70,子煩悩なパパになれ。
〔避妊されたんですか?〕
北京のマクドで朝マックしていたところ、イチゴが不意にそんなことを言ってきた。
〔はぁ?〕
〔ですから、避妊ですよ。わたし、案内係として思うわけですよ。性教育は小さいときからしなきゃダメ〕
昨夜の記憶がないという時点で、アウトな気がしてきた。
〔お前さ、おれの記憶を見てるんだろ。どうなんだ? 昨夜のおれはちゃんとゴム様を付けていたのか?〕
〔いま思ったんですけど、タケト様にゴム様って役に立つんですかね? ステータス∞ですし、ゴム様なんか簡単に突き破るのではないかと〕
〔そんなとこまで∞なのか!〕
〔待ってくださいよ。つまり、ステータス∞と性交できるのはステータス∞だけということでしょうか? ステータス∞と性行為をして生き残るためには、∞の防御力が必要なのでは? これは学術的に興味がありますね。こんど論文でも書きましょうかね〕
スマホにソフィアからの着信があった。
「ソフィア! 何だか知らないが、いまはそれどころじゃないぞ!」
「えーと北条さん。別世界から来た【超人類】が、地球人類を奴隷にすると言っているのだけど」
「よくある話だろ!」
ふいに《警報》が発動。
「だからそんな場合じゃないって──」
《跳躍》でマクド店舗の天井を突き抜け、北京の上空へ。
そこに出現した狂い首に、《巨剣体罰》を叩きつけ──
「──言ってるだろうが!」
ぶっ殺す。
落下して席に戻った。
イチゴが脳内から出てきて、目の前の席に腰かける。すらりとした肢体、豊かな胸、雪のように白い肌。纏っているのは、純白の薄い衣だけ。
美女が薄着で、ひと目を引きすぎ。
「イチゴ、なんで出てきたんだ?」
「わたしも朝マックすることにしました。あと、面白いものが来そうですよ」
「狂い首だろ。いま殺した」
「いえ、あの首モンスターじゃないんですよねぇ」
「まぁなんだっていいよ」
店内にお客が入ってきたと思ったら、ドロシーだった。
この女を自由にさせておくのもどうかと思うが、寝ちゃった相手をカード化するのも抵抗ある。
「尊人さん、こちらでしたか。そちらの方は?」
ドロシーの視線がイチゴへ向けられる。そういや直に会うのは初めてか。
「案内係のイチゴ」
実際のところ、ドロシーははじめから正体は分かっていたのだろう。
「あなたがイチゴさんでしたか。レモンからお話はうかがっておりますよ」
「レモンさん、わたしのことベタ褒めしていましたか~?」
また《警報》が鳴るが、無視する。
せっかくドロシーが来たのだから、ここは確認しておかねばならない。THE避妊のことを。
「ドロシー。ひとつ聞いておきたいんだが──」
またスマホにソフィアからの着信。
「ソフィア。いま取り込み中なんだが──」
「北条さんはいま中国にいるのよね? ≪万里の長城ダンジョン≫にいるの?」
「いや北京で朝マック中」
「例の【超人類】を乗せた球体が、世界各地で出現しているわ。北京上空にも。そこから確認できる? よく聞いて北条さん、【超人類】のレベルは桁外れよ。本部にいた武闘派の冒険者でも歯が立たなかったわ。だから北条さん──」
「あとでかけ直す」
通話を切ってから、おれは単刀直入に言った。
「ドロシーよドロシー。昨夜、避妊したっけ?」
ドロシーが身を乗り出してくる。甘い花の香りをさせながら、おれの耳元で囁いた。
「わたくし、妊娠いたしましたわ、尊人さん。あなたとわたくしの子供です」
「こんな早くわかるものなのか!」
「昨夜、赤ちゃんできるスキルを使いましたので」
「避妊じゃなくて、そっちを──!!」
めまいがした。
子供なんかできたら、もう死ねないじゃないか。これからは父親としての責任がうまれるのだ。
なんてことだ。
あれ。でも悪い気はしないような。子供が産まれたら、おれも生きる喜びをまた感じられるかもしれない。うん子煩悩なパパになろう。
あとで知った話だが。
この日、地球は【超人類】と〈無神〉とやらの最終決戦のフィールドにされたらしい。
「そんなことより、マイホームを建てるぞ」
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