72,「師匠! 残酷世界旅だな!」。
──主人公の視点──
ドロシーが戻ってきて、いきなり言った。
「尊人さん。結婚式を挙げていただけないようでしたら、わたくしも切り札を出させていただきます」
「ドロシー。その手の脅しには屈しないぞ。お前がまた暴れるようなら、おれは容赦なくカード化する準備がある」
するとドロシーは両手で顔をおおって、しくしくと泣き出した。
「わたくし、悲しくて悲しくて涙が止まりません……」
え、これが切り札?
「な、泣くな泣くな! 分かった結婚式をやろう、ぜひやろう!」
シェイクのお代わりを飲みながら、イチゴがしみじみと言う。
「チョロいですね、タケト様。恐ろしいほどに、チョロいです」
ドロシーが晴れやかに言う。あれ、涙はどこにいった。
「尊人さんなら、そうおっしゃってくださると思っていました」
「……」
何か取り返しのつかないところに来てしまった気もするが、もう考えるのもメンドーだ。
「で、どこで挙げる?」
「実は、結婚式を挙げる前に赤ちゃんを産みたいと思います」
「そんなの何か月も先になるじゃないか」
「わたくし、10日後には出産いたしますので」
「……え、10か月じゃなくて?」
「これも敏捷性∞ゆえのことですわ」
「そんなところにも敏捷性∞の影響が!」
「ですので、尊人さん。やり残したことがおありでしたら、いまのうちに清算してきて頂きたいのですが?」
「お前のそばにいなくていいのか?」
「はい。そのかわり10日目には、わたくしのもとに戻ってきてくださいね」
やり残したことか──ダイヤの件しか思いつかん。
「じゃ、お言葉に甘えよう。何か緊急事態があったら《念話》で伝えてくれ。瞬間移動ですぐに戻るから。じゃイチゴ、行くぞ」
「はい、はいで~す」
イチゴがおれの脳内に戻る。
我がダイヤ。
≪樹海ダンジョン≫完全攻略の褒賞として得た1112カラットのダイヤモンド。しかし、いまはこの世界のどこかに行ってしまっている。
〔ところでイチゴ、今更ながら思ったんだが──〕
〔はい?〕
〔あのダイヤは、≪樹海ダンジョン≫完全攻略の褒賞なんだよなぁ。にしちゃ、ショボくないか? そりゃぁ70億相当のダイヤかもしれないが、S級ダンジョンの褒賞だぞ〕
〔えー。タケト様、あのダイヤに取り憑かれているくせに〕
〔いまのは客観的な話だ〕
〔あのダイヤはですね、ドルゾンの隠し金庫からパクったものなんですよ。本当は別の褒賞アイテムがあったんですけど、年末の大掃除で紛失……ではなく、すぐには取れないところに保管してしまったので〕
コイツ、本当の褒賞アイテムを失くしやがったのかぁ。
にしても、ドルゾンの隠し金庫にただのダイヤがねぇ。いくら1112カラットといっても【五魔王族】がわざわざ金庫に保管するほどのものかね。
まぁ、どうでもいいか。
≪万里の長城ダンジョン≫に瞬間移動。
アーダが骨董品のゲームボーイで、熱心にポケモンをしていた。
「師匠、フシギダネが進化のたびに可愛くなくなる」
「行くぞ、アーダ。世界中の犯罪組織を潰してでも、今度こそおれのダイヤを取り戻す」
とたんアーダが目を輝かす。
「師匠! 残酷世界旅だな!」
「あー、そうだな。すぐ出れるか?」
「まて師匠。最後の四天王も同行させよう」
と言って、死滅卿を引きずって来た。
「やだやだ! 僕はどこにも行かないぞ! 離せ~!」
「え、それ連れていくのか?」
「師匠。いまこそ四天王を揃えるチャンスだぞ。あとはソフィアと『四天王最弱』の汐里を捜すだけだ」
「そうだなぁ。アイツらに結婚報告しなきゃならんし……」
「まずはどこに行くのだ、師匠?」
「日本」
★★★
──【超人類】ご一行の視点──
オギルニアス:「アレの在処は分かったのか?」
マルギバナ:
「A級ラスボスを拷問し、情報を引き出しました。アレは【樹海ダンジョン】に保管されていたとのことです。しかし現在、≪樹海ダンジョン≫は吹き飛ばされております」
ルナーサ:「あらあら~。その口ぶりじゃぁ、ダンジョンの残骸からもアレは発見できなかったのね~?」
マルギバナ:「はい。すでにアレは、何者かに持ち出されたあとでした」
オギルニアス:
「何としても探し出すのだ! 〈無神〉との戦争に勝利するためにも、我々には何としてもアレが必要だ!
かの【埋もれた兵器】が一つ、〈滅びのダイヤ〉が!」
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