90,第三宇宙速度で。
母艦〈アギト〉の中枢部まで降りてみると、一軒家サイズの黒い球体があった。エネルギー管で艦内と繋がっている。
てっきり動力源かと思ったが、違った。
「憎き人間め! よくも余の配下たちを皆殺しにしたな! この侵略者どもが!」
黒い球体が、やたらと甲高い声で文句を言ってきたので。
「いや侵略して来たのは、そっちなんだが」
〔タケト様、タケト様。この球体こそが、【超人類】を管理する超高性能AIの一つですよ。ようは〈アギト〉です〕
つまり母艦〈アギト〉の本体が、あの黒い球体か。人間でいうところの脳味噌だな。
どうでもいいが、未来イチゴが何でも知っているので、可愛げがない。
うちのイチゴは、もっとダメな子だったのに。
乃愛がぐるぐると腕を回しながら、〈アギト〉に歩み寄っていく。
破壊する気満々らしい。別に止める必要もないか。
〔ちなみに〈アギト〉を潰すと、動力源も暴走を起こして太陽系が吹っ飛びます〕
「おーい、乃愛。娘よ。早まるな。お前のママから授かった破壊の本能を抑えなさい」
乃愛は納得のいかない顔で戻ってきた。
「ママは、なんでも破壊したがるのはパパの遺伝だと言っていたのですよ。かつて地球内にあった全ダンジョンを、ノリと勢いで破壊し尽くしたのはパパなのです?」
「あれには深い理由があったのだ」
〈アギト〉が喚いてきた。
「余を無視するな! この侵略者どもが! 食らうがいい、《神の鞭》!」
〈アギト〉本体から黄金の鞭が飛んできて、乃愛の顔に直撃。
乃愛の防御力を無効化した一撃であり、推定ダメージは999999だろう。
乃愛のHPが∞なので問題ないが、地味に鼻血が出た。
乃愛も地味にショックを受けた様子。
「パパ、血! 血が出たのです!」
「まてまて。いまティッシュをやるから、顔は下に向けておけ。そのうち治まる」
〔にしてもイチゴ、《神の盾》だとか《神の鞭》だとか、やたらとスキル名に『神』と入れたがるが。あれは、ただのAIなんだよな?〕
〔はい。性能は桁外れですけどね、自我もありますし。スキル名に『神』を入れたがるのは、コンプレックスのせいでしょ〕
黄金の鞭が襲いかかってくる。防御力を無効化してからの、超ダメージを与える一撃。よくよく考えると、チートクラスの鞭攻撃だ。
おれは鞭をつかんで、引っ張った。鞭に繋がっている〈アギト〉の球体が、周囲の接続から外れる。
「こ、こら! やめろ! 引っ張るなぁぁ!」
鞭ごと〈アギト〉球体を振り回し、勢いをつけてから手を離した。
〈アギト〉球体は母艦の壁を突き抜けて、青空へと飛んで消えていく。
第三宇宙速度に達したので、太陽系の外まで飛んで行くことでしょう。
脳味噌であった〈アギト〉球体が無くなったためか、母艦そのものも力を失ったようだ。
まだ鼻血が止まらない乃愛を抱えて、母艦の外に瞬間移動。
母艦の外側──メキシコシティの建物の上では、アーダと死滅卿が待機していた。
アーダは乃愛を見て、心痛めたような顔をする。
「師匠、娘さんは残念だった。まさか殺されるとは」
「いや殺されてないから、ただの鼻血だから。願望が現実認識を歪ませてるぞ?」
ふと見ると、母艦〈アギト〉の外壁に鳥が止まっている。
「鳥……あ、そうか。《神の盾》が発動してないのか」
《巨剣躾》で天空から巨大な剣を落とし、〈アギト〉母艦を貫く。
〈アギト〉母艦は砕け、家屋並みの破片をまき散らしながら落下していく。
まてよ。墜落の衝撃でメキシコシティが吹っ飛んだら、訴訟問題に発展しそうだな。
そこで〈アギト〉母艦の落下先に瞬間移動。
《壊滅獄炎》の炎で、一瞬で母艦すべてを溶かした。
いい仕事をしたなぁ、と満足していると聞こえてくるのは民衆の声。
みな、おれ達が母艦を破壊したことを称えて、「おもてなーし!」「おもてなーし!」と連呼しているのだった。
〔かくして〈おもてなし騎士団〉のおもてなし道は、世界へと知れ渡った。あと未来イチゴ。お前、チェンジな〕
〔えー、ひどいです〕
〔これも、おもてなしだ〕
とりあえず『おもてなし』と言っておけば許される、それがニッポンの心。
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