20話 隠されていた真実
今回の副タイトルは、色々な意味が合わさっています。
故意に隠していた事実と、ただ語らなかった事実と、後は…意外な事実と……。
「…まあ。カイルベルト様も…転生者ですの?…乙女ゲームも、ご自分がされていらしたのかしら?」
「いえ、それは…。わたくしも、詳しく伺った訳ではないのですが、親しい間柄のお人がされていたそうですわ。」
ミスティーヌの問いに対し、何の疑いもなく真面目に応えるフェリシアンヌに、その意味を十分に理解したミスティーヌとジェシカ、アリアーネは自分の恋愛には臆病で自信がなくとも、他人の恋愛には割と空気が読んでおり、クリスティアと肝心の当人だけは良く理解していないことだろう。
フェリシアンヌは恋愛自体には鈍感で、自分が好きになることに主に重点を置くタイプだ。前世では、自分から好きになった生涯の旦那様にしか興味を持てず、他者にどんなにアピールされても気付かない。抑々、自分が好きにならなければ、相手に興味も持てないタイプでもあったので、相手からの好意には疎かったりする。
クリスティアは恋愛自体に気付かぬ程、子供っぽいところもあり、前世も恋に奥手で中々恋愛に発展しなくて、抑々恋愛より友情や家族愛を大事にしていた。今もそれは同じで、現実でのハウエリートとの間柄もヤキモチではなく、唯の幼馴染から家族愛の間のような関係で、ヒロインのハッピーエンドでの処遇を、当時は単に恐れていただけだ。
このように性格が各々異なる令嬢達だったが、面倒見の良いフェリシアンヌを中心にして、自然と仲良くなっていた。ジェシカはタムリードからフェリシアンヌを紹介された後、フェリシアンヌから声を掛けられ、更にこのメンバーに加えてもらっていたので、彼女には感謝しきれない…と恩を感じていた。
前世の事情に口を出さず深く追求しないと、令嬢達が心に誓う中でミスティーヌだけは、フェリシアンヌが嫌な思いをする前に、自分が先に問い質そう…とは思ったが。
「ところで皆さん。前世で住んでいた所は、覚えていますか?…因みに私は、間違いなく関西出身なんですよね~。」
「あらっ、わたくしは…中部地方だったような。日本の真ん中だったと、薄らと覚えておりましてよ。」
「わたくしは、如何やら…北の方だった気が致します。雪が降ると、大変だった記憶がありますわ…。」
「あっ、わたくしは…南の方ですね。一年中、暖かかった気が…。フェリーヌは何となく都会のイメージがありますから、関東育ちではありませんこと?」
ジェシカが話を逸らそうと、ふと思いついた話題を振ると、アリアーネが真っ先に話に乗って来た。空気が読める人だとジェシカが感心すれば、ミスティーヌもにこにこと笑顔を浮かべて続き、クリスティーヌも今思い出したばかりの如く、その後に続いていく。何故か話に乗って来ないフェリシアンヌに、クリスティーヌが彼女に話を振ったのだが…。
それまで黙って聞き役に回っていたフェリシアンヌは、今まで特に語る必要性を感じていなかった。今まで誰ともそういう話をしたことがなく、つい先日アレンシアには日本人かどうか聞かれたので、正直に答えただけだった。カイルベルトもその場に居たので、彼にも知られてしまったが。
…あれっ?…そう言えば、カイ様は何も仰られませんでしたわね…。何も申されませんでしたけれど、本当は驚いておられたのかしら?…それに、自分以外に外国人が転生していたとしても、此処が乙女ゲームだと気付くのは、彼女達のように日本人の転生者だけですわね…。
日本が大好きになり日本人の旦那様と結婚し、日本に長年間永住していて、どんなに日本人に成り切っていても、肝心な部分で考え方が違うのは、人種の違い・育った環境の違いもあるし、基本的な元の考え方が異なる為、どうしても相容れない部分も出来るだろう。だから、日本人だった…と嘘を吐く気はなかったが。
当然前世の自分は、日本人だと思われているだろうから、ここはキッパリ否定すべきだと悟っていたフェリシアンヌは、漸く口に出すことにする。
「そうですわね…。確かに日本に来てからは…関東、日本の首都に住んでおりましたわ。抑々わたくしは留学生でしたので、前世のわたくしは、元々日本人ではございません。」
「「「「………。」」」」
フェリシアンヌが日本人ではなかったと告げた為、令嬢達全員の動きがピタリと止まる。目を丸くしキョトンとする者、瞳を大きく見開く者、口をあんぐりと開けて呆然とする者、ギョッとしたように固まる者など、4人各々の反応を示していた。
「前世のわたくしは、西欧人…多分フランス人だと思いますが、詳しく覚えておりません。但し、日本に留学した後のことは、よおく覚えておりますわ。わたくしは日本人の男性と結婚し、その後は永住致しましたの。その時に住んでいたのが、日本の首都でしたわ。」
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フェリシアンヌが語り終えた頃、漸く我に返ったクリスティアが、新たに生じた疑問を彼女にぶつけるようと、口を開く。非常に驚く内容ではあったが、勝手に日本人だと思い込んだのは自分達だと、クリスティーヌは…そう切り替えて。
