83,【鬼畜】が来ましたよ~。
〈聖ダークサイドムーン騎士団〉の本拠地は、要塞のようだった。
この国の麻薬組織は、【変転】前から軍事化していたらしいからなぁ。さすがタフな国。
本拠地まわりには戦車数両と、重武装した兵士たちが配置についていた。まるで戦時中のようだ。
やがて兵士の一人に誰何されたので、名乗った。
「北条尊人というものだが、ダイヤの件で来たよ」
てっきり銃撃でもされるのかなと思ったのに、なぜかしがみ付かれた。
「おお、【鬼畜】さまでしたか! どうか我々をお助けください!」
「貴様、師匠にしがみ付くな!」
アーダが蹴とばしたので、兵士は粉砕して内臓が飛び散った。
「……アーダ、そういう暴力爆発はやめなさい」
「すまない師匠」
アーダは飛び散った内臓を拾ってきて、粉砕した兵士の体内に詰め込み始めた。
「アーダ、そういういじらしいこともやめなさい」
脳内に戻っていたイチゴが、『たいやきは生きている』という発言を聞いたくらいに驚いてきた。
〔え、今のアーダさん、いじらしいんですか? サイコでなくて?〕
〔じゃ、サイコいじらしい〕
要塞まで行き再度、名乗る。
「【鬼畜】が来ましたよ~」
とたん兵士たちが撃ちまくってくると思ったのに──
「おお! 【鬼畜】さまがいらっしゃったぞ!」
「ようやくだ、【鬼畜】さまぁ!」
「我らをお助けください、【鬼畜】さまぁ!」
という気持ち悪い反応だった。
なんじゃこりゃ。
〔さっきの店じゃ、『北条はどこだ!』と銃乱射していたくせにな〕
〔あれは別派閥の連中なんじゃないですか。タケト様、人気者ですし〕
〔嫌な人気者だな〕
〈聖ダークサイドムーン騎士団〉首領のミゲランヘルのもとまで案内される。
ミゲランヘルは50歳くらいの男で、両手の指に宝石指輪をつけまくっていた。
おれたちを見ると、ミゲランヘルは手もみしだした。
「おお、【鬼畜】どの! どうか我らにお力をお貸しください!」
「おれはダイヤを取り返しに来ただけなんだがな」
「そうおっしゃらず、我々の苦しい事情をお聞きください」
そして勝手にしゃべり出すミゲランヘル。アーダが今にも殺しそうだが、とりあえず抑えといた。
「現在、この〈聖ダークサイドムーン騎士団〉には2つの脅威が迫っております」
ミゲランヘルいわく、脅威のひとつ目は【超人類】。
【超人類】から代表として、マルギバナとルナーサというのが来たらしい。
それが3日前のことで、ミゲランヘルに〈滅びのダイヤ〉を要求。期限の今日までに渡さなければ、〈聖ダークサイドムーン騎士団〉を皆殺しにするという。
3日前か。ということは【超人類】は世界各国かつ同時進行で、おれのダイヤを探しているらしいな。
あれ。もしかして【超人類】が見つけてから奪い返したほうが、簡単じゃない?
ミゲランヘルはだらだらと話していて、驚異のふたつ目は『謎の女児』。
この『謎の女児』は4日前、どこからともなく現われた。そして〈聖ダークサイドムーン騎士団〉最強の男を、秒殺。
その死体は吊るした上、自らの名前を刻んだそうだ。
「その女児は、【鬼畜】さまのファンのようですな。北条ノアと名乗っていますので。しかし【鬼畜】さまの家族ではありますまい? それくらいは調べがついております」
どうでもいいことでマウント取ってきたな。アーダがいまにも殺しそうなので、抑えておく。そんなことより──
「ノア? どういう字かわかるか?」
「はぁ。写真がございますが」
死体の写真を見ると、たしかに刻まれている。『北条乃愛、参上です!』と。
いいね。産まれてくるのが娘だったら、おれも乃愛と名付けようかなぁ。ドロシーがOKしたらだけど。
「で、この女児がどうしたって?」
「〈聖ダークサイドムーン騎士団〉の拠点を潰しながら、ここに向かってきております。速度からして、今日にも到着するかと」
「へぇ。で、おれにどうして欲しいんだ?」
「是非とも【鬼畜】さまのお力で、この2つの脅威を取り払っていただきたいのです! この地に平和が戻った暁には、【鬼畜】さまのダイヤ探しに我々も尽力させていただきます!」
「つまり、味方になろうよと?」
「我々は信頼関係を築けるはずです!」
試しに《盗み聞き》で、ミゲランヘルの心を読んでみた。
[この腐れ日本人を、いいように利用してやろう。【超人類】とかいうクズどもと、ふざけた女児を始末させる。そのころには、さすがの【鬼畜】も弱っているだろうから、我々が総攻撃して殺してくれる。死体は豚の餌にしてくれるぞ! ハッハッハッ!]
というのが、ミゲランヘルの本音。
おれはミゲランヘルの肩をポンと叩き、
「いいぞ、ミゲランヘル。〈聖ダークサイドムーン騎士団〉を守ってやろう」
「おお、本当ですか!」
「ああ。だが条件が一つだけある」
「何なりと仰せ付けください!」
などと言いつつ、ミゲランヘルの本音はこう言っていた。
[私の手にかかれば、間抜けな日本人などこんなものよ。ハッハッハッ!]
「ふむ。で、肝心の条件だがなぁミゲランヘル君」
「はい何なりと」
おれはニコッと笑い、ミゲランヘルを指さして、
「お前、切腹な~」
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