65,ラスボス就任おめでとう。
気絶した死滅卿を引きずっていって、コイツの部屋にぶん投げておく。
〔首を引っこ抜かないのですかタケト様? 盛大にやりましょうよ~〕
〔おれはな、いま殺さずの誓いを立てたのだ〕
〔3秒しか持たない誓いを立てないでくださいよ〕
〔失礼だな5秒は持つ。とにかく死滅卿は保険だよ〕
〔保険ですか?〕
〔考えてもみろ。コイツが最後の【五魔王族】だぞ。コイツがくたばったら、誰がおれの人生に引導を渡してくれるんだ? よって死滅卿はストックしておく〕
〔死滅卿も、タケト様にかすり傷も負わせられなかったのに?〕
などとイチゴと話している間に、死滅卿が目覚めた。ちなみに死滅卿はすでに最終形態は解かれ、元の若造の姿。
で、おれを見るなり上ずった声で言った。
「う、うわぁぁ! ち、近づくなぁぁぁ!」
「死滅卿。お前はまだ、自分の力を全て解放しきっていない」
「え?」
「たぶん、まだ6割ぐらいだな」
テキトーだが。
「いつの日か、お前は最終形態の次に行くだろう。すなわち、超最終形態だ。安心しろ。そのときまで地獄の特訓でしごいてやる」
〔タケト様、タケト様。死滅卿は『地獄の特訓』と聞いても、安心した様子はありませんよ。顔面蒼白ですし。だいたいどこの世界に、自分を殺せるように『地獄の特訓』したがる人がいるんですか〕
〔イカレた案内係に、ステータス∞にされた不幸な男〕
〔初耳です〕
「とりあえず死滅卿、『ダンジョン管理権』を寄こせ」
鍵型の管理権を得たことで、この≪万里の長城ダンジョン≫の支配権を得た。
〔パンパカパーン! ついにタケト様は、S級ダンジョンのラスボスになりましたねー!!〕
〔管理するということは、まぁ形はそうなるのか〕
〔史上最強のラスボスの出来上がりですっっっっっ!!!〕
やたらと興奮しているイチゴ。
初めからこの着地点が狙いだったのでは、と疑いたくなるが。
〔まずアーダを呼びよせるか〕
《探索》で、オーストリアに置いてきたアーダを感知。《転送》で、強制瞬間移動させる。
「師匠? ここは一体?」
「≪万里の長城ダンジョン≫の最下層だ。話せば長いんだが──」
これまでの一部始終を話したところ、アーダは大いに感動していた。
「ダンジョンを壊滅させているのが師匠なのは分かっていたが──まさか、そんな素晴らしい事態になっていたとは。師匠! ラスボスのご就任、おめでとうございます!」
「いや、本当にラスボスになったわけじゃないからな。地上のモンスターどもをこのダンジョンに収容するため、仕方なく『管理権』をゲットしただけで」
ふいに最下層内に、ピンポーンという音がした。すなわちインターフォンの音色。
「来客者か?」
「お届け物のようだ師匠」
「お届け物?」
「転送を許可すれば、荷物が送られてくる」
「へえ。何だか知らんが、許可しよう」
爆弾でも送られてきたのかと思ったが、どうやら違うらしい。箱を開けて驚いた。
これは──プレミアビールだ。
「メッセージカードも付いているな」
『ラスボスのご就任、おめでとうございます! あなたの素晴らしい船出を祝して、ささやかではありますが贈り物をさせていだたきます! 梵星S級ダンジョン・ブルバードより』
いろいろツッコミたいことがある。
だがその前に、ピンポーンの連打、連打。
「なんだ、またか? 分かった分かった、ぜんぶ許可してやる!」
とたん何千という荷物が転送されてきた。ざっと見たところ、ぜんぶ贈り物だ。飲食物とか実用品とか。
すべてにメッセージカードが添えられている。初めのものと内容もほぼ同じだ。
すなわち、『ラスボス就任おめでとう!』。
そして送り主は全て、どこかのダンジョンのラスボスだった。
「だから就任してないって言ってるだろうが! だいたい梵星とか何とか、どこだ?」
〔タケト様。まさかこの地球だけが、知的生命体が生きる世界と思っていたわけではないですよね?〕
〔つまり、別の惑星にも知的生命体がいるって?〕
〔そうです。ただ別の次元宇宙にある惑星ですがね。異世界と考えれば、すんなり理解できるかと〕
〔はいはい異世界ね。異世界からお祝いの山ね。もう何が来ても、驚きませんよ。ウェルカーム〕
お。
このプレミアビール、美味いな。
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