12話 王太子妃とのお茶会
前半までは、8話からの続きです。後半は、それから数日経っています。
前作の悪役令嬢の1人だった王太子妃が、今作でも再登場です。
乙女ゲームの話はこれで終了し、今日の目的は達したとばかりに、アレンシアはフェリシアンヌ達と多少の雑談をしてから、迎えに来た使用人・ライオと一緒に、引き上げて行った。アレンシアが去って行くのを見届けると、カイルベルトは再びフェリシアンヌの隣に座り直し、彼女に言い聞かせるように話し掛ける。
「フェリ。これだけは、約束してほしい。確かに彼女は…更生したかもしれないけれど、俺も 100%信頼出来る訳ではない。呉呉も彼女の言動を鵜呑みにせずに、必ず俺には何もかも…相談してほしい。…約束してくれる?」
「勿論ですわ、カイ様。アレンシア様お1人だけを、信用したりは致しません。それにわたくしには、他にも協力者がおりますの。それ程ご心配なされなくとも、大丈夫ですわ。」
「他にも…協力者がいるのかい?…それは、誰なの?」
「申し訳ございません。まだお話する許可を、いただいておりませんの。今度、お会いする予定になっておりますから、その時に…許可をいただいて参りますわ。それまで…待ってくださいませんか?」
「なるほど…。大体、何方かは…分かったよ。確かに…勝手には、判断は出来ないよね…。…分かった。俺のことも、話していいよ。」
「そういうことでしたら、きっと…面白がられましてよ。」
こうしてカイルベルトは帰って来ると早速、今日アレンシアが話した内容の裏を取る為、自分の従者でアーマイル家の隠密であるファーレスを、自分の部屋に招き入れた。ファーレス自身には前世の記憶はなくとも、カイルベルトの常に傍らにいる為、カイルベルトの事情は知らせてあった。
「ところで、ファー。今日の話は、聞いていたのか?」
「はい。聞いておりましたよ。厄介そうなお話でしたね。カイル様とフェリシアンヌ様の事情を知らなければ、頭の中身を心配しておりましたよ。」
ファーレスは何処かで、話を立ち聞きしていたようだ。口調は巫山戯てはいるが、顔の表情は無表情であり、目付きは…鋭く光らせていた。今日の話の内容に対し、警戒心を露わにしているようだ。因みに彼が心配するという、頭の中身の人物とは勿論、アレンシアのことである。
「それならば、話は早い。アレンシア嬢の話に登場した、テレサとルノブール家の関係を、徹底的に調べてほしい。」
「承知致しました。何人か人手が要りますので、アーマイル家の隠密だけでは足らないか、と。雇い入れても宜しいでしょうか?」
「ああ。構わない。ファーが遣りたいように、遣ってくれ。後は任せる。」
「承知致しました。では、カイル様。私も…お傍を少々離れますので、他の者を付けて置きますね。呉呉も転生者だと悟られないよう、お気をつけを。」
「……言われなくとも、分かっているよ。相手がファーだから、全て正直に話したんじゃないか…。」
「それならば…宜しいのですが。」
ファーレスはカイルベルトの大事な護衛でもあるが、それ以前に彼はアーマイル家の隠密でもある為、こういう時に裏で動いてもらうには、丁度良かったのだ。然もファーレスは、アーマイル家専属の隠密の家系だ。隠密は正式な結婚はしないが、子孫を残す目的で体の良い女性を囲っている。要するに…愛人関係の女性を囲い、相手の女性には彼らが何者なのかも、全く知らされない。ある年齢までは愛人が育て、その後アーマイル家が引き取り、隠密として育てていた。だから親子と言っても特別の情は、湧かないようである。
その専任の護衛を一時的とはいえ外すのは、この世界では…死を意味する。他の護衛と専任護衛とでは、動きだけでなく心構えも違う。しかし今回はそのファーレスを使ってでも、調べる必要があった。それを理解するからこそファーレスは、真面目な顔のまま冗談めいた口調で、主人に釘を刺す。
それに対しカイルベルトも苦笑しつつ、ファーレスを信頼すると強調する。護衛を任せられるのは、お前しかいないのだと。お前も無事で帰って来いよ…と、そういう意味を込めて。資金はいくら掛けても良い、という許可も出して。
仕える主人に依っては、経費は最小限にしろと言う傍らで、しっかり調べて来いと言うケチな輩もいたりする。アーマイル家では寧ろ、その反対である。アーマイル家の当主一家は、使用人達も大切に扱っており、絶対に捨て駒にはしない。貴族に代々仕える使用人に対して、一般的な当然の対応ではあるが、中には…使用人を奴隷のように扱う鬼畜な貴族も、存在していたりする。
ファーレスは使用人として自分の待遇の快適さに、自分の主人であるアーマイル当主並びにカイルベルトには、感謝しきれないと思っていた。
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あれから数日経ち今日は、王宮を訪ねていたフェリシアンヌ。王太子妃との約束で、出向いていた。前世からの転生者で乙女ゲームの悪役令嬢でもあることから、王太子妃とは親友と呼べるほど仲良くなっている。あの頃、アレンシアが不穏な空気を纏っていたこともあり、王太子妃の味方になれるのは自分しかいないのだと、フェリシアンヌは気負っていた。
