79,鬼畜と親愛を究めし男。
イチゴの襟首をつかんで、ガギースめがけてぶん投げる。
音速突破イチゴ弾:本日2発目!
しかしガギースは最小限の動きで回避した。
「不意打ちでもなければ、そんなものが当たるかよ!」
「ほーう。やるな」
「きゃぁあああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
イチゴの悲鳴が遠のいていく──やがて壁にぶつかる『ぐちゃぁ』という音が、ずこく遠くのほうから響いてきた。
しばらくして俺の脳内にイチゴが帰還。
〔……二度までも私をぶん投げるとか、鬼畜道をどこまで極めれば気が済むんですか!〕
〔命中しなかったくせに偉そうだな〕
〔ええええ!〕
さて、ガギースが動いてくる。両手に光輪を作り出し、
「次はこっちの番だよなぁ北条さん?!」
それを投げてきた。
飛来する2つの光輪に対して、分析スキルをかけてみよう。
スキル名は《神の輪》。
効果は『ステータス数値とは無関係に、生命体を切り裂く』。
ステータスとは無関係ねぇ。ということは──
《神の輪》を回避するとき、わざと手の甲でかすらせた。かすった個所に切り傷ができ、血がにじむ。
〔あらら。タケト様のステータス∞防御力を無視して、皮膚を切ってきましたね~。ドロシーさん以来の難敵出現ですか?〕
おれは改めてガギースを見てから、首を振った。
「惜しいなぁ。パパになる前だったら、お前みたいなの大歓迎だったのに。しかし、今はもう死ねんのだよ【超人類】くん」
〔タケト様~。いま回避した《神の輪》が、後ろから戻ってきますよ~〕
〔知ってる〕
背後から迫ってきた2つの《神の輪》を、回避。
だが《神の輪》は半円を描いて、またおれを狙ってくる。ははぁ、ホーミング機能付きか。
ガギースの両手には、新たな《神の輪》が4つずつ計8出現していた。
「北条さん。悪いがね、オレ様の勝利確定条件はそろっちまったみたいだぜ」
「へぇ、そうなのか」
「《神の輪》とは、どんな生命体をも切り裂くチート攻撃。しかも《神の輪》は無尽蔵に作って発射できるし、ホーミング機能まである」
「つまり、《神の輪》を止めたきゃ、発動者のお前を倒すしかないと」
「ああ、だがそれもまた不可能だ。オレ様を守るのは、敵の攻撃をすべていなす《接零》。北条さん。あんたがどんな強力な攻撃を持っていようと、オレ様には傷ひとつ付けられんのだぁぁ!」
勝利を確信したドヤ顔で、ガギースが両手から8つの《神の輪》を発射。
これでおれを狙う《神の輪》は計10か。回避し続けるのも億劫になる数だ。
しかも、ガギースはさっそく新たな《神の輪》を作り始めている。連射機能だけはないらしい。
〔タケト様、どうされるんですか~? このままだとウッカリ《神の輪》に当たっちゃうかもですよ~〕
〔だなぁ〕
とりあえず、尋ねておこう。
「なぁガギース君。お前はなかなかの手練れだが、ほかの【超人類】もお前くらい強いのか?」
「オレ様の戦闘力ランクは《朱》だが、まだ上には《緑》と《紫》がいるぜ。絶望したか北条さんよ?」
「どこの世界もランク付けが好きだなぁ」
「さて北条さん、あんたとのお喋りは楽しかったがこれでお終いだ。だが安心しな。切断した頭部だけは持ち帰って、記憶を読み取ってやるからな。そうすりゃあ〈滅びのダイヤ〉の在処も分かるだろうからよ! さぁ死にやがれ!!」
《神の輪》がさらに6つ追加。これで計16となった。確かに避けきれないな。
そして複数の《神の輪》が、おれに襲いかかる。
直撃だ。
ガギースが勝利宣言しようとし──凍り付く。
「な、なんだと!! なぜ《神の輪》が直撃したというのに、ダメージを受けてねぇんだ!」
「《神の輪》は『生命体』を切り裂くんだろ? だからだよ」
「はぁ?」
「おれはいま《霊体化》というスキルで、幽霊となった。幽霊は厳密には『生命体』ではないので、《神の輪》では切り裂けませーん。あしからず」
「はぁぁぁぁぁぁあ!? んなの有りかよぉぉぉ!? ずりぃぃぃだろうが!」
「ずるくない」
《神速α》で光速化し、ガギースに肉薄する。同時に《霊体化》は解除して、と。
「バ、バカめ! オレ様の《接零》は、敵の攻撃をすべていなすんだ! 北条、あんたがこの至近距離からどんな攻撃をしようとも、オレ様には傷ひとつ付けられねぇぜ!!」
「バカはお前だ。これは攻撃ではない。これは──親愛のハグだ」
「は?」
というわけで、ガギースを抱きしめてやった。
【超人類】よ、おれはお前たちの友達だぜ。
友達への熱い思いから、自然とハグする力が増していく。
それはもう、ガギースの肉体を潰して、全身の骨を粉砕するほどに。
友愛の心から抱きしめてやっているのに、ガギースが悲鳴を上げだす。
「あぎゃぁぁぁああああああ!やややめぇぇぇろぉぉぉぉ!離れぇぇぇろぉぉぉぉおおおおおお!!!」
「離れる? バカ言うな。親愛のハグはまだまだ続く。おれが満足するまで、続くぞ」
ガギースの体がグチャグチャと潰れていく。
もちろん、気にせずハグを維持。
これぞ親愛道を究めた我が素晴らしきハグである。
「やぁぁ!ぁああめぇぇぇでぇぇぇ!ぇぇぇぇぇぇえ!ええええええエ!エエエぁぁぁぁぁああああああああああああアアアァァァアア…………!!!」
ガギースの背骨が砕け、内部圧力のせいか頭が吹き飛んだ。ふたつの眼球がぽーんと飛んでいく。
それを見てから、おれはハグをやめた。
「親愛って素晴らしい」
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