77,宣戦布告。
──主人公の視点──
第2階層に降りたところで、変なステータスの2人組みと対峙することになった。
〔イチゴ。アレが、ソフィアの話していた【超人類】とやらか。で、どこのどなただ?〕
〔ムムム……なんか【超人類】について考えると、頭痛が痛いです。もしかして、わたしの記憶が封印されています? これ以上、思い出そうとするのは危険が危ないですね。はい諦めます!〕
いや、そこはもう少し頑張れよ。
【超人類】の片方、なぜか半裸の男が言った。
「お前が北条尊人か? オレ様はガギース、こっちの女神のような美女はルルルルだ」
ルルルルという女が頭を下げる。たしかに美女だな。ただこっちは黒い衣を全身に纏っている。
半裸でないのは、残念だ。
ふいにダンジョン製スマホに、ドロシーからメッセージが入った。
[尊人さん。わたくし、浮気されたらショックのあまり、地球を滅ぼしてしまいますね]
この新妻、情緒不安定だな。いまに始まったことじゃないが。というかメッセージ来たタイミングが怖い。
とにかく【超人類】の相手をしてやらんとな。おれは平和を愛する男。無意味な戦闘だけは避けたいし。
「おれが北条尊人だが?」
「お前さんが、〈滅びのダイヤ〉の在処を知っているそうだな? どこにあるのか言ってもらおうか。あれはオレ様たちがいただくからよ」
「〈滅びのダイヤ〉だって?」
おれが首を傾げていると、脳内でイチゴが大いに反応。
〔あ~!! あのダイヤ、〈滅びのダイヤ〉だったんですかぁぁぁ! うひゃあ、気づかなかったですね~。あはは〕
『あはは』と笑って済ませようとしていやがるな。
〔なんなんだ、イチゴ?〕
〔あとで説明します。とりあえずいま大事なのは、次の一点。この【超人類】さんたちも、狙いはあのダイヤです〕
〔は?〕
〔だから横取りしようとしているんですよ、【超人類】さんたちは。タケト様の大切なダイヤを!〕
〔おれの息子の次に大事なダイヤをか!〕
〔あれ、男の子なんですか?〕
〔まだ分からない。女の子の可能性もあるよな──おれの娘の次に大事なダイヤをか!〕
ここで数日前のおれだったら、【超人類】どもを血祭りに上げていただろう。
しかし北条尊人versionⅡは違うのだ。パパになった北条尊人は。
愛と平和の道を行く男。それが新しいおれ。
「こほん。あー、【超人類】のガギースさんとルルルルさん。そのダイヤは、おれのものだ。我が家の家宝として、代々受け継がれていくことになるだろう。だから、あんた達が手にすることはできない。分かってもらえたね?」
するとガギースが陽気に言う。
「そうだよなぁ北条尊人さん。あんたのダイヤだもんな! いやぁ悪かったね、本当に。だけど、あんたから横取りしようなんて考えちゃいなかったんだ。そこは信じてくれよ?」
話せば分かるものだなぁ。みなが話し合う習慣を得たら、この世から争いはなくなるなぁ。
「分かってくれればいいんだよ」
「そうかいそうかい、ハッハッハッ」
ガギースは朗らかに笑っていた。
ところが、ふいに険しい顔になると指を銃の形にして、死滅卿を撃った。
胸部を撃ち抜かれた死滅卿が、後方に吹っ飛んでから倒れる。
いま指から、『何』を撃ったのか? 【五魔王族】の防御力を突破する威力のものだ。少なくとも、おれのスキルリストにはないな。
「悪いがなぁぁあ北条尊人さん。我ら【超人類】はよぉ、欲しいものは手に入れるんだ。この地球の統治権も、地球に生息している新たな奴隷種もなぁぁ。そして、当然ながら〈滅びのダイヤ〉もだぁぁぁ」
おれは頭を抱えた。
「うーん。おかしい。このままでは、いつもの『惨殺コース』に入ってしまう。【超人類】の人たちの首を、おれが引っこ抜いて終わりになってしまう。しかし、それでいいのか?」
「なにをゴチャゴチャ言ってやがる?」
おれは〈アイテム創造〉で、リラックスセット(和風バージョン)を出した。セット内容は、座卓、座椅子、そしてお茶の入った湯呑。
座卓に腰かけて(座椅子いらね)、湯呑を見て気づいた。おお、茶柱が立っている。心が落ち着くなぁ。
「おい、北条さぁぁん。お前、なんのつもりだぁ? 頭、沸いてんのか?」
ガギースが近づいてこようとするが、その前にアーダが立った。チェーンソーを、ガギースへと突き付ける。
「それ以上は、師匠に近づかせんぞ。貴様は、この私──【北条四天王】が1柱、アーダが相手しよう」
ガギースが嘲笑する。
「お前ひとりで、オレ様たち2人を相手にするのかぁ?」
「そっちの薄気味わるい女は、僕が始末するよ」
そう言って、死滅卿がむくりと起き上がる。撃ち抜かれた胸部は、《自己再生》で治癒ずみだ。
ガギースが軽く驚いた様子で、
「生きていやがったのか」
もちろん【五魔王族】が、あの程度の攻撃で死ぬはずがないよな。
アーダと死滅卿が、チラチラとこっちを見てくる。まさかの指示待ちか。
おれはお茶をズズズと飲む。話し合いが決裂したので仕方ないか。結局、この世から争いは尽きんなぁ。
「アーダ、死滅卿。そいつら、殺していいよ」
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