66,アーダ、喜び勇んで拷問モードPART1。
お祝い品を全て、《収納》しておく。
プレミアビールをちびちび飲んでいると、アーダがいないことに気づいた。
「なぜ、あいつは勝手に消えるんだ?」
見つけたのは、死滅卿の引きこもり部屋でだった。
「アーダ。そんなところにいたのか」
「師匠。いま、この死滅卿に言い聞かせていたところだ。今日から貴様は〈ホウジョウ四天王〉の1柱になるのだと」
「四天王ごっこ、まだやっていたのか」
「いまこそすべての四天王を、この≪万里の長城ダンジョン≫に呼びよせるときでは?」
「残りの四天王というと──汐里とソフィアか」
そういえば汐里にはまだ、無事だったことを伝えてないな。怒ってなきゃいいが。
《警報》が反応し、この≪万里の長城ダンジョン≫に侵入があったことを知らせてきた。
〔妙だな。いま≪万里の長城≫は閉鎖してあるはずなんだが──〕
〔閉鎖を突破してきたということは、それなりの手練れですね〕
プレミアビールをお代わりしてから、侵入者とやらを出迎えに行く。
とにかく長大なダンジョンの中層部で、そいつと遭遇した。
青い髪の男が、微妙にポーズを取って待っている。背中からは黒い翼を生やしているので、モンスターらしいが。
で、そいつが言うわけだ。
「なるほど。君が北条尊人か」
『なるほど』ってなんだ。
そして、ウザいくらいに興奮してくるイチゴ。
〔タケト様、タケト様! あれは【三魑魅族】が1柱、タルジ様ですよ! わぁ。サインもらってくださいっ!〕
〔断る〕
タルジとやらが、やたらと上から目線な口調で言ってくる。
「君はこの最大のダンジョンを支配し、次は《次元の狭間》に攻め入ろうとでもいうのかな?」
《次元の狭間》ねぇ。また新しいキーワードか。何のことだか知らんが、それについて尋ねるのも面倒だ。
「いや攻め入る気とかゼロだから。というか放っといてくれる?」
「残念だが、そうはいかない。君にはここで死んでもらおう、北条尊人」
「あんた、おれにボコられるフラグ立ててるぞ」
「まぁ落ち着きたまえ。君の戦闘力が異次元なのは知っている。だから僕は搦め手を使わせてもらうことにした。少しばかり悪辣な方法で──君が決して、僕を攻撃できないようにしたのさ」
そこまで自信満々に言われると興味が湧いてくる。
「どんな手を使ったんだ?」
「人質を取ったのさ」
世紀の発明をしたように、ドヤ顔で言ってくるタルジ。
イチゴは本当に、こんな奴のファンなのか。
「人質ねぇ」
人質に取られて困る奴って、誰だろ。とりあえずイチゴだったら、スルー。
〔ちょっとタケト様!〕
あとはソフィアと汐里か。しかしソフィアは、何だかんだのSランク。汐里にも女王蜘蛛がいる。2人とも、そう簡単に人質になりはしないと思うが。
「誰だろ?」
「僕のユニークスキル《忘れられない人》は、標的と因縁深い人物を自動的に捕えることができるのさ。北条尊人! 君と因縁深い女性は、すでに僕の手の中だ!」
「だから、誰だって?」
「見るがいい!!」
タルジが水晶玉を突き出してきた。その中に、人質が映っているようだ。
覗き込んでみた。確かに10代の女が囚われている。つまりJKが。
うーん。なんだかなぁ。
「タルジとかいったか。お前、本気か? 本気で、この人質でいいのか? 後悔しないのか?」
勝ち誇るタルジ。
「ふっふっふっ。動揺しているようだね。さすがの北条尊人も、人質には弱かったようだね!」
「はいはい。まともに相手して損した。じゃぁな」
おれが踵を返して歩き出すと、タルジが慌てだす。
「ちょ、ちょっと待て! 人質はどうするんだ! おい君、状況が分かっているのか! この人質は、僕の気分次第で八つ裂きにできるんだぞ!」
「知るか。そんな人質、煮るなり焼くなり好きにしとけ」
ふいに得心がいった様子で、イチゴが笑い出す。
〔あー! 人質のJK、見たことのない顔だと思っていましたが──。このJKなんですね、タケト様を痴漢冤罪でハメたのは!〕
〔まぁな。因縁深いというのは、間違っちゃいなかったが〕
〔これは傑作です! タルジ様も知らずに、とんでもない女を人質に取りましたね! あ、笑え死ぬぅ!!〕
脳内で笑い転げるな。
★★★
──アーダの視点──
師匠が去り、取り残されたタルジが呆然自失としている。
そこにアーダは現れた。
「【三魑魅族】のお前。その人質は、このアーダがもらおう」
「はぁ?? なぜ?」
アーダは拳を突き上げ、『やるぞー』という気持ちをこめて言った。
「どうやらその人質は、かつて師匠を陥れた張本人のようだ。よって弟子であるこの私が、師匠にかわって復讐を果たす。
つまり、拷問して殺すのだ!」
タルジが頭をかかえた。
「はぁ?? 君たち、頭おかしいだろ!?」
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