91,ヤバいのが来た(乃愛に対する人類の感想)。
──アーダの視点──
師匠が【超人類】の母艦を跡形もなく吹き飛ばした、その翌日。
〈おもてなし騎士団〉本部に、メキシコ大統領がやって来た。
大統領は師匠の前で跪き、「メキシコをどうかよろしくお願いしますぅぅぅ!!」と頼んできた。
心の優しい師匠は、
「全軍でおれのダイヤを探してくれるなら、いいよ」
と快諾。
改めて師匠の偉大さを感じるアーダだった。
ということで、メキシコが〈おもてなし騎士団〉の統治下に入った。
そのころ国連の組織図も【変転】後にあわせて変わり、ダンジョン調査機関がトップとなった。
つまり人類の舵取りは、冒険者たちが行うことになったわけだ。
さらに数日後。
師匠が朝食を食べていたところ、「しまった! 乃愛が産まれるころだ!」と叫び、瞬間移動で行ってしまった。
≪万里の長城ダンジョン≫で出産準備中のドロシーを思い出したらしい。
こうして〈おもてなし騎士団〉の長がいなくなった時に、ダンジョン調査機関からの招待を受けた。昔ながらの手紙で。
「我々に何の用だ?」
アーダがそう疑問を呟くと、未来イチゴが答えてくる。
「〈おもてなし騎士団〉が、地球をどうするか聞きたいんじゃないですかね。冒険者たちが歯の立たなかった【超人類】を、タケト様は楽勝でボコっちゃいましたし。その事実は、すでに各国に知れ渡っていることでしょう」
この未来イチゴは、乃愛の脳内にもいないで歩き回っている。現在イチゴのほうがまだ可愛げがあるな、というのがアーダの感想。
ちなみに現在イチゴは、師匠の脳内にいて今は≪万里の長城ダンジョン≫。
「師匠は宣言したではないか。〈おもてなし騎士団〉は、良き人類の味方だと」
「でしたらダンジョン調査機関の人たちに、ちゃんと説明してきたらどうですか?」
「なぜ私が?」
「アーダさんは、タケト様の愛弟子ですし。タケト様不在のいま、〈おもてなし騎士団〉の長はアーダさんでは?」
そう言われると、そんな気がしてくるアーダだった。
「うむ。たしかに師匠の言葉を伝えるのが、弟子の私の役目だな。では行ってくる」
運が悪いことに、乃愛が通りかかる。
「あ、乃愛も行くのです! アーダお姉さん、連れて行って欲しいのです!」
師匠の教育もあって、乃愛はアーダを『お姉さん』と呼ぶようになっていた。
「……私の邪魔はするなよ」
「了解なのです!」
このとき乃愛は、棒付きキャンディを舐めていた。野球ボールのようなキャンディで、青色だ。
「乃愛、その青いキャンディは何味だ?」
「ブルーハワイ味なのですよ?」
「ブルーハワイ味とは、何味だ?」
「そんな哲学的な疑問には答えられないのです」
乃愛の瞬間移動で、ダンジョン調査機関本部へ向かう。
★★★
──ダンジョン調査機関の新長官ボース、の視点──
いまやダンジョン調査機関の長は、実質的には地球大統領と言って良かった。
【変転】によるモンスター襲来、さらに追い打ちをかけるが如くの【超人類】の侵略。
各国とも統治機能はほぼ停止。その中で人類の再起を図るには、地球全体のリーダーが必要なのだ。
ボースは今日も調査機関の本部で、拳を突き上げる
「よーし、やるぞぉぉぉ!!」
やる気に満ちていたボースの前に、いきなり美女と女児が現れる。瞬間移動してきたのだ。
Sランクのボースは、この美女がオーガであることを見抜く。ステータスが【五魔王族】クラスなことにも。
だが問題は、一緒にいる女児のほうだ。
ステータス∞。
(なんか、すげぇ化け物が来たんだけどぉぉぉ!!)
「あ、あのー?」
美女オーガが言う。
「私はアーダ。こっちの女児は、師匠──ではなく北条尊人の娘さんだ。名は乃愛。挨拶しろ、乃愛」
「どうもなのです!」
乃愛が元気よく挨拶したとたん、その発声で凄まじい竜巻が発生。
本部ビルを破壊し、何人かの冒険者をミンチにし、近くの市街を跡形もなく吹き飛ばし──朝露のように消えた。
何とか《魔法障壁》で耐え抜いたボースは、惨状を見て呆然とする。
「……な……なんてことを」
乃愛はぺこりと頭を下げる。
「ごめんなのです。元気よく挨拶すると《爆裂風神逆烈渦》を発動してしまう癖があるのです」
Sランクでも発動するまでに5分はかかり、さらにHPの半分を犠牲にしなければならない、あの《爆裂風神逆烈渦》である。
ボースはガタガタ震えながら、乃愛という女児を見る。
(いま私は理解したぞぉぉ。【五魔王族】も【超人類】も、この女児に比べたら可愛いものだったということをなぁぁぁあ)
アーダという美女オーガが、頭をかいた。
「あー、これはすまなかった。乃愛にはよく言い聞かせておくから、許してほしい。とにかく私が伝えたかったのは、ただ一点。〈おもてなし騎士団〉は人類の敵ではない、ということで──うん? 貴様、聞いているのか?」
ボースは聞いていなかった。
乃愛が右手に持っている棒つきキャンディ──青い球体のキャンディ。それから目が離せなかったのだ。
まるで、まるでこの青い球体キャンディは、地球を暗に示しているようではないか?
「あの、お嬢さん。そのキャンディに、何か、意味はあるのかな?」
「このキャンディなのですか? とくに意味はないのですよ?」
ボースはホッとした。考えすぎだったか──
次の瞬間、乃愛が青いキャンディを──すなわち『地球』をばりばりと噛んで食べ始める。あっという間になくなった。
「んー、美味しかったのですね」
(そんなぁぁぁ! 今のは、地球は征服してから美味しくいただく、という意味だぁぁぁぁ!!
地球がぁぁぁぁぁ、〈おもてなし騎士団〉にぃぃぃぃぃ、この女児に乗っ取られてしまうぅぅぅぅぅぅぅ!!!)
ボースはショックのあまり気絶した。
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