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婚約から始まる物語を、始めます!  作者: 無乃海
序章 ~悪夢の始まり~
27/68

26話 礼儀作法を習うのは…

 今回、『王太子妃とご令嬢達のお茶会』編でも、少し話が逸れました。


後編途中からはまた、お茶会の話に戻っていますが…

 王宮での王太子妃のお茶会は、前作乙女ゲームのヒロイン・アレンシアからの謝罪で始まった。肝心な後編の乙女ゲームの情報は、アレンシアの口から語られることになる。彼女は自分のことを棚に上げ、「新ヒロインの態度に幻滅した。」などとついつい正直に語り、他の令嬢から(いじ)られていた。


弄られている彼女を気の毒に思うほどではありませんが、これで少しは和みましたかしら…。結果オーライでしたわよ、シアさん。


心の中でそう呟くフェリシアンヌ。表向きは元ヒロインを「アレンシアさん」と呼んでいる。今回のように、アレンシアを自分の侍女として王宮に連れて来る為に、彼女を侍女に仕込む期間中は、フェリシアンヌの家に滞在させており、迂闊に彼女の本名を呼ぶ訳にもいかず、その時はアレンシアの愛称の「シアさん」と呼ぶことにした。


最初は義務的に、そう呼んでいた部分もあったが、今はアレンシアと呼ぶよりシアと呼ぶ方が、しっくりくるようだ。高々2週間ほどの出来事だが、フェリシアンヌには長い時間のようにも感じられていた。


アレンシアがハミルトン家に滞在している間、普段以上に賑やかであった。今までは碌に勉強も礼儀作法も、真面目に学ぼうとしなかった彼女は、ハミルトン家のメイド長であるラマンダや、フェリシアンヌ専属侍女のマリルダに、一から徹底的に指導されることになる。たった2週間で礼儀作法の全てを叩き込むのは、()()()()()()()()()()()()()()が、先ず基礎中の基礎を叩き込み、今直ぐ必要な応用を掻い摘んで教え込むことになった。


ラマンダは、ハミルトン家の侍女達を束ねるメイド長であり、またハミルトン家の令息令嬢の礼儀作法を担当していた。彼女はマンドリン男爵家のご令嬢で、実家が貧乏であったことから、ハミルトン家先代の頃に雇われ、侍女として働くことになった。彼女の実家・男爵家は身分は低いものの、彼女の母親が礼儀作法の元教師であったことから、母から厳しく指導されており、彼女の礼儀作法は完璧であった。


侍女として働き始めたラマンダの礼儀作法に、感銘を受けたハミルトン家の先代当主夫妻が、まだ幼ない自分達の息子だった現当主の礼儀作法の指導を、彼女に任せたのである。簡潔に言えば現当主ハミルトン侯爵は、ラマンダから礼儀作法を指導されていた。


彼女がメイド長になった今も、礼儀作法の教育係として現役だ。ハミルトン家当主の子供達、嫡男モーリスバーグとフェリシアンヌに礼儀作法を教えたのも、勿論彼女に他ならないのである。


そういう理由から、フェリシアンヌはラマンダに託した。アレンシアが前回のあの事件でフェードアウトしていなくとも、マナーが悪く無作法なアレンシアを、この状態のまま王城には出入りさせられない。もしも…王城に入る際に、マナー違反で怪しい者と目をつけられれば、王城に連れて来たフェリシアンヌも、責任を問われることとなる。王太子に敵扱いされれば、自分も危ないと…。


いくら王太子妃が望んだとしても、もう貴族ではない庶民のアレンシアを出入りさせようとは、王家は絶対に認めないことだろう。特に…王太子が、大反対するだろう。フェリシアンヌもそう考え、()()()()()()()()()()連れて行くことにした。


フェリシアンヌの侍女が、最低限の作法も知らないとはいかず、彼女の顔に泥を塗ることになると、ラマンダがアレンシアに礼儀作法を叩き込むと言い出した。王太子妃にも事前に許可を取り、アレンシア自身にも確認を取っている。最終的には、アレンシア自身が決めたことである。


アレンシアの決意は迅速で、現養父である実の祖父に許可を取り、ハミルトン家に泊まり込む。以前のアレンシアならば、あまりにも厳しいラマンダの指導について行けず、逃げ出したことだろう。しかし今の彼女は真剣に、ラマンダの指導を受け入れていた。へこたれた様子を見せず、何度か泣きながら練習していた。


フェリシアンヌも全て見ていたが、全て詰め込むには時間が足らず、基本的な礼儀作法の幾つかと、よく使う応用程度ぐらいしか教えられず、それでも…アレンシアは良く頑張っていたと知っている。ラマンダも納得が出来なくて、今後も教えられるものならば…と思っていた。ある意味で彼女は、公私共に厳しいラマンダに気に入られたようである。


 「シアさん、たった2週間にしては、よく頑張りましたね。出来ればもう少し時間がある時に、()()()()()()()()教えて差し上げたかったですね。」

 「ラマンダさん。私、礼儀作法でこんなに厳しいトレーニングは、したことがなかったけど、ラマンダさんが私のことを考えて、教えてくれているのはよく分かりました。もし良ければ…私も、今後も教えてほしいと思ってます。」






