71,マリッジブルーなドロシーさんvs【超人類】ロビラス。
「尊人さん、『大草原の小さな家』というドラマをご存じですか?」
「昔の海ドラだろ。見たことはないが」
「わたくし、あんな感じのお家に憧れていまして。大自然の中にぽつんと建つ一軒家。そして家族が寄り添って、慎ましく幸せに暮らしていくのです」
「まった。つまり、田舎に住むのか? 徒歩圏にコンビニがない生活は厳しい」
「瞬間移動されたら良いかと」
「そういう問題じゃないだろ」
ドロシーとマイホームの話を始めたとたん、いきなり暗礁に乗り出した。
シェイクを飲みながら聞いていたイチゴが言う。
「お二人、結婚式とか挙げるんですか?」
はからずも、おれとドロシーが同時に答える。
「そんなもの挙げるわけがないだろ」「もちろん素敵な挙式を致しますよ」
おれとドロシーは同時に、「え?」という顔をした。
「あのな、ドロシー。大事なのは子育てだ。結婚式なんかいらないだろ」
「わたくし、3歳のときからウェディングドレスを着る日を夢見ていました。尊人さんでも、わたくしの夢は奪えませんわ」
ドロシーから漆黒のオーラが漂いだす。周囲のお客たちが体調を崩し出した。
「とりあえず、呪い系のスキルを垂れ流すな。お客さんに迷惑だろ」
イチゴがお笑い番組を見ている顔で言う。
「これは退屈しないですね~」
ドロシーが席を立った。
「頭を冷やしてまいります」
★★★
──ドロシーの視点──
ドロシーは重たい吐息をついた。
尊人との子を授かったのは喜ばしいが、これからの生活に一抹の不安を感じ始めて。
(もしや尊人さんとは価値観が違うのでしょうか? 結婚式を挙げる気がないなんて)
《飛翔》して、風を感じながら飛んでいく。
ふと下方の大通りが騒がしいのに気づいた。
地上から数メートルのところに球体が浮かんでおり、軍隊がまわりを囲んでいる。その中には冒険者の姿もある。
さらにそれを遠巻きから、モンスターたちも見守っている。
あの球体は、人類ともモンスターとも無関係らしい。第三の勢力。
しかし──
マリッジブルーないまのドロシーには、まったく興味がないことだ。
それで別の方向に飛んでいこうとしたのだが──
ふと気づく。
球体のそばに、ウェディングドレスの販売店があるではないか。
(ウェディングドレス、試着できるでしょうか?)
球体とか無視で、ウェイディングドレス店の前に降り立つドロシー。
そのタイミングで、球体から【超人類】の男がひとり現れた。
その男は、ドロシーのもとに歩いてくる。
「そこの女。貴様、すでに人間ではないな? モンスターに身を堕としたか」
ドロシーは渋々ながらも視線を転じた。
「わたくし、あなたに興味はございません」
「オレの名はロビラス。この地球の新たな支配種族の一人だ」
「そうですか」
ドロシーは店内を見やったが、従業員はいないようだ。球体のせいで避難したのだろうか。できればドレス選びに、アドバイスを受けたいのだが。
そのとき気づいた。
やはり自分は結婚式を挙げるつもりだし、何としても尊人を説得するのだと。
(夫婦たるもの、話し合うことが大事ですわね)
尊人のところに戻ろうと《飛翔》。
ところが片足をロビラスにつかまれ、路面に叩き付けられた。
「ロビラスさん──でしたか。いったい何をされるのですか?」
「モンスターは駆逐する。それが我々【超人類】の目的だ。ゆえに死ね、女よ。食らうがいい、《神罰の杭》!!!」
神々しく輝く杭が放たれ、ドロシーの腹部に当たる。防御力∞が、たやすく弾き返す。
ロビラスが驚愕。
「な、なんだと! 我が《神罰の杭》が効かぬだと? 99999の防御力さえ突破する、我が最強の一撃を!」
ドロシーは立ち上がった。腹部をさすってから、ロビラスを指さす。
「あなた──」
「な、なんだ?」
「わたくしの、赤ちゃんに、何かあったら──どうしてくれるのですか!!」
《闇の音色の刃》で、ロビラスの四肢を切り裂く。
ばたりと倒れる達磨になったロビラス。あまりの急展開についていっていない。
「な、な、何が起き──」
ドロシーは《魔王の右手》を発動。どんなに高い防御力だろうと、《魔王の右手》は無効化して抉る。
ロビラスの心臓を抉りだす。
「な、な、なんなんだぁぁああ!!! お前はぁぁぁぁああああああああ……………!!」
「妊娠した女性のお腹を攻撃するとは──この鬼畜。恥を知りなさい」
心臓を握りつぶした。
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