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86,うちの娘が止まらないPART2。

 


 娘が家出してきた。


 そんなとき、父親のおれはどうすればいいんだ。叱るのか? ここは親として叱るべきか?

 よーし叱るぞ。


「いいか娘よ。未来に帰るんだ。まさしくバック・トゥ・ザ・フューチャー」


 乃愛は指先をくるくる回して、


「うーん、帰ってもいいのですがパパ。実は、未来ではちょっとした事件も起きているのですよ」


「家出よりも優先順位が低いんだから、相当しょーもない事件なんだろうなぁ」


「そうなのです。地球が真っ二つに割れて、人類が全滅しただけなのですよ!」


 元気いっぱい、笑顔でとんでもないことを伝えてきたな。


「まてまて。理解に苦しむ。お前の空想の地球が真っ二つになったとか、そういう話か?」


「違うのです。〈無神ジエンド〉とかいう人が現れて、〈滅びのダイヤ(ペリッシュ・アウト)〉というのを使ったら──

 パーン! 本当に地球が真っ二つになって、乃愛たちはパパの異世界転移スキルで逃げることになったのですよ。乃愛が8歳のときのことなのです」


 異世界転移スキルなんか持っていたかな。これから会得するのか? いやそれよりも。


「おれのダイヤを使って──だと?」


 ここで、完全に『空気』と化していたルナーサが口を挟んできた。


「〈無神ジエンド〉というのは、ウチらが敵対している神のことなんだけど。ねぇ、ウチらとあんたで同盟を結べるんじゃない? ちょっと考えてみてよ?」


「断る。〈無神ジエンド〉を潰すのに、おれを利用する気満々すぎるだろ。この交渉下手め」


 ルナーサは、マルギバナの死体を指さして、


「だけど北条さん。これの補償はしてくれるんでしょうね? こっちは戦意ゼロだったのに、ウチの相方、お宅の娘さんに殺されちゃったんだけど」


 そっちの相方は、戦意MAXだっただろ。とはいえ、乃愛が問答無用で殺したのも事実だしなぁ──。


「というか乃愛。何が嬉しくて、マルギバナの体内から出てきたんだ?」


「サプライズ演出なのです」


 この娘、またいらんことを。


「で、ルナーサ。補償というが、何が望みだ? ダイヤはやらんし、【超人類】と結託する気もないぞ」


「ちょっとまってね」


 ルナーサは、ガラケーに似た通信機器を取り出した。たぶん超高性能なんだろうが、見た目はどこまでもガラケー。


 おそらく上層部と電話相談したルナーサは、言った。


「ウチらは地球に住まう人類を奴隷にするけど、それの邪魔をしないで欲しいのよ。そして約束してくれるなら、ここで誓約書にサインして欲しいわけ」


 地球人が奴隷化されるのを、指をくわえて見ていろというのか!

 ……別にいいかなぁ。とくに地球人に義理とかないし。


 おれは了承しようとしたが、その前にイチゴが現れた。

 おれの脳内にいるイチゴではなく、乃愛の脳内にいたイチゴが。


 すらりとした肢体、豊かな胸、雪のように白い肌。そして虹色の髪。年を取らないというのは本当らしく、12年後も今と同じ姿。


 未来イチゴが両手を広げた。


「懐かしい12年前のタケト様! ハグしてください!」


 蹴っ飛ばしたら、30メートルほど吹っ飛んでいった。


「娘に寄生した罰だ」


 すると、脳内の現在イチゴが大笑いしだす。


〔タケト様に蹴っ飛ばされちゃって、ざまーみろですねー!〕


〔……笑ってるが、12年後のお前だぞ、イチゴ〕


〔12年後のわたしなど、現在のわたしとは関係がありませんよ。

 考えてみてください。現在のわたしに、さらに12年分の経験と知識が上積みされているのですよ。それはもう別個体。わたしのそっくりさんみたいなものです。ですので、大笑いします〕


 未来イチゴが這って戻ってきた。


「さ、さすがですね、タケト様。容赦ないところは、今も昔も変わらずです。それと12年前のわたし、タケト様の脳内で大笑いしているのは分かっていますよ! けしからんです!」


〔12年後のわたしは、浅はかですね~〕


「おいダブルイチゴ。こんなところで喧嘩するな。未来イチゴは、乃愛の脳内に戻ってろ。寄生するのを許してやるから」


「待ってください。蹴られるのを覚悟でノア様の外に出てきたのには、理由があるのですよ。いいですか。いまこそが新たな世界線──すなわち〈無神ジエンド〉が地球を真っ二つに()()()世界線を作るチャンスなのです!」


「どうやって?」


「タケト様が地球人を守ることで、です」


「えー、メンド臭い」


「メンドが臭いって、このタケット! タケト様も地球人だったでしょ! 今は魔神だとしても! それにいいんですか、地球が真っ二つになって何が起きたのか──ドロシー様が不機嫌の極みになり、半年ほど夫婦仲は冷え込みましたよ!」


「ドロシーめ。地球が真っ二つになったのは、おれのせいじゃないだろ」


「それに汐里さんも死にますし」


「……汐里が死ぬのか?」


「地球が真っ二つになって、人類は全滅しましたからね」


「まぁ、汐里が死んでしまうのなら──そんな世界線は変えるしかないよなぁ……──というわけで、ルナーサ。地球人には手出しさせんぞー」


「タケト様、もう少しやる気だして」


〔未来イチゴは、わたしのタケト様に命令しすぎですね。ムカつきます〕


〔いや、お前のタケトでもないから〕


 ルナーサが妖艶にほほ笑んでから、うなずく。


「わかったわぁ、北条さん。これでウチらと君たちは、完全に敵対することになったわけね。これから始まるのは、(せん)そ──ぶぎゃ」


 ルナーサが『戦争』と言い切ることはなかった。

 跳んだ乃愛の踵落としスキル《土星割り(ディバイド)》が、ルナーサの頭部を粉砕したので。


 両拳を突き上げ、勝利のポーズを取る我が娘。


「やったのです! 【超人類】2体目、撃破なのです!!」


「……せめて『戦争』と言い切るところまで待ってあげろよ」


 マルギバナの死体が動いたかと思うと、肉塊が分裂し始める。そして再統合したときには、五体満足のルナーサと化していた。


「《予備蟲(スペア)》をマルギバナに仕込んでおいて良かったわぁ。というか、せめて『戦争』と言い切るまで待つべきじゃない?」


 さすが【超人類】、一筋縄ではいかない。


「まったくだ。乃愛、謝りなさい」


「えっ! 乃愛が謝るのですか!? ……ごめんなさいなのです」



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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、【超人類】と〈無神〉との本格的な戦いのきっかけに“破滅の未来”を持ってくるとは考えたものだ。人造人間編みたいな感じだ。 しかし、逆に言うと今から12年後までは人類は全滅していなか…
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