76,≪新宿ダンジョン≫跡地へ。
──主人公の視点──
《探索》を気長にやっていると、ようやく〈佐東会〉の会長を見つけた。
B級≪新宿ダンジョン≫跡地にいる。おれが吹っ飛ばしたダンジョンの残骸に隠れていたのか。
アーダを呼びに廊下に出る。
アーダは、最後の阿木組員を真っ二つにしたところだった。
それから振り返って、真剣な眼差しで聞いてくる。
「師匠の好きなポケモンは?」
「ナゾ〇クサ」
よく分からないが、アーダは勝手に感動。
「さすが師匠だ。ナゾ〇クサ、いぶし銀の可愛さを持つポケモン!」
「瞬間移動するから、おれに掴まれ」
いまのところ接触した人数×3まで、一緒に瞬間移動できる。
≪新宿ダンジョン≫跡地の入り口前まで移動。まずは地上から、《探索》で確認。
どうやら吹っ飛ばしが甘かったらしく、残骸が第2階層まで残っているようだ。この第2階層に、会長は手下たちを連れて引きこもっている。
ふいにアーダの影から、死滅卿が現れた。《影移動》という簡易版の転送スキルだな。
「あの~閣下?」
と、おれに向かって言ってくる。
「なんだ死滅卿、都内のモンスターの動きは掴めたのか?」
「モンスター軍は、ほぼ壊滅状態。生き残りから話も聞いたよ。東京決戦で冒険者組合を敗走させたまでは良かった。ところが暴力団の連中が来て、こいつらに負けたとか。阿木組というのがメチャクチャ強いらしいんで」
アーダが、死滅卿の後頭部を蹴っ飛ばす。
「貴様の持ってくる情報はとろすぎる。阿木組など、先ほど私が片付けた。あんな雑魚どもに負けるとは、ここを支配していたモンスター軍もたいしたことはなかったな」
元≪軍艦島ダンジョン≫フロアボスのアーダ。【五魔王族】のハムナー(ちなみに元許嫁)を殺して獲得した経験値で、いまや【五魔王族】レベルのステータス数値を誇る。
ふむ。アーダが手こずる相手とか、もう想像できないな。
まぁドロシーにはボコられていたが、あいつは別格だし。
とにかく、おれは結論を言った。
「東京は解放されたも同然だな」
モンスター軍は壊滅しているし、後釜で支配者となった〈佐東会〉も終わる。最強戦力とかいう阿木組はアーダが潰したし、これからトップの会長も肉塊になるからなぁ。
「じゃ、行くぞ~」
というわけでおれ達は、≪新宿ダンジョン≫の残骸に入っていった。
目指すは第2階層。そこにいるのが〈佐東会〉会長と手下たち──。
それと、《探索》によると変なのが2体。
コイツら、人間でもモンスターでもないな。
★★★
──〈佐東会〉会長さんの視点──
会長は震え上がっていた。
もうじき、【鬼畜】がやって来る。
【鬼畜】に捕まったら、生きたまま皮を剥がれるらしい。いや、生きたまま心臓を抉りだされるのだったか。
とにかく、ろくな死にかたはしない。【鬼畜】が探しているダイヤモンドさえあれば──だが、本当に〈佐東会〉は持っていないのだ。
それに、他にもダイヤモンドを求めてきた奴らがいる。【鬼畜】だけでもストレス要因MAXだというのに。
会長の目の前にいる、男と女。【超人類】とかいう奴ら。
なぜか、コイツらもあのダイヤモンドを欲している。
とにかく、この【超人類】の戦闘力は本物だ。
会長の直属護衛で、元冒険者Aランクだった宝田。先ほど、この宝田を瞬殺してしまったのだから──
(ああ、宝田……役に立たなかったなぁお前)
「我々は、あのダイヤモンドは持ってないんだぁぁぁぁ」
半泣きになりながら会長はそう訴えた。
【超人類】の片方、ガギースという男。筋骨隆々で、なぜか半裸。このガギースが言った。
「信じてやろう。オレ様の《真贋》でも、虚偽は認められなかったからな」
その相方である、ルルルルという女。美人だが、こっちは残念ながら半裸ではない。その反対に、全身を黒い衣で纏っている。
このルルルルが、首を傾げた。何か、遠くの音でも聞くような姿勢で、
「このダンジョン残骸に、侵入者あり。目標は、ここのようだ」
会長は内心で叫んでいた。
(ひぃぃぃいい! 【鬼畜】が来たぁぁぁぁあ!!!)
ガギースがルルルルに問いかける。
「何者だ、そいつらは?」
「まずモンスターが2体。ステータスを覗きみたかぎり、戦闘力のランクは《朱》。そして3体目は──ふむ。これは人間かモンスターか不明。ステータスは∞のため、ランクは測定できない」
「2体の戦闘力ランクが《朱》か。それなりに骨がありそうだな」
「測定できない3体目は、どう考える? ステータス∞と出たが?」
「ステータス∞なんて、ありえねぇ話だ。つまり、ステータスに《偽装》をかけてるのさ。偽っているということは、本当のステータス数値に自信がねぇってわけだ。戦闘力ランクは《朱》より低いだろうよ」
会長は腰抜けだが、バカではない。それどころかずる賢いほうだ。
【超人類】の会話から察するに、【鬼畜】が来たことは確か。
しかも【超人類】たちは、【鬼畜】を侮っているようだ。
(これは逃走時間を稼ぐための好機になるぞ! いや、うまくすれば共倒れしてくれるかも!)
そこで会長は言った。
「なぁ、聞いてくれ。いま侵入してきたという奴らの一人は、私も知っている男だ。北条尊人というんだが。
ダイヤモンドの件は、この北条尊人に聞いたらどうだろう? あんたらが探しているダイヤモンドは、そいつが所有していたんだからな」
ダイヤモンドは【鬼畜】の所有物だった。これは真実。
ゆえに、ガギースの《真贋》とやらにも引っかからない。
『いまは【鬼畜】も、ダイヤモンドの在処を知らない』という事実を話さなかっただけで。
ガギースは薄笑いを浮かべた。
「なら、そうするとするかね」
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