85,うちの娘が止まらないPART1。
「あ、パパ! 乃愛は、こんなに大きくなったのですよ!」
などと、血まみれ女児に言われる日が来ようとは。
おれが返答に窮していると、アーダが怒りの声を上げた。
「貴様! さては『ムスメ・ムスメ詐欺』だな! 師匠の娘に成りすまそうとは、とんでもない性悪ガキだ!」
オレオレ詐欺の親戚みたいなのが来たな。
決めつけたアーダは跳躍、北条乃愛めがけて《破転》を発動。
しかし乃愛は、《破転》モードのチェーンソーを指先だけで止めてしまう。
それから満面の笑みで、とんでもないことを口にした。
「あ、アーダおばちゃん!」
アーダはまだ25歳なのに、『おばちゃん』はないだろ。そりゃあ女児からしたら、たとえ相手がJKでも『おばちゃん』かもしれんが。
アーダはしばし、口をぱくぱくさせていた。あまりの激しい怒りによって、言葉を失っているらしい。
しかし激憤は行動に現れる。
アーダが《殺戮演舞》を発動。
乃愛は空中で軽やかにステップを踏んで、《殺戮演舞》と踊った。一撃必殺の斬撃を、まるでダンスのパートナーのようにしてしまう。
信じられん、あのアーダが遊ばれているとは。
〔タケト様。北条乃愛のステータス、見てますか?〕
〔ああ、いま見た──すべてのステータスが∞だ。もしや、最後の【神に愛された案内係】であるキウイの仕業か? キウイが∞化に選んだのが、あの女児なのか?〕
〔そうは思いませんね。わたしが思うに──北条乃愛のステータス∞は『天然もの』ですよ。ええ、間違いなしです〕
〔『天然もの』? 生まれながらのステータス∞か? そんなガキが、どこから産まれるんだ?〕
〔ステータス∞の夫婦から〕
〔……なるほど〕
乃愛が楽しそうに言う。
「アーダおばちゃんに稽古をつけてもらうのは、久しぶりなのですね! だけどもう乃愛のほうが、強いのですよ!」
「貴様、まだ言うか! 私はまだ──若い!」
乃愛が右腕をグルグル回し出す。とたん周囲の空間が歪みだした。乃愛の右腕に空間が引っ張られていくのだ。
〔乃愛め、腕を振り回しただけで『空間』に干渉しだしたぞ〕
〔さすが、タケト様とドロシーさんの娘さんだけありますねぇ〕
あー、やっぱりそうなるよな。それ以外、考えられんよな。
「叩き斬る!」
アーダが天井を蹴って、乃愛へ突撃。
対する乃愛は朗らかに、スキルを発動。おそらく乃愛のオリジナル・スキルを。
「行くですよ、《虚無虚無パンチ》なのです!!」
やばい、アーダが死ぬ。
おれは瞬間移動して、アーダと乃愛の間に割って入った。
アーダのかわりに《虚無虚無パンチ》とやらを食らう。
このパンチは虚無を纏っていた。よってパンチを受けることで、すべてを消滅させる虚無が拡散する。
こんなものが拡散していったら、ここら一帯が消えてなくなるぞ。
虚無は消せないので、おれは次元に裂け目を作った。
そして拡散しようとする虚無を全て、裂け目の向こうへ放り込む。そして裂け目を閉じた。
「さすがパパなのです! 乃愛の必殺パンチその25を打ち破るなんて!」
乃愛が飛びついてきた。ステータス∞の防御力じゃなかったら、バラバラになる衝撃で。しかし攻撃ではなく、ハグのつもりらしい。当人にとっては。
「おれの──娘なのか?」
「もちろんなのです!」
「しかし──まだドロシーの子宮の中だろ」
「乃愛は、12年後の未来から来たのですよ!!」
なんだ、そのターミネーター展開は。
もしくはセワシくん展開でもいいが。
アーダが唖然とした様子で言う。
「師匠。本当にそのクソガキ──ではなくお嬢さんは、師匠の娘さんなのか?」
「そのようだ」
タイムトラベルして来たとは、さすがにまだ信じられない。
とはいえステータス∞の女児が、よその娘とは思えないし。それに──
「よく見ると、目元なんかおれにそっくりだ。乃愛、よく来たなぁ。12年後も、おれとドロシーは殺し合わないで仲良くやっているのか?」
ここでイチゴがうるさい。
〔そんなことより、わたしはまだタケト様の脳内にちゃんと寄生していますか! 聞いてください、タケト様!〕
〔お前、寄生している自覚はあったのか〕
「乃愛。12年後、イチゴはどうしてる?」
すると乃愛は、とんでもないことを言い出した。
自分の額を指先で突いて、
「イチゴお姉ちゃんは、ここにいるのですよ」
「なに? 12年後のイチゴがそこに。おいイチゴぉぉ! こんどはおれの娘に寄生していやがったのかぁぁ!」
〔未来のわたしの行為に、いちいち怒らないでくださいよー〕
ここでアーダが物申す。
「おかしいではないか! なぜわたしのことは『おばちゃん』呼びで、案内係のことは『お姉ちゃん』呼びなのだ!」
……アーダ、まだ気にしていたのか。
〔まぁ、わたしたち案内係は年を取らないですからねぇ〕
「12年後はともかく、いまの私はまだ若い!」
「うーん。確かにアーダおばちゃんが若いのです。けど乃愛はやっぱり、おばちゃん呼びが落ち着くのです」
「く……。師匠の娘さんでなかったら、首をへし折っているところだ」
おれは両手を挙げて、みなを制した。
「まてまて。いったん落ち着こう。
とにかく未来の娘よ。何しにきた? まさか観光目的で、わざわざタイムトラベルしてきたわけじゃないだろ。何か深い理由があるはずだ」
乃愛は重々しくうなずく。
「はいなのです」
やはり未来で何か重大なことが、取り返しのつかないことが起きたのだろう。
乃愛は、そんな悲劇的な未来を変えるため、過去に送られてきたのだ。新たな世界線を作るために。
そして我が娘は言った。
「乃愛はママに叱られたので、家出してきたのです!!」
しょーもない理由でタイムトラベルして来たぞ、うちの娘。
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