っている。如何やら2人は元々平民という立場もあってか、お互いに気取らずにいられる為なのか、完全に意気投合をしたようだ。ジェシカの性格的に、後を引かないさっぱりした部分もあり、アレンシアもまた昔は昔という雰囲気があって、ある意味では…似た者同士なのかもしれない。
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「前世のわたくしも、一番の推しはハウエルでしたが、案外とアルバルト様も好みでしたのよ。幼馴染の少女の為にと、敢えて告白しなかったところを好ましく思いましたけれども、これが現実では…優柔不断に見えましたわ。但し、現実の彼はゲームよりはマシですし、同じ彼でも…現実の彼の方が、今は好みなのですわ。」
クリスティアも同様に、自らの推しを語る。彼女は少々無邪気で子供っぽい部分も見られるが、決して我が儘な人物ではない。好きな人にだけ優しいような腹黒い人間には、心惹かれないようだった。誰にでも優しい男性を好む彼女は、ゲームの彼の方が頼りない男性に感じるそうで、まだ現実の婚約者が頼れると話している。
「…なるほど。確かに現実では、男性に頼りたいですよね。」
「…あっ、私はゲームでも駄目ですね…。ハウエル、もっとしっかりしなよっ…と、毎回のように叫んでいましたよ。」
クリスティアの推し発言に、ジェシカも同意するのだが、アレンシアは反対に自分は受け入れられないと発言し、クリスティアは「これは好みなので、仕方がない」と内心では苦笑していた。他の令嬢達は「……」と無言で苦笑する。相変わらずこのヒロインは空気が読めないなあ、と…。寧ろ興味がなかったとズバリ言い切る方が、悪意は一切感じないのかもしれない…。神のみぞ知る…である。
「前世のわたくしは、真面目過ぎて父親の期待に応えられず、悩んでいるアルのことが可哀そうに思いつつ、大好きでしたのよ。ですから悪役令嬢と知りつつも、彼の婚約者になれた時にはもう嬉しくて、嬉しくて…。常に諸々のヒロイン対策をして、参りましたのよ。ふふふっ…。」
「「………」」
ミスティーヌも推し話に参戦してきたが、彼女が推しキャラを大好きと語り、当初は全員が微笑ましく思っていた。しかしその後の会話の中で、諸々のヒロイン対策をしていたと、にこやかに語ったことにより、ジェシカとアレンシアの2人は目が点になる。特にアレンシアは自分に対して、対策がされていたということに、思うところがあるだろう。現にアレンシアは、頬を引き攣らせていた。
…ううっ。ミスティーヌ様って敵に回すと、案外と恐ろしい人そうね…。前回の時にアルバルト様を奪っていたら、乙女ゲーのバットエンドでも最悪なルート時の罪に、私が問われるよう仕返しされていたかもね…。敵に回したのが、心優しいお人で良かったよ。
そう感じたアレンシアは、ブルっと身体を震わせる。ミスティーヌ様がまだ学園に入学する前で、良かった。心の中で神に感謝して。
ミスティーヌ様って、フランス人形のような見た目と逆で、割と腹黒っぽい人なんだね…。生真面目なアルバルト様とは、案外とお似合いかな…。貴族の人達は少々腹黒いタイプの方が、上手く渡っていけるようだし、ね…。それに比べると要領の悪いタリムは、本当は…商人の方が合いそうだなあ…。
白黒ハッキリするタイプのジェシカは、自分がヒロインでなくて良かったと、思っている。貴族らしい見本のようなミスティーヌは、嫌いではないけれども、自分の周りには居ないタイプでもあった。人柄の良い人間ばかりに囲まれていた所為で、貴族らしいとか商人らしいとかなどと、全く考えたことがない。
タリムードやフェリシアンヌは特に貴族らしくなくて、自分も貴族の一員になることを、気負わずに済んでいたというのに…。彼らと同じ世界に行けるのは嬉しいけれども、今のミスティーヌを見ているうちに、自分が本当に貴族の一員になれるのか…などと、少々心配になってくるジェシカである。
「……コホン。前世のフェリーヌは、何方が推しでしたの?」
わざとらしく咳をして話題を変えたのは、アリアーネである。この中では一番年上ということで、責任感の強い彼女は普段から、目立たないような態度を一貫していた。それでもこういう時には、しっかりと主導権を取る。彼女のそういう態度を、嫌がる者はこの中には居ない。
「……わたくし?…わたくしの推しは、旦那さ……ではなく、何方と申しますならば、今のわたくし、フェリシアンヌでしたのよ……」
「…あら、まあ?…悪役令嬢がお気に入りでしたの?」
「それに…続編は、全く存じませんでしたし……」
「…ああ、そうですね。婚約者のカイルベルト様は、前作にはご登場されてませんもんね~。」
「………」
唐突にアリアーネに推しの話題を振られ、先程まで前世の旦那様のことを考えていた彼女は、思わず「前世の推しは、旦那様」と発言しそうになる。慌てて訂正したお陰で、事なきを得たが…。
…ああ。危ない、危ない…。わたくしの前世の推しが、自分の旦那様だったとは恥ずかし過ぎて、絶対に知られたくありませんわ…。これほど、旦那様を好き過ぎる自分は、一体……。
空気の読めないアレンシアが、最後に放ったある意味鋭い言葉に、フェリシアンヌが本気でヒヤリとしたのは、言うまでもなく……
前世の推しは…という話で、盛り上がる悪役令嬢達、プラス元ヒロインですが、大体が婚約者となった人物を推していた、という結果に。最終的に元ヒロインは、誰を選ぶことになるのか…が、筆者の今後の課題になりそう…。
お茶会のお話も、今回で最後になる予定です。