73,〈佐東会〉に会いにいこう。
──主人公の視点──
懐かしの東京に到着。
しかし東京タワーがへし折れていて、地味にショック。
「行こう行こうと思って、ついに一度も昇らなかった東京タワーがー。どうしてあんなことになった?」
アーダが答える。弟子は、おれよりは情報通らしい。
「私も詳しくは分からないが、東京決戦のときにへし折れたようだ」
東京決戦──日本支配を企んだモンスターたちと、それを阻止しようとした冒険者軍による最終決戦のことか。
それが行われていたころ──おれはまだ≪メルズーガ・ダンジョン≫の瓦礫に埋もれていた。
「で、東京決戦とやらはどっちが勝ったんだ?」
「モンスター側の勝利で終わったそうだが、今はどうなっているのか分からない」
都内を見渡したところ、人間たちが何とか生活している様子。ということは、モンスターどもは追い出せたのか?
「元・ひきこもり、ちょっとモンスター界隈の情報を拾って来い」
死滅卿がギョッとした様子で言う。
「………………え、僕が?」
「お前以外、誰がいるんだ?」
「その~。僕、他のモンスターと話すのが苦手で」
なんだこの人見知り。【五魔王族】の1柱とは思えない。
アーダが死滅卿のケツを蹴とばした。
「貴様、まだ〈ホウジョウ四天王〉としての自覚が足りないようだな。師匠の命令は絶対だ。さっさと行ってこい。斬るぞ?」
「わ、分かったって」
死滅卿の奴、すっかりアーダを恐れている様子。
死滅卿を見送ってから、おれは《探索》をかけて目当ての連中を探した。
【変転】前は、関東最大の広域指定暴力団だった〈佐東会〉を。ああいう連中は、世界がひっくり返ろうともしぶとく生き残っているものだ。
〈冬宮殿〉から仕入れた情報では、おれのダイヤは世界の犯罪組織の『どこか』にあるらしい。
ふざけた話だが──まずは母国の犯罪組織から聞き込むとしよう。
〔しかし、なぜあのダイヤは〈探索〉では探せないんだろうな。なぁイチゴ?〕
〔アイテム系は〈探索〉が効きませんからね。ただのダイヤでも同じことですよ〕
〈佐東会〉の構成員を、都内MAPに落とし込んでいく。
そこから末端構成員を排除していき──幹部クラスだけを残す。
「一番近くにいるのは、コイツだな」
《飛翔》で向かった先は、元・高級ホテル。元というのは、今は〈佐東会〉の連中が乗っ取って根城にしているから。
ここの最上階に、目当ての若頭は住んでいるようだ。
というわけで、窓からお邪魔する。
背中一面に刺青を彫った男が、3人の女と性交中だった。真っ昼間からお盛んですね。
おれは寝室内の椅子に腰かけた。アーダは冷蔵庫からコーラの缶をゲット。それから壁に寄りかかり、ゲームボーイでポケモンをはじめた。
はじめにおれ達に気づいたのは、女のほうだった。目があったとたん、悲鳴を上げる。
やっと男も、おれたちに気づいた。慌ててベッドサイドテーブルに置いてあった銃を取りながら、
「な、なんだてめぇら! どこから入ってきやがった!」
《探索:詳細》で名前を確認。
「そんな細かいことはどうでもいいんだよ、酒井さん。おれは、おれのダイヤを取りに来たんだ」
なぜか、これで酒井は理解したらしい。顔面蒼白になり、体が震えて銃を取り落とす。
「つ、ついに来たか……【鬼畜】」
「【鬼畜】って失礼だろ。しかし、おれがダイヤを探していることは知っているようだな。犯罪組織の情報網とかがあるのか? まぁいい、話が早くて助かる。で、どこにある?」
「お、おれが知るわけねぇだろ!」
「まぁ、知ってたら驚きだな。とりあえず、あんたのところのボスと会おうか。〈佐東会〉の会長さんに」
「ま、まて。か、会長もあんたのダイヤの在処なんか知らねぇんだ。〈佐東会〉は無関係だ」
「だから、それを会長さんに確かめて──なんだお前、時間稼ぎしていたのか」
酒井がニヤッと笑う。
「い、いまごろ気づいても遅いんだよ。〈佐東会〉を舐めんじゃねぇぞ。誰が東京を支配していたモンスターどもを駆逐したと思ってんだ? 冒険者でも自衛隊でもねぇ。〈佐東会〉が誇る直参、武闘派でならしている阿木組だボケぇぇぇぇ!」
酒井の口の中に右手を突っ込んで、舌を引きちぎった。
「あぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!」
「ボケとか言うな。言葉は人を傷つけるんだぞ」
アーダがゲームボーイのかわりにチェーンソーを召喚して、
「師匠。下階から敵がやって来るようだ」
「阿木組とかいう奴らか。困るんだよなぁ、暴力が仕事のヒトたちは」
悲鳴がうるさいので、酒井の顔を平手打ちする。
顔の上半分が粉砕したので、下あごだけがだらりと残った。
「何たって、おれは平和主義者だから」
するとアーダがお腹を抱えて笑い出した。
おれは唖然として、アーダを見やる。
「なに笑ってるんだ?」
アーダはハッとして、
「師匠……! 冗談ではなかったのか!?」
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