「前世のフェリーヌは、本当に…外国人でしたの?…では、乙女ゲームをされていらしたのは、日本に留学されてから…ですの?」
「ええ、そうですわ。切っ掛けは、前世のわたくしの家に初めて、日本人留学生を受け入れたことでしたわ。彼女と会話をする為に、日本語を教えてもらっているうちに、日本に興味を持ちましたのよ。」
フェリシアンヌは、クリスティアの疑問にきちんと答えた。その後も彼女は、日本に遣って来た経緯や日本での留学生活などを、詳細に語る。そうして前世の旦那様との出逢いについても、彼女は嬉しそうに語り出し…。旦那様と知り合ってから、日本の漫画やアニメに…そして、乙女ゲームに夢中になって行く事情も…。
「旦那様とは良く一緒に、乙女ゲームを攻略しておりましたわ。前世のわたくしには、乙女ゲームの設定に不慣れなところも、ありましたので…。まだあの頃は、日本語は話せるようになっていても、難しい漢字や日本語の言葉の意味も、ところどころ理解が出来ませんでしたのよ。ですから、わたくしが遊んでいるゲームは、旦那様も全て目を通してくれましたのよ。」
フェリシアンヌが嬉々として語った内容に、クリスティアだけではなくアリアーネもミスティーヌもジェシカも、語った本人以外の全員が苦笑する。どんだけ…前世の旦那様が大好きなのよ…と。確かに日本人の男性の中でも、とても優しい性格の人だと思うけれど……。そういう意味での苦笑でも…あった。
前世の旦那様を語るフェリシアンヌに、他の令嬢達も羨ましいような気持ちも芽生えてくる。彼女達は家族のことは、殆ど覚えていなかった。思い出そうとしても、乙女ゲームのことと簡単な前世の経歴しか、思い出せなくて。乙女ゲームのことは案外と詳細に思い出せても、前世の自分の人生に関しては、人生の一部を切り取ったかのようにしか覚えていないし、それ以外については殆どが思い出せなかったのだ。
自分がいつ・どのようにして人生を終えたかは、覚えていない。誰かと恋愛したとか結婚したとかも、全く思い出せなくて。唯一覚えているのは、乙女ゲームに夢中になっていたその頃の前後の自分だけだ。前世の自分を一番覚えているのは、この中ではフェリシアンヌだろうか。
「それからもうお1人、乙女ゲームのことをご存じのお人がおられます。実は…そのお人は、王太子妃殿下であるユーリエルン様ですわ。陛下や王妃殿下からご紹介していただき暫くして、ユーリエルン様からご相談されましたの。『貴方も前世の転生者で、乙女ゲームの情報を知っておられるのでしたら、わたくしに力をお貸しくださいませ。』と…。ですからわたくしはその頃から、ユーリエルン様のお手伝いをさせていただきました。今だからこそ申し上げられますが、アレンシア様が王太子殿下や理事長にお会いにならないように、わたくしも口添えさせていただきましたわ。」
令嬢達が自分の前世の記憶を振り返っていると、フェリシアンヌはまた先程とは違う衝撃的な内容を、告げて来る。唐突に…王太子妃殿下の話が出たと思えば、彼女も転生者だと知らされ、一瞬返す言葉を失う令嬢達。
「まあ…。王太子妃殿下も、乙女ゲームの記憶をお持ちなの?…そういうことでしたら、悪役令嬢というお立場は…お辛かったことでしょう…。」
「ええ。自国ならば兎も角、他国に嫁ぐことで始まるお立場ですし、幸いにも幼い頃より前世の記憶をお持ちだったそうで、その記憶を利用した上で、王女としてご立派に振舞われておられたようですわ。王太子殿下とも、乙女ゲームのような関係にならないようにと、十分にお気を付けて来られたようですの。」
ユーリエルン王太子妃殿下の話が出ると、フェリシアンヌの次に親しく付き合っているアリアーネが、透かさず相槌を取る。他の令嬢達は別に、王太子妃と対立するつもりもなく敬遠するつもりもないが、隣国の王女だったユーリエルンとは正式に王太子妃となってからも、万全な警備を敷かれている事情もあり、王族と会うことを許されたフェリシアンヌのようには、個人的に親しくする機会が中々ない。
要するに、警備が厳し過ぎる王太子妃には、王族関係者以外は個人的に会う許可が下りなかったのだ。勿論それは、アレンシアの件が絡んでいた所為だが、その後も今もずっと警戒する王太子により阻まれ…。
ハミルトン家の嫡男と婚約しているアリアーネは、その挨拶も兼ね唯一王宮を訪れている。転生者同士ではなくとも個人的に挨拶し、親しくする機会にも恵まれた。
そしてフェリシアンヌの今回の話により、妻を大事にするあまりのライトバル王太子の制限で、全てをシャットダウンしていたという笑えない事実が、明るみになったのであった。
前半では、フェリシアンヌが日本人ではなかった、という事実が判明しました。後半では、王太子妃も転生者だった…という事実ですね。後は、王太子の笑えない事実でしょうか…。
誰も予想していない事実…という意味を込め、今回の副タイトルに決めました。