89,100億回のタコ殴り。
乃愛はちらっと、ルルルルを見る。
ルルルルの全身にある眼球が、すべて乃愛へと向けられていたので。
「お姉さん、乃愛を見ているのです?」
ルルルルのそばにいたガギースが、勝ち誇る。
「女児、残念だったな。ルルルルの『眼球』に見られたことで、お前は強制的に消滅するのだ!」
ルルルルの無数眼球は、『視る』だけで消滅させることのできるスキルだからなぁ。
乃愛は愛らしく小首を傾げる。
「お姉さんの『眼球』に見られたことで? しかし、それは変なのです。なぜならお姉さんの『眼球』は、ぜんぶ──」
乃愛が右手を伸ばす。そこには何百もの視神経の束が握られていた。すべての視神経からは、やはり何百もの『眼球』がぶら下がっている。
「乃愛が抉り出してあるのですよ? 5秒前に」
「ぎゃぁぁぁああああああ!!!」
全身から血を噴き出すルルルル。それも当然、全身の眼球は乃愛に抉り出されたので、空っぽの眼窩から出血中。
ガギースが仰天する。
「な、なんだそりゃぁぁ!」
「《時を跳躍する眼球抉り出し》なのです。5秒前に戻って、眼球を抉りだすスキルなのですよ」
うーむ。おれの《時を跳躍する弾》の上位互換版みたいなスキルだな。
〔まさか乃愛の奴、おれとドロシーのスキルを受け継いだだけじゃなく、改造しているんじゃ〕
〔そうですよ。うちの乃愛さまは、できるお嬢さまなのです〕
そういや、脳内にいるのは未来イチゴだったか。なんか可愛げがないな、このイチゴは。
このとき、すでにガギースは《神の輪》を大量に作り出していた。その数、20。
「ルルルルを殺ったくらいで、勝った気になるなよ! オレ様の《神の輪》地獄投げを食らいやがれ!」
そして20個の《神の輪》を一斉に投じる。
《神の輪》は、『ステータス数値とは無関係に、生命体を切り裂く』スキルだ。
対する乃愛は、数多の《神の輪》を指さし、
「あっ! ドーナツなのです!」
とたん、すべての《神の輪》がドーナツになって落ちた。拾って食べる娘を、おれは叱るべきだろうか。『拾い食いはいけません』と。
驚愕が止まらないガギース。
「な、なぜだぁぁぁぁぁ! なぜオレ様の《神の輪》がぁぁぁあ!」
「乃愛の周囲では、ドーナツ的な形状のものは全てドーナツになるのです。なぜならば、乃愛はドーナツが大好きだからなのです。
これぞ、《乃愛ゾーン》なのです」
愛娘の戦いぶりを眺めていたら、ルナーサから攻撃を受けた。
「おっと」
「北条さん。よそ見している余裕はないわよぉぉぉぉ」
ルナーサの形態が変化していく。人間の形は崩れ去り、複数の物体の集合体のようなものになった。
端的にいうと、<遊星からの物体x>みたいになった。
「なんだ、それは」
ルナーサの頭部は消えたが、発声はできるらしい。
「《無形態》というスキルよ。敵との戦いの中で、最適な形態へとどんどん進化していくわけ」
「そんなに元の体がグチャグチャになって、痛くないのか?」
「痛覚はないのよぉ」
「それはいかんな。痛みは大事だぞ。よし、与えてやろう」
「え?」
「《痛覚挿入》を発動。ついでに痛みを増やすため、《痛覚倍増》もかけておいてやろう。しかも1000倍増モードで。サービスだ」
とたんルナーサは大絶叫して、壮絶な痛みのあまり転げまわってから、ショック死した。
ところで、オギルニアスは悠然として構えている。腕組みなんぞして。
「なるほど。卑劣なスキルを使うではないか、北条尊人。だがルナーサの敗北は、奴の自業自得だな。ルルルルやガギースもそうだが、どいつもこいつもスキルに頼り過ぎだ。
最上まで高めた身体能力。攻撃力、防御力、俊敏性。そこにこそ、真の強さは宿るのだからな!」
ギリシャ神話にでも出て来そうな、筋肉隆々のオギルニアス。
ファイティングポーズを取り、拳をおれに向けてくる。
「さぁ、行くぞ! ここからは己の肉体のみがモノをいう戦いだぁぁ!」
オギルニアスが鋭いパンチを放ってくる。
攻撃力125445のパンチが──
おれはさらりと躱してから、100億回ほどオギルニアスを殴った。
この100億回のタコ殴り、ドロシーも倒したので、たぶん手持ちの技では最強。あとスキルではない。ただ神速で殴りまくるだけだから。
オギルニアスはパンチしきった体勢で固まった。
「我の一発目をよくぞ避けたな。だが真の戦いはこれからだぁぁぁぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
100億回分のパンチのダメージって、数秒遅れるんだよね。
オギルニアス自慢の肉体が、ただのミンチに変わっていく。
それを眺めていると、ガギースの高笑いが聞こえてきた。
「オレ様たちがいくら死のうと、新たな死体から復活するんだぜぇぇぇ!」
乃愛が挙手して、
「あ、それは無理なのです。この母艦内にある死体は、ぜんぶ乃愛の《死者蘇生》でゾンビ化しちゃったので」
内壁から、数えきれないゾンビが出てきた。ゾンビらしい虚ろな顔で、ウロチョロしだす。
大仰天するガギース。
「な、なななな、なんだとぉぉぉぉぉ! ゾンビでは復活できないではないかぁぁぁ!」
おれはガギースに歩み寄り、その肩をポンと叩いた。笑いかける。
「また、愛と平和の《内臓破裂まで抱きしめ》だな」
「いやだぁぁぁぁぁぁぎゃぁぁぁぁあ…………」
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