63,煽られる死滅卿。
──主人公の視点──
懐かしの≪樹海ダンジョン≫も吹っ飛ばそう。
その前に、イチゴから要請があった。
〔タケト様。私物を取ってくるんで待ってくださいよ〕
〔私物なんか置いてあったのか〕
ダンジョン最下層の壁に、隠し扉があった。その向こうに、ネカフェの個室を思わせる空間。これがイチゴの自室か。整理整頓がされていないので、モノで溢れている。
面倒なので、すべてを《収納》しておいた。
それから《宇宙破壊》。
これで≪万里の長城ダンジョン≫以外は、すべて跡形もなく吹き飛ばしたことになる。
〔今後はどうされるんですか、タケト様?〕
〔とりあえず地上のモンスターどもを、≪万里の長城ダンジョン≫に入れるつもりだ。魔神として呼びかければ、けっこうな数のモンスターが言うことを聞くだろう。それに万里のダンジョンは第9999階まであるんだから、スペース的には余裕だろ〕
〔それでも混みこみになりそうですけどね〕
〔いや、おそらくおれの呼びかけに応えるのは、全モンスターの半数くらいだろ。それくらいなら収容スペースは問題ないはずだ〕
〔残りの半数はどうされるんです?〕
〔ラスボスとフロアボスは、おれが片付ける。残りは冒険者と軍隊にやらせればいい。そこまでやって、やっとダイヤを取り戻す段階へ行けるわけだな〕
〔タケト様。その計画ですけど、はじめに難所がありますよ。地上のモンスターたちを≪万里の長城ダンジョン≫に収容するためには、タケト様が『ダンジョン管理権』を得なければなりません〕
〔『ダンジョン管理権』? アイテムか? どこにあるんだ、それは?〕
〔普通はそこのラスボスが所持していますね。見た目は鍵なんですけどね。現所有者のラスボスから譲渡されるか、または現所有者が死亡する必要があります〕
〔へえ。冒険者が『ダンジョン管理権』をゲットしたという話、聞いたことがないがな〕
〔当然ですよ。『ダンジョン管理権』を行使できるのは、モンスターだけなので。今のタケト様ならば、オーケーですけどね。どこに出しても恥ずかしくないモンスターですっ!〕
『どこに出しても恥ずかしくないモンスター』というのは、褒め言葉なのか?
とりあえず魔神としての称号を利用しきるまでは、『モンスター』でいるとしよう。『ダンジョン管理権』も使えるわけだしな。
≪万里の長城ダンジョン≫最下層まで瞬間移動。
ところが最下層はもぬけの空だった。
「そうか。≪万里の長城ダンジョン≫ラスボスも、地上に出ているのか」
〔いえ、そんなことはないですね。ここのラスボスである死滅卿に限っては〕
〔どうしてだ?〕
〔引きこもりだからですよ、死滅卿さんは。≪万里の長城ダンジョン≫を任されてから、ずっーーーと引きこもっていますので〕
〔ダンジョンの中にいてさらに引きこもるって、凄いな〕
しかし、引きこもりならば戦闘も嫌いだろう。これは話し合いで『ダンジョン管理権』を譲渡してもらえるかもな。
ところが──寝室のドアを蹴破ったところ、死滅卿にブチ切れられた。
ちなみに死滅卿の姿形は、16歳くらいの若者。肌は青く、オーガのような角を生やしてはいるが。
「貴様ぁぁぁ!! 僕の安逸な生活を乱す者は、万死に値する!!!」
〔あれ、キレられたんだが〕
〔タケト様、タケト様。寝室のドアを蹴破られたら、誰でも怒りますって〕
死滅卿が勝手に交戦に入る。
「くらえ、僕が誇る即死チート攻撃、《暗黒の極地》を!!!」
即死チート攻撃ねぇ。
まぁ殺してくれるんなら、別に死んでもいいんだ。ダイヤだけは心残りだが、それくらいは我慢しよう。
しかしなぁ、殺してくれるか?
《暗黒の極地》って、どこかで聞いたことがあるし。
死滅卿の右掌から、暗黒光線が発射される。
とくに避ける気もしなかったので、顔面で受けた。
あっ、これは、この感触は──!
顔のマッサージを受けているみたいで、気持ちいい。
それで思い出したが、《暗黒の極地》とは、かつてドルゾンも使ってきた殲滅魔法だ。
即死チート攻撃と宣伝したくせに、おれに打ち身しか与えられなかった。いや、それでもまだダメージは受けたのだ、あの頃は。打ち身だけど。
それが今や、マッサージとはなぁ。もう死ぬの絶望じゃないか。
《暗黒の極地》を放ち終わった死滅卿が、肩で息をしながら言う。
「ど、どうだ?」
死滅卿から期待の眼差し。
しかし、おれがかすり傷も負っていないので、あからさまに落胆してきた。
だがこの死滅卿、【五魔王族】の中ではドルゾンの次くらいには骨がありそうだ。煽ってみるか。
「そんなものか、死滅卿?」
「バカにするなぁぁ!! 僕の本気はなぁこれからだぁぁあ! 最終形態を見せてくれる!!!」
ガキっぽいのが玉に瑕だが。
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