80,5秒前に撃った。
目玉を踏みつけつつ、アーダ&死滅卿vsルルルルの様子を見にいくことにした。
ところがアーダと死滅卿が争っているじゃないか。
何してるのこの子たち。
「貴様! いい加減、足を引っ張るな! 貴様のせいでルルルルを見失ったではないか!」とアーダ。
「そっちこそいい加減にしろ! 【五魔王族】が1柱である僕に対して、もっと敬意を表したらどうだ!」と死滅卿もさすがに切れる。
「だいたい名前に『卿』がついているというのが偉そうなんだ!」
「名前の文句を言うなよ!」
アーダの《殺戮演舞》と死滅卿の《禍つ球》乱射が激突する。
基本的な戦闘力はアーダのほうが上だが、死滅卿には《死眼》という一撃必殺があるからなぁ。
〔まてまて。あいつら、バカなのか?〕
〔仲がいいほど喧嘩するといいますものね! タケト様が私をぶん投げるのも、一種の愛情表現ですしね? ね、タケト様? タケト様~?〕
さらに問題。
確かにルルルルの姿が見えない。それどころか感知できない。
《探知》から《詳細調査》など、感知系スキルを総動員しているのに。
この世から消えてしまったようだ。
〔隠密系のスキルを使っているのだろうが、これは相当なものだな。あのルルルルという奴、危険度でいえば『親愛なる友』を越えている〕
〔タケト様のいう『親愛なる友』って、さっきペチャンコに抱き潰して、脳味噌をドバーさせたガギースさんのことですか?〕
〔ふっ、暴力からは足を洗ったからな〕
〔いい笑顔でなに言っているんですか〕
感知系スキルでは見つけられないので、頼れるのは己の直感のみか。
〔ふむ。俺の直感が言っている。イチゴ、お前の中にルルルルがいるぞ、たぶん〕
〔タケト様。ふざけるのもたいがいにしてくださいよ。わたしの中にいるって、それはどういう妄言で──〕
改めてイチゴを脳内から引きずり出す。ついで《透視》すると、イチゴの内部に潜むルルルルを発見。
「こんなところに隠れていたのか」
さっきイチゴをぶん投げたとき、ルルルルが入り込んでいたようだ。イチゴ当人に気づかれず、俺にも気取られずに。
「イチゴ。お前ごとルルルルを焼き払うから。悪く思うな。尊い犠牲だ」
「え、ちょっと、なに言ってるんですか! 今日はわたしの厄日なんですかぁぁ!」
《超壊滅獄炎》の超絶火炎を噴き出そうとした刹那──ルルルルがイチゴの体内から飛び出る。
「ふむ。逃げたか。計画通りだ」
「本当ですか? わたしごと溶かす気満々だったように感じるのは、わたしの気のせいですか? 気のせいなんですよね、タケト様? こらタケット!」
「タケットはいま忙しいんだよ」
ルルルルをまたも見失ってしまった。コイツ、存在を消しているのか。どうりで感知できないわけだな。
だがルルルルの決め技は、全身の眼球を使っての消滅攻撃。奴の全身に生えている無数の眼球は、『視た』ものを強制的に消去できる優れものだからな。
つまり、いくら存在消滅スキルで消えたとしても、最後にはおれを視認するため近くに現れる。
とりあえずイチゴを脳内に戻しておくか。もうルルルルに入り込まれないように気をつけつつ。
「奴は、俺を『視』ることで消滅させようとするはずだ」
〔え。その場合、タケト様の脳内にいるわたしまで、消滅させられるのでは? タケト様、やっぱりわたしは外に出ています!〕
〔却下。おれが消えるときは、お前も消えるんだよ〕
〔あっ! 出やがりました!〕
確かに、出た。
気づいたときは、ルルルルは目の前にいた。とうぜん全裸スタイルで。
ルルルルが淡々と言う。事実を述べるようにして。
「私の『眼球』が、お前を視認した。よってお前は消滅する」
俺は《時を跳躍する弾》を撃つ。
「無駄だ。いまさら何をしようと貴様が消えることに変わりは──」
瞬間、ルルルルの眼球のひとつが破裂した。
「な、なんだと?」
そして連続してルルルルの無数眼球が破裂して消えていく。
当然だ。5秒前に、すべての眼球は撃ち抜いてあるのだからな。
《時を跳躍する弾》とは、『5秒前に戻って』貫通弾を発射するスキル。
5秒前の過去で撃ち抜かれるので回避は、不可能。この《時を跳躍する弾》を猛射ずみだ。
無数にあった眼球がどんどん撃ち抜かれていく──というより、『撃ち抜いた』過去が現れているにすぎないが。
「撃ち抜いてあった眼球が、おれを『視』ることはできない。よっておれが消滅することもない」
さすがの無表情なルルルルさんも、これには動揺している。
「想定不能!想定不能! このような事態は──想定できるはずが、ない!」
おれは両手を広げて、
「じゃ、ハグいきまーす」
〔タケト様。ハグにはまったんですか?〕
〔心の優しい人は、みんなハグしているイメージがある。おれにぴったり〕
しかし、ハグしようとしたのに逃げられた。
〔タケト様。ルルルルの奴、また存在を消すスキルを使いましたよ〕
〔いや、もう逃げられん。《時を跳躍する弾》に発信機をつけておいたからな。存在を消しても、そこにいるのは分かっているぞ。ルルルル──〕
存在を消していたルルルルを、引っ張り出す。
「こ、こんなことができるはずが──」
「そして、これが愛と平和の《内臓破裂まで抱きしめ》だ!」
〔……タケト様。ついにハグに名前を付けましたね。友愛の欠片も感じない名前を〕
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