84,おもてなし魂で行くぜ!
ミゲランヘルは切腹を知らないようだ。
「仕方ない。アーダ、手取り足取り教えてやれ」
「了解した師匠。ではミゲランヘル殿、失礼する」
アーダがミゲランヘルの後ろにまわり、密着。アーダの巨乳が背中に押し付けられて、ミゲランヘルは下卑た顔をした。
だが、それもアーダが短刀を取り出すまでの間だった。
「な、なんだそれは──」
「この短刀を貴様が握り、そうして腹を掻っ捌くのだ」
無理やりミゲランヘルに短刀を握らせる。そしてミゲランヘルのぶよぶよした腹へと、切っ先をめり込ませる。
「や、やめろぉぉぉぉぉぉ! 誰か、誰か私を助けろぉぉぉぉぉ!」
慌てた様子の護衛たちが、アサルトライフルを向けてきた。
おれは片手を挙げて制する。
「よく考えろよ。お前たちの選択肢は2つのうち1つだ。この役立たずの首領ミゲランヘルのため命を張るか。または、新たな〈聖ダークサイドムーン騎士団〉首領となったこのおれに従うか」
もちろん、〈聖ダークサイドムーン騎士団〉なんぞのボスにはなりたくない。
しかしミゲランヘルの先ほどの提案にも、惹かれる点はあったのだ。つまり〈聖ダークサイドムーン騎士団〉の全構成員を使って、おれのダイヤを探させる。探索は捗ることだろう。
護衛たちは顔を見合わせてから、ライフルを下した。
ミゲランヘルが叫ぶ。
「この裏切り者どもがぁぁぁあ、うぎゃぁぁぁああああああああああああああああああ!!!」
アーダはじっくりと、ミゲランヘルの腹を切り裂いていった。やがて湯気を立てながら臓物が飛び出る。
「ああああああああぁぁぁぁぁああああああああ…………!!!」
うーむ。事切れるまでに時間がかかるなぁ。
そういえば、介錯人とかいうのが首を切り落としてやるんだっけ。
まぁ、いいや。
「見事な切腹だったぞ、ミゲランヘル。日本の魂は、ここにもあった!」
★★★
まず【超人類】の2体がやってきた。
マルギバナとルナーサ。
話し合いの展開によっては、またもおれの友愛のハグが炸裂することになるのだろうか。
しかしなぁ。ルナーサとかいう女は、ムダに妖艶度が高い。マルギバナは巨漢で、汗っかきそう。双方とも異なる理由から、ハグはご遠慮したい。
友愛の膝蹴りとか有りか?
「ようこそ、【超人類】のお二人さん。おれは北条尊人。〈聖ダークサイドムーン騎士団〉の新たな首領となった。
また、これをキッカケとして〈聖ダークサイドムーン騎士団〉は、〈おもてなし騎士団〉と改名した。これからはどんな相手も受け入れて、心から『おもてなし』をしたいと思う」
隣の部屋から、ミゲランヘルが這ってきた。
まだ生きていたのか。切腹って、なかなか死ねないのだな。もしかするとミゲランヘルは生かしてやってもいいのかも。
「アーダ。さっそくだが、おもてなし精神を見せてあげなさい」
「了解した師匠」
アーダがミゲランヘルの頭部を踏みつけると、脳漿と頭蓋骨が飛び散った。
あれ。おもてなしって、こういう感じだったっけ。
おれは気を取り直して、ルナーサとマルギバナに言った。
「さっそく結論を述べよう。我が〈おもてなし騎士団〉にダイヤはない。さらに言えば、たとえダイヤがあったとしても、それはおれのものだ。
そこが分かってくれたなら、おれが寿司を握ってやる。そうとも、おもてなしだ」
マルギバナが怒りだしそうなところを、ルナーサが手を挙げて制した。
「なるほどねぇ、北条さん。そっちの言い分は分かったけど、もともと〈滅びのダイヤ〉はウチらのものだとしたら? そっちこそが、強奪者なのかもよ?」
ほう。これは新しい考え方だ。
たしかにダイヤの出自については、考えたことがなかった。
ドルゾンが【超人類】から盗み、≪樹海ダンジョン≫に保管していた。そこをイチゴが勝手に持ち出して、おれに寄越した──という流れも有りえなくはない。
「じゃ、【超人類】のものだったという証拠を持ってきな。そしたら、少しは考慮してやる」
考慮するだけで、返却する気はないがな。
それも証拠を出されたらの話だ。
マルギバナが苛立たしそうに言う。
「ルナーサさん。こんな人間と話し合う意味などありませんよ。この俺が捻りつぶしてくれます」
ルナーサが呆れた様子で言う。
「バーカ。マルギバナ、あんたが『捻りつぶしてくれる』とか言っている相手はね──正真正銘の化け物よ。あんたが敵う相手じゃないわ」
アーダが満足そうに言う。
「ほう、女。師匠の恐ろしさを正しく理解するか。貴様は、少しはできるようだな」
おや。話し合いが成功しそうか? ついに友愛の時代がきた?
ところが、ふいにマルギバナの顔が苦痛に歪みだした。
腹を抑えて、「ぐぉぉぉぉぉぉ」と呻き出す。
ルナーサは感情を見せずに言う。
「北条さん。マルギバナの無礼は謝罪するから、殺すのはやめて欲しいんだけど?」
「悪いが、おれは何もしていないぞ。だが」
なんか嫌な予感がしたので、一歩後退した。
瞬間──
マルギバナの腹が裂けて、血みどろの女児が飛び出す。右手を突き上げて、意気揚々と。
これが新世代の『おもてなし』だというのか?
「じゃじゃじゃーん! 北条乃愛、参上なのです!!」
北条乃愛とかいう女児が、おれに視線を向ける。
「あ、パパ!」
「は?」
「乃愛は、こんなに大きくなったのですよ!」
返答に困る。
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