78,秘技:イチゴをぶん投げる。
気づくとイチゴが隣に座っていた。また勝手に脳内から出たのか。
「タケト様~緑茶には煎餅を出してくださいよ~」
「お前、図々しいな」
〈食べ物創造〉で煎餅を出してやると、イチゴはバリバリと食いだした。
周囲では斬撃と魔撃がぶつかりあい、硬度が高いはずのダンジョン建築材を削っている。
まずはアーダvsガギースを見てみると──
アーダはさっそく必殺技を見せてやろうと、《殺戮演舞》を発動。
対するガギースの皮膚が、玉虫色に輝く。
おれの分析スキルによると、【超人類】ならではの《接零》というスキルらしい。相手の攻撃力を完全にいなす絶対防御スキル。
《殺戮演舞》の究極斬撃の数々が、ガギースの肌の上をすべっていく。だから半裸だったのか──いや、やっぱりとくに関係ないな。
ガギース、勝ち誇る。
「その程度の斬撃攻撃、【超人類】クラスじゃ目新しくないレベルだぜ!」
「貴様のような口先だけのザコは、こっちの世界にもたくさんいるぞ!」
アーダはあからさまに苛立った様子で、《殺戮神速》を発動。この速度に、ガギースもついていく。
ふむ。【超人類】というのは、名前負けはしていないのかもな。
ふと隣のイチゴを見ると、
「あっ、イチゴ! お前、煎餅の食べかすをボロボロと落とすなよ。お前みたいな奴って、友達の部屋でもゴミとか散らかして帰るタイプだよな。地味に嫌われてるタイプ」
イチゴは緑茶をズズズと飲んでから、
「失敬な! ここがタケト様の部屋だったら、煎餅の食べかすがこぼれないように気をつけますよ! 廃墟のダンジョン内だから、気にせずにボロボロやっているんじゃないですか。それくらい空気読めるのが、わたしですよ!」
イチゴの向こうでは、死滅卿とルルルルが激闘中。
死滅卿はすでに最終形態モードへ移行。数多の機械触手でルルルルをけん制しつつ、《死眼》の発動を狙っている。
《死眼》は、敵の魂を吸い取れる初見殺しなスキル。
ただ発動条件が、『敵と目をあわせる』こと。戦闘中に目をあわせるのって、けっこう面倒だよな。
ところでルルルルはまだ、本格的な攻撃は繰り出していない。何度か火球を虚空から出して連射しているくらいで。何か大技を狙っていそうだな。
イチゴが脇腹をつついてきた。
「タケト様、タケト様。辛い煎餅を食べたら、甘いものも欲しくなりました。饅頭くだせぇ」
「……」
饅頭を出してやると、ムシャムシャと食べ出すイチゴ。
「……」
死滅卿は300本の機械触手から、《禍つ球》を一斉発射。
これは決まったか? 全弾回避は無理だろうし、《禍つ球》は通常の防御スキルでは防げない。
するとルルルルの黒い衣が消える。
ルルルルさん、全裸です。
その全身には、数えきれない眼球が生えていた。これらの『無数眼球』が視たとたん、《禍つ球》が次々と消えていく。
「想定内の攻撃だ」
死滅卿が驚愕する。
「な、なんだって!」
なるほど。ルルルルの眼球が視ることで消滅させるのか。
死滅卿の《死眼》と似ているが、ルルルルの場合『視る』だけで条件クリア。しかも眼球の量に差がありすぎる。
これは死滅卿が危ない。助けてやるか。
おれはイチゴの襟首をつかんで、
「ほえっ?」
ルルルルめがけて、ぶん投げた。
「きゃぁぁぁあ!!」
音速を突破したイチゴ弾が、ルルルルに激突。
衝撃でルルルルはすっ飛び、20メートル先のダンジョン壁にめり込んだ。
一方のイチゴは、ぶつかった衝撃にも耐えたようだが──ばたりと倒れた。
「イチゴ~。お前の死は無駄にしないぞ~」
イチゴの姿が消えたと思ったら、おれの脳内に戻ってきた。
〔タケト様ぁぁぁぁぁぁ! わたしを音速突破でぶん投げるとか、ひどいです! ひどすぎますよぉぉぉぉぉ!! あうぅぅぅ!!!〕
〔さすがイチゴだ。そのしぶとさ、織り込み済みだぜ〕
おれは脳内に右手を突っ込むイメージ。そうやってイチゴの肉体を引きずり出す。
「へ? わたしの肉体を、強制的に具現化するなんて──タケト様、こんなことまで出来るようになっていたんですね」
「行くぞ、イチゴ!」
「いや行かんです! 行かんですよ!」
イチゴの右足首をもって振り回しながら、ガギースの前へと跳ぶ。
同時にアーダへと指示出し。
「アーダ。お前は死滅卿と組んで、ルルルルを倒してこい。このガギースは、おれが仕留める」
「了解した、師匠!」
ガギースがニヤッと笑う。
「ステータスを偽装しているような腰抜けが、オレ様に勝てるかよ」
イチゴの先端(つまり頭頂部)を、ガギースへと突き付ける。
「後悔するなよ? この案内係という名の棍棒は、硬いぜ」
「こらぁぁぁぁタケト様ぁぁぁぁぁ! 【神に愛された案内係】のわたしを、棍棒がわりに使うなぁぁですよぉぉぉぉぉ!!!」
足首を離して落とす。
「まぁ冗談だけどな」
「鬼です、このひと鬼です……」
さてと、【超人類】がどこまでのものか確かめてみるか。
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