64,舐め腐った態度には──これだ。
最終形態モードに突入する死滅卿。
形態変化の途中で攻撃して、死滅卿の「な、なんだとぉぉぉ」という顔を見たい。そんな欲望を抑えるおれ。
やがて形態変化が終了し、死滅卿は訳のわからんモノになった。
上半身だけ肥大化し、下半身は機械でできた触手がたくさん。
あと頭部は眼球がなくなっており、かわりに眼窩には黒い渦があった。
〔タケト様。あの黒い渦の眼窩が、死滅卿の売りですよ。あれは〈死眼〉と呼ばれるもので、見た者の魂を吸い取るのですよ〕
〔へぇ。魂を吸い取られるのかぁ〕
そんな〈死眼〉を眺めていたら、死滅卿が勝ち誇ってきた。
「最終形態の僕の〈死眼〉を見たものは、もう逃れられないぞぉぉ! 僕に魂を吸い取られるがいい! ハッハッハッハッ!!」
その説明、もうイチゴから聞いたんだけどね。
〔あのさイチゴ。さっきから〈死眼〉とやらと目をあわせているんだけどな。何も変化がないぞ〕
〔やっぱりタケト様には効果がないんですかねぇ〕
〔あ、まて。何か来たぞ。何か──おお〕
おれの魂が飛び出して、死滅卿の〈死眼〉へと吸い込まれていく。
「ハッハッハッ! 僕の勝ちのようだなぁぁ! 〈死眼〉の黒い渦に飲まれて、消滅するがいい!!」
おれの魂は、〈死眼〉の黒い渦へと飛び込んだ。そして──
……
……
……
ヒマだ。
とくにやることもないので〈死眼〉から出て、自分の肉体に戻る。
〔あ。お帰りなさいタケト様〕
〔ただいま。せっかく魂を吸い取らせてやったのに、とくに何もなかった〕
なんか驚愕している死滅卿。
「な、なんだとぉぉぉぉ!! なぜ魂が元の肉体に戻っているぅぅぅ! 吸い取った魂はすべて、〈死眼〉の中で消えるはずなのにぃぃぃぃ!!!」
〔アイツ、テンション高いなぁ。若さだな〕
〔どうやら〈死眼〉の黒い渦に吸い込まれた魂は、普通なら消え去るみたいですね。ただタケト様の魂は、ステータス∞なので例外だったみたいです〕
おれは魂までステータス∞なのかい。
「クソぉぉぉ! 僕は認めないぞぉぉぉ!!」
死滅卿の機械触手が動き出す。この機械触手だが、300本はある。それら全ての先端が、今やおれに向けられた。
「で?」
若さゆえの柔軟性か。死滅卿は〈死眼〉が破られたショックから立ち直り、またも勝ち誇ってきた。
「僕がこれから何をするか教えてやろう。《禍つ球》という絶命スキルがある。これはどんな防御力をも無効化し、その肉体を溶かす球を放つのだ。
それが一発だけならば、貴様にも回避のチャンスがあるだろう。しかし僕は、全ての触手から《禍つ球》を放つ。すなわち、300発だぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
「まて、まて。ひとこと言っておきたいんだが」
「命乞いなど聞いてやらないよぉぉぉぉぉぉ!!!」
というわけで《禍つ球》300発が放たれてきた。微妙に時間差をつけて。
おれは全身ですべての《禍つ球》を受ける。
〔《禍つ球》ねぇ。これ、ドルゾンも使ってきたよな〕
〔使ってきましたねぇ〕
〔当時でも、おれはノーダメージだったんだよな〕
〔そうですねぇ。あのころよりタケト様は強くなっちゃいましたし、ノーダメージどころではないですね。逆に全身マッサージの効果が有りですねぇ~〕
〔言われてみると気持ちいいような〕
やがて《禍つ球》を全弾放ち終わり、肩で息をしている死滅卿。
「き、効いたかな……?」
「だからそれを言いたかったんだよ。《禍つ球》とか効かないから止めておけと」
無傷のおれを見るなり、死滅卿が地団駄を踏み出した。機械触手で。
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう! どうしてダメージを食らわないんだぁぁぁぁぁぁ!!! ふざけろぉぉぉぉぉよぉぉぉぉぉ!!!!!」
ふいにある記憶が蘇る。
まだ痴漢冤罪にはめられる前、おれが企業に勤めていたころの記憶だ。
後輩の新入社員の中に、死滅卿みたいな奴がいた。少しでも思い通りにいかないと不機嫌になる若造が。
あのとき、おれは先輩として優しく諭そうとしたものだ。
しかし、あの対応は間違いだった。
なぜならその後輩は、先輩のおれを舐め腐っていたからだ。
今なら正しい対応がわかる。
とりあえず、ボコボコにするところからだろ。
「えーい、うるさい!」
死滅卿の機械触手をつかみ、片っ端から引きちぎっていく。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと思い通りにいかないくらいで、なんだその態度は!」
「痛い痛いやめでぇぇぇぇぇ!!!」
死滅卿の触手を引きちぎり終わったところで、こんどは奴の上半身を引きずり下ろす。
そしてその舐め腐った顔面に、拳を叩き込んでやった。
「ぐぎゃぁっっ…………!!!!」
「少し反省しろ」
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