74,アーダさんに欲情した男の末路です。
──阿木組の皆さんの視点──
〈佐東会〉の参謀に、大代という男がいる。大代は元冒険者であり、《限定予知》というスキルを有していた。
そして大代の《限定予知》によると、今日このホテル拠点に奴が現れるという。
世界の犯罪組織を敵に回した【鬼畜】が。
この【鬼畜】の首を獲ることができれば、全犯罪組織に対する〈佐東会〉の影響力は大きくなる。
会長はそう考えて〈佐東会〉最強戦力の阿木組を、このホテルに送り込んでいたのだ。
そしていま──囮の酒井から合図が来た。
阿木組の出番だ。
先陣を切るのは組長の阿木。
「てめぇら気合入れろよぉぉ! 極道に喧嘩売った半端モノがどうなるのか、思い知らせてやるんじゃぁぁ!」
阿木は冒険者組合に属したことはないが、長いあいだ世界各地で傭兵をしていた。そのとき、B級≪モザンビーク・ダンジョン≫を一人で完全攻略したこともある。
さらに【変転】後は、関東圏に現れたモンスターを狩りに狩った。
その結果、レベルは78まで上がった。Aランクどころか、Sランクにも匹敵する能力数値だ。
最上階まで上がると、廊下に待ち構えていたのはチェーンソーを装備した女。
阿木は生唾を飲む。
極上の美女だ。
さらにいえば阿木のタイプ。気の強そうな顔、でかい胸、すらりと長い手足。
こういう女を屈服させ、調教するのが阿木の趣味だ。
まさか【鬼畜】を狩りにきて、こんな極上の獲物に出会えるとは。
後ろに続いてきた手下たちに、阿木は命じた。
「あの女はオレのもんだ。手ぇ出すんじゃねぇぞ」
阿木の武器は、両手にはめたナックルダスター。
ただのナックルダスターではない。≪モザンビーク・ダンジョン≫で入手したアイテムだ。正式名称を《憤激する拳》。阿木のパンチ力を30倍にする。
「おい女、さては【鬼畜】のオンナか? 腕に覚えがあんだろうが、オレには敵わんぜ。だがオレのオンナになるってんなら、助けてやろう。どうだ?」
チェーンソーの女は小首を傾げた。
「つまり──貴様の性奴隷になれと?」
「生き残りたかったら、それしかねぇだろうな」
「うーむ。迷う。実に迷う。何を迷うかといえば、貴様の殺し方だ。ところで名乗っておこうか、私はアーダ」
極上の女──つまりアーダはチェーンソーを床に突き刺した。それから両手の拳を握る。
「いま決めた。貴様は殴り殺そう」
阿木は舌なめずりした。こういう生意気な女は大好物だ。殴って痛めつけ、力関係を教えてやるのが興奮する。
「いいだろう女、来い」
アーダがすたすたと歩いてきて、阿木の顔面を殴った。
想像以上の衝撃を受け、阿木は一歩後退する。だが──持ちこたえた。
「な、なかなかのパンチじゃねぇか。だがオレはそんなか弱いパンチじゃぁぁ、倒せねぇぜ!」
アーダは薄笑いを浮かべて、
「ほう。貴様、それなりに頑丈だったか。過小評価していたのは謝罪しよう。今のは、全力パンチの25パーセントだったが。50パーセントは必要だったか?」
阿木は一瞬だけ、ギョッとした。
(今のパンチが25パーセントだとぉぉ?)
だが、すぐに落ち着いた。次のような結論に達したので、
(焦るようなことじゃねぇ。全力の25パーセントだったなんてのは、この女の嘘っぱちに決まってらぁ。全力パンチが効いてねぇから、虚勢を張ることにしたんだろうよ。可愛いじゃぁねぇか)
「次はよぉ、こっちから行くぜ!」
アーダともっと遊んでいても良かったが、真の狙いは【鬼畜】だ。
それに阿木は、我慢できなくなっていた。
この女を最高に痛めつけて、命乞いさせてやりたかったのだ。這いつくばらせて靴を舐めさせてやりたかった。
「食らいやがれぇぇ、《連爆拳王》!!!」
《連爆拳王》とは、目にも留まらぬ連続パンチを繰り出すスキルだ。
これを食らって、立っていた者はいない。
唯一の懸念は、この女の防御力が想定より低かった場合だ。その時は、この女は原型を留めていないだろう。こんなに極上の女なのにもったいない。
だが《連爆拳王》は、いちど発動したら止められない。
パンチを出し尽くすまでは、止まらないのだ──!!
そうパンチは止まらなかった。
阿木が想定していなかったのは、アーダの防御力の高さだ。
アーダの全身を殴りに殴る。しかしダメージを受けるのは、阿木の拳のほう。
まずは《憤激する拳》が耐えきれず壊れ、阿木の生身の拳も砕けちり、骨と肉の塊になり──
さらに拳が潰れてなくなり、手首にまでめり込んでいく。
それでも《連爆拳王》は止まってくれない。
「うぎゃぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁあ痛い痛い痛いからどめでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
そして──やっと止まった。
そのときには阿木の両手は、ミンチと化していた。
アーダは不思議そうに言う。
「何がしたかったんだ、お前は?」
「あ、あの……す、すいませ……んでし……た」
「約束どおり50パーセントのパンチだ」
アーダの50パーセントパンチが、阿木の顔面にめり込んだ。衝撃で右の眼球が吹っ飛び、ほとんどの歯が砕けた。
そしてアーダの口から飛び出たのは恐ろしい言葉。
「さっきの《連爆拳王》のお返しだからな。あと300発くらいか?」
「ま、ま、まままままままままままっでぇええぇぇぇぇぇぇぇ!!!もう、む、むりでずがぁぁらぁぁぁぁああぁぁ!!!」
ここでアーダの返答は、謎の叱咤激励だった。
「男なら耐えろ! 耐えてみせろ!」
(こ、この女は、頭がイカレていやがるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!)
「や、やめてぇぇえアぎゃぁアアアアぁぁウウウウウああああばばばばばばばぁぁぁぁぁあ………………………!!!」
★★★
アーダがパンチを112発でやめたのは、そのころには阿木はただの肉の塊と化していたからだった。
「ふーむ。焼けば巨大ハンバーグだな」
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