92,〈おもてなし騎士団〉が全人類に君臨してしまう。
──アーダの視点──
アーダは地味に困っていた。
乃愛の竜巻で市街地が吹っ飛んでしまったが、これは自分の監督不行き届きになるのだろうかと。
それと人類側の代表である長官ボースが、今にも死にそうな顔色。さっき気絶していたし。
(この男がショック死した場合も、私の責任になるのか?)
「とにかく、我々の主張は述べたぞ」
それについては、アーダは自信があった。
『〈おもてなし騎士団〉は人類の敵ではない』と、ちゃんと伝えたので。
すると顔面蒼白だったボースが、いきなり激昂してきた。
「しゅ、主張とは──全人類を〈おもてなし騎士団〉の傘下に治めるということか!」
「おい、どんな解釈だ。いいか、師匠は何も貴様らを支配しようなどとは──」
「乃愛たちの傘下に入るのならば、【超人類】から守ってやるのですよ!!」
アーダの声をかき消すようにして、乃愛が元気溌剌にそう言う。
(この小娘が師匠の娘でなければ、いまごろ舌を引っこ抜いているところだ)
できるかどうかは措いておいて、そう思うアーダだった。
ボースは「ひぃぃぃ」と叫ぶ。
「やはり全人類を支配するつもりかぁぁぁぁぁぁあ」
からの土下座。
「分かりました。全人類を代表して降伏いたしますので、人類皆殺しコースはお許しください」
(聞き分けが良すぎだろ、全人類の代表!)
アーダは呆れつつも、乃愛に言う。
「【超人類】は、師匠が撃破しただろ」
「甘いのですね、アーダお姉ちゃんは。パパが撃破した【超人類】たちは、地球征服を命じられていた先発隊に過ぎないのです。
彼らがぶっ殺されたことで、【超人類】の本隊がやってくるのですよ。最終決戦型超弩級母艦〈デウスマキナ〉とともに! こんどは奴らもガチのガチです」
「名称、長いな」
「未来のパパは、デス・ス〇ーっぽいと言っていたのです」
「デス・ス〇ー? 知らんな」
ふとアーダは考える。
未来でも〈デウスマキナ〉という母艦が地球に来たのならば──世界線というものはまだ変わっていないのでは?
「それで乃愛、〈デウスマキナ〉というのは、いつ来るんだ?」
「いま、来たのです」
乃愛が昼間の月を指さす。アーダが眺めていると、月が消え──別の月サイズの球体に取って変わった。
「何が起きた?」
「空間転移スキルの一種なのですね。《物体交換》。母艦〈デウスマキナ〉は、月と交換することで、この次元にやって来たのです!」
「つまり、月とほぼ同じサイズということか」
それは確かにデカい。
見ると、ボースが頭を抱えて転げ回っていた。
「もうやだぁぁぁ! 長官職なんかやめてやるぅぅぅぅぅぅ!!」
乃愛の登場からの、ガチで攻め込んできた【超人類】──という流れで、心労の限界に達したらしい。
アーダはうなずいた。
「確かに、お前には向いてないな。我々〈おもてなし騎士団〉は、新長官を要求する。誰を任命するかも我々が決めさせてもらおう。なぜなら」
乃愛が後を引き継いだ。
「全人類が、〈おもてなし騎士団〉の支配下に入ったからなのです!」
「いや、そこまでは言ってないが」
乃愛が両手の拳を突き上げて、子供らしいテンションで宣言。
「〈おもてなし騎士団〉のもとに、全人類は一致団結するのです!!」
あとで師匠に怒られそうだ、とアーダは思った。
だが、この女児の止め方が分からない。
気を取り直したアーダは、新長官を呼んでもらった。
──10分後。
唖然としたソフィアが、自分を指さす。
「え? あたし? あたしに新長官をやれというの? ダンジョン調査機関の?」
「うむ。こうなってしまっては、北条四天王の一人に任せるしかないだろ」
「だってダンジョン調査機関って、いまや国連のトップなのよ。そこの新長官なんて、ほとんど全人類の代表なんだけど。地球大統領なんだけど」
「さらに言えば、我々〈おもてなし騎士団〉との連絡役でもある。名誉ある役割だぞ。頑張れ」
「うん頑張る──って、言うわけないでしょ! 辞退するわよ!」
「いいかソフィア。今や地球は、存亡の危機に立たされている」
「最近、存亡の危機でない時があったかしら?」
「月サイズの敵母艦が来たことはなかっただろ」
「そ、そうね」
「だから我々が信頼できる相手に、新長官になってもらいたいのだ」
「まぁ、そうなのかしら」
アーダは、ぽんとソフィアの肩を叩いた。
「では、そういうことで」
ソフィアが挙手して、
「あの、月サイズの母艦だけど、どう対処するの?」
「それは──どうするのだ、乃愛?」
乃愛はシャドウ・ボクシングしだした。
「もちろん、こっちから攻め込むのです!!! 人類最強パーティを組んで行くのですよ!!!」
「だそうだ」
ソフィアは、ふしぎそうな顔で乃愛を見つめている。
「…………………この女の子、誰?」
アーダは思った。
(そこからか!)
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