ところが意外なことに、乙女ゲームを知らない筈の王太子が、隣国の姫だった王太子妃に当初から好意を示しており、また王太子妃も優れた人物であることから、王太子妃の信仰者がドンドンと増えていった。今も王太子妃を悪く言う人間は、王太子に則妃を持たせたい貴族達ぐらいでは、なかろうか…。
ライトバル・カルテンは、カルテン国の第一王子で王太子でもあり、既に次期国王となることが決定している。カルテン国では立太子=次期国王ではなく、王太子としてどんなに有能であろうとも、国王となる資格要素が認められなければ、王太子の座を次の候補者に空け渡すことも、実際にあったりする。その為、王太子になっても数年間は次期国王には認められず、暫くは国王の補佐として見定められることとなる。
実際にはライトバルは、予定よりも早く認められることになる。その理由の1つには、次期王太子が誕生したことである。早くも後継候補の王子が生まれ、彼は王太子妃とも仲睦まじく、王妃以外の側妃は持たないと宣言した。何れ王妃となる現王太子妃を唯1人愛すると、既に口外していたのだ。
現国王陛下である彼の父親は、王妃のみを傍に置いていたのだが、中々跡継ぎの出来ない国王を心配した家臣達が、無理矢理に側妃を嫁がせる形で納得させていた。王妃を立てる為にと、側妃には権力に欲のない女性が選ばれている。無事に王妃に第一王子が誕生した後は、側妃にも第二王子や王女が誕生しても、側妃とその子供達は常に王妃と王太子を立てており、彼らは無欲であった。
それでも彼らに顕示欲がなくとも、周囲の貴族達が放って置いてはくれなくて、自分達が出世する為に側妃側の派閥を作り、支持者として崇めている。それをよく思わない王太子は、そういう貴族を排除する為にも、今の王太子妃以外を妻に迎えることはない…と、発言したのであった。
それまでは高位貴族達が躍起になり、自らの娘を彼に近づけさせたり、また令嬢自身も大いなる野望を持ったりして、側妃の座を狙っていた。王太子は自らが国王になった際には、正式に側妃の制度を廃止し、国中の者が一夫一妻とする法律を定めようと、密かに目論んでいた。
王太子はカイルバルトの従兄に当たり、彼とは兄弟のように仲が良く、また親戚関係にあるフェリシアンヌを、実妹のように可愛がっている人物だ。当然ながらアレンシアのことは、妹のような存在と愛する妻を嵌めようとしたとして、嫌っているようだ。その愛する妻ユーリエルン王太子妃が、レイティス第一王子を今年に入ってから出産したこともあり、彼は更に妻と第一王子を溺愛していた。今では既に、側妃の座を狙っていた令嬢やその一族である貴族達も、半ば諦めている。
「いらっしゃい、アンヌ。お久しぶりね。」
「お久しぶりです、王太子妃様。この度は、王太子妃様主催のお茶会にお呼びしていただきまして、誠にありがとうございます。」
「わたくし達の仲じゃない。堅苦しい挨拶は、そのぐらいにしましょうか。」
「はい、ユーリ様。」
王太子妃であるユーリエルンは、お茶会と称してフェリシアンヌを呼んでいたが、呼ばれたのは彼女唯1人しかいない。2人は常時、前世の事情を含めた会話をする為だ。現在前世の記憶があるとハッキリ判明したのは、この2人とフェリシアンヌの婚約者カイルベルト、乙女ゲームを再現しようとしたアレンシアだけ。後者2人のうちアレンシアに関しては、確かめずとも言動でバレバレだったが、ユーリエルンはまだカイルベルトが転生者だとは知らなかった。今まで話す機会もなくて、知らせないままとなっていたのだ。
暫くの間、雑談をしながらお茶を飲んでいた2人は、話しの合間が出来たのを切っ掛けとして、ユーリエルンが改まったような様子となれば、フェリシアンヌもまた居住まいを正す。
「実は今日、貴方とお茶をご一緒したかったのもあるけれども、わたくしも重要なことを思い出しましたので、貴方をお呼びしましたのよ。」
「わたくしも、今日は…ユーリ様には折り入って、大事なお話がございます。」
ユーリエルンの思い出したという言葉に、ピンと来たフェリシアンヌも話したいことがあると告げれば、ユーリエルンも何かを感じ取ったという表情となり、2人は視線を交わして相手の意図を察した様子である。改めてユーリエルンは言葉にすることで、フェリシアンヌに問い掛ける。
「もしかして、それは…乙女ゲームに関するお話かしら?」
「……はい。あの…ユーリ様も……。」
「ええ、貴方の仰る通りよ。わたくしも最近になって、乙女ゲームについての大切な情報を思い出しましたの。わたくしから先にお話しても、宜しいかしら?」
続編の乙女ゲームの設定についての話し合いが終了し、アレンシアも帰って行きました。カイルベルトによって、新ヒロインの素性が判明するのか?
前作で悪役令嬢だった王太子妃ユーリエルンが、後半から登場しました。今作でも乙女ゲーに、登場するのかな?