    ****************************






 あの自らにも厳しいラマンダが、今後もシアさんに教えたいと言い出すとは、考えられませんわね…。シアさんも前世の習い事感覚ではありますけれど、礼儀作法を習いに我が家に通うと、自ら言い出されるとは…。昔の彼女と同じ人物とは、考えられませんわね…。


今後もハミルトン家で、礼儀作法を教えるということになったが、アレンシアは今はもう貴族の令嬢ではなく、庶民に逆戻りしたので今更礼儀作法を覚える必要はない。そのことはラマンダも百も承知であろうし、過去にお花畑と言われたアレンシアも、十分に理解していることだろう。


フェリシアンヌもラマンダの気持ちは、何となく理解が出来る。前世の記憶がなければ、フェリシアンヌも理解出来なかったかもしれないが、前世の彼女は西欧国出身の日本好きな外国人であり、前世では日本の礼儀作法を専門の教室で、習っていた時期があったからだ。勿論その頃の彼女は、日本人と結婚して永住する気満々でいた頃だったので、彼の両親に挨拶に行く前にどうしても習って置きたい、という()()()()()()()()()()()()なのだが…。


それでもラマンダがアレンシアに教えようと思うのは、礼儀作法を教える立場の人間として、アレンシアの中にある素質やら素直さやら、真面目に取り組む姿勢やらを感じたのではないだろうか。ラマンダも無駄になるかもしれないと思いつつも、無駄でも教えたいという教師としての誇りのようなものが、刺激をされたのではないだろうか…。フェリシアンヌはそれを、微笑ましく感じていた。


アレンシアもまた前世の記憶持ちで、前世は純粋な日本人であった彼女は、習い事に対しての抵抗感はないようだ。つまり身に着けて置けば、例え今の生活に必要はなくとも、何かの時に役立つかもしれないし、一時期とはいえ貴族だったのだから知っていても損はない、と考えたのかもしれない。


前世とは違い今の世界では、女性の出来ることは限られており、また女性の習い事も選ぶほどはなく、貴族の時の嗜みとして無理矢理教えられることよりも、今は唯の習い事としてならば受け入れられる…というのが、アレンシアの本音だ。子供の頃より貴族の義務として受け入れたフェリシアンヌには、アレンシアの今の答えを導き出すことは、出来ないけれども…。


アレンシアも前世の記憶が有る無しに拘らず、物心つく前に貴族に戻れば、少なくとも貴族の義務として、しっかりと受け入れていたことだろうに。その上、庶民時代に記憶が戻っていたので、尚更に乙女ゲーの設定通りだと思い込む彼女には、礼儀作法の必要性を感じなかったのだ。乙女ゲーの設定に礼儀作法は関係ないと…。


逆に元ヒロインがフェリシアンヌだったならば、「乙女ゲームの設定には出て来ないけれども、この世界は現実で自分が生きている以上は、そういう事情も熟さないといけないわね…。」と考え、貴族に必要とされる礼儀を、懸命に一から学んだことであろう。要するに、彼女達の元々の性格に依る違いもあるので、これも…()()()()()()()()()()と思うしかないだろうか…。


こうして、何とか最低限の礼儀を身に着けたアレンシアだが、侍女として王城に到着してから、暫くの間バレずにいたのは、彼女の練習の成果とも言える。実際に、王城の門番達も廊下ですれ違った騎士達も、またお茶会に集ったご令嬢達も、誰も気付かずにいたのは、練習の成果が十分に発揮されていた…ということだ。


さて、アレンシア側からのヒロインに関する衝撃の情報提供の後、乙女ゲーについて詳しく知るジェシカが、語ることとなった。ユーリエルンや悪役令嬢キャラとなる令嬢達も、自分が好きな攻略対象ルートなどの一部は知っていても、ジェシカのように全ルートを攻略していなくて、また詳しい設定を覚えていなかった。


アレンシアもはっきりとは思い出せていないし、ジェシカの情報により思い出したこともある。アレンシアは昔を懐かしむような顔で、前世でゲームに夢中だった頃の自分を思い出していた。


 「流石です、ジェシカさん!…全ルートを攻略しただけは、ありますね。思い出せなかった部分も、思い出してきたかも…。前世の私は第2弾の後編の方が、好きだったんですよね~。第1弾は絶対に王太子が一番の推しだったけど、第2弾では何人か推しがいたんです。ラングルフ様はとても優しいし、モーリスバーグ様もかっこよかったし、隠しキャラのカイルベルト様も割と好みだったし、誰にしようかと迷っていたぐらいでした!」


…そうそう。第1弾の推しは王太子で、ハイリッシュは2番目の推し。それに比べると、第2弾の時には推しが沢山いて、毎回ゲームをする度にどの推しにしようかと、迷っていたっけ…。


久しぶりに同世代の女性達と、前世と乙女ゲーの2つの秘密の話をして、燥いでいたアレンシア。全ルートをクリアしたジェシカは、自慢げに生き生きと語り、他のご令嬢達も和気藹々とし、まるで()()()()()()()()()()()()()空間だと、久々にうきうき気分のフェリシアンヌであった。

 お茶会の話の筈なのに、少し前のアレンシアの礼儀作法の話が、メインになってしまった形です。新生アレンシアが誕生したシーンでしょうか…。お茶会の話はあと少しかと…。(脱線しなければ…ですが。)